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決闘部  作者: ハルキューレ
天下一部活動会
14/14

ターン13 メタカード何枚積める?

「つまりあれはちょっと強めの場酔いみたいなものです」

 俺たちは体育館から決闘部の部室まで逃げてきた。

「イヤイヤ強すぎて軽い催眠だよねアレ。てか君、何者? 演劇部なのは何となく解るし、助けてくれたことは感謝するけど」

 その辺は早い段階ではっきりさせておきたかった。

「申し遅れました。俺は演劇部一年、暁 哲夫です」

「なんだ、俺やアキノとタメじゃん」

 地域最大規模の学校なだけあって、同じ学年でも全く知らない人というのは少なくはない。

「なら敬語はいらないな。部長やってるって聞いたからてっきり先輩かと思ってた」

 ウンウン。敬語はいらないよね。それよりも……。

「それで赤堀、ウチの部活、いや部長のことなんだが……」

 それよりも……。

「その恰好は新手のギャグなの? 」

 引き金は二度引かねぇ、とでも言いたげな荒野のガンマンのような格好に思わず突っ込んでしまう。

「これはふざけている訳ではない。ちゃんとした理由があるんだ」

 必死に抵抗するあたり、本人もその恰好を良しとしていないことがよくわかる。

「さっきも言った通り、部長のアレは場酔いの一種みたいなんだ。原理は分からないが部長の演技を見るといつもよりセンチになるらしい」

 原理分かってないんだアレ。

「それに対抗するためには、向こうのペースに乗らない事、つまり時代劇には西部劇って寸法さ」

 場酔い対策に場違いの服装? 分からなくはない。

「という訳で赤堀もホラ」

 ん? 何その世紀末っぽいゴロツキが着てそうな服装。ヒャッハーするの? 俺ヒャッハーしちゃうの?

「なにためらっているのさ。彼女たちは仲間じゃないのか? 」

 そうだ、今俺が助けずに、誰が皆を助ける? 俺しかいないじゃないか。

「仕方ない、あのバカに、誰が本当の主人公か見せつけてやるか。それに、演劇部の先輩方にも義理はあるしな」

 俺は男泣きをする暁から荒々しい衣装を受け取った。着替えている間に聞いた暁の話によれば、どうやらあの能力は体育館までにしか効かないらしい。

 俺が着替えていると、力強く扉が開けられた。

「おうお前ら、ちゃんと練習してるか? 職員会議で遅くなっ……」

 何も知らずに部室に入ってきた室岡先生が固まるのも当然だろう。目の前にはガンマンと、特徴的な断末魔を叫びそうなやつが目の前にいるのだから。にしても相変わらずこの人の威圧感すごいなぁ。

「すまんな。教室を間違えたようだ。うちの学校にコスプレ部なんてあったか? 」

 まあ、そうなるな。

「ストップ室岡先生! 」

 俺は立ち去ろうとしていた室岡先生を呼び止め、これまでの経緯を話した。途中先生の座っている椅子がミシミシいったり、血管が浮き出てきたのは偶然だろうか?

「大体わかった。あの世界を破壊する」

 前回とオチが大体一緒なの大丈夫か?

「とにかく体育館に行く。そんでもって演劇部をぶん殴る、いやそれは不味いか……とりあえず一喝しに行くぞ」

 男たちは扉を開ける。力強く、荒々しく。

「ヒャッハー! 反撃の時間……あれ、あんたは確か」

 そこに居たのは、綺麗に切り揃えられた前髪。しわの無い制服。校則に一切違反しないその姿は……。

「そう、我こそは雅 無双その人である。待たせたな一般生徒赤堀。ああ大丈夫、事態は把握できている演劇部だろう」

 長い、あと長い。そこに居たのは生徒会長である雅であった。そのマシンガントークに暁は、会長と目を合わせようとはしない。

「なぜそこまで知っているんですか? というか、演劇部のことはどこまで知っているんですか」

 何かきっかけが掴めるかもしれない。なんでもいい。アキノを助けられるのなら。

「落ち着き給え迷える決闘者よ。我もついさっき知ったところだ。佐助の奴が伝えてきてな」

 そういった会長の真上に、黒い影が現れる。

「佐助です」

 その黒い影はどうやってか知らないが、天井に逆さまに吊られている。

「会長これって……」

 もしかしてアレか? ニンニンとか言ったりデッカイカエル呼んだり。

「忍者の佐助だ。生徒会では勿論忍者として働いてもらってる」

 佐助、と呼ばれた彼はカサカサした声でしゃべる。

「佐助です。役職は忍者です」

 役職?

「あれ、決闘部のとこいないの? 忍者」

 いるわけないだろそんなもの!

「とりあえず忍者は後です。知っての通り俺らは急いでいるんで」

 そう、目的を見失ってはいけない。

「ちょっと待ちな赤堀君。佐助」

 その言葉を合図に、黒い影が俺の前に飛び込んだ。

「佐助です。今のままでは行かせられません」

「どいてくれ。急いでいるって言ったっだろ」

「負けるよ、君」

 三十分後、体育館にて。

「先輩方、戻りまし……」

 扉を開けたガンマンの前には、ブルーシートが至るところに張られた青い世界が広がっていた。

「暁君、戻って来てくれたのか」

 以前相馬達の逃亡を手助けしてくれた演劇部員たちが、縄で縛られている。中世貴族の恰好で。

「先輩これって」

「海賊劇だ」

 暁の周りには眼帯姿の部員たちがあふれていた。

「海の上なら俺らに分があるってことよ。野郎ども、やっちまいな」

 ステージ上に姿を見せた歴戦海賊、バミオの号令に、下っ端たちはヨーホーと景気よく応じる。

「部長、俺が何も用意せずにここに来たとでも? 赤堀!」

 暁が上を向き、相馬の名を呼ぶ。そこには宙を華麗に舞うゴロツキ姿の相馬と、黒い影、佐助の姿があった。

「佐助です。投げます」

 投げる、と言うよりかは突き落とされる相馬。そのゴールには、バミオの姿がある。

「覚悟しろバミオ」

 懐からデッキを出した相馬がそれを振り下ろす。

「やったか? 」

 その勇ましい姿は、海賊に囲まれた暁にも確認できた。振り下ろしたデッキが勢いよくヒットする瞬間が。

「佐助です。何か別のものが当たりました」

 暁の隣に降り立った佐助の言葉は正しく、バミオは無傷だ。

「やっぱり来たか」

「お前は私が……父上の仇」

 そこに居たのは女海賊の姿をしたアキノだった。

「や、やった。生き残った。よくやった。さ、俺は今のうちにずらかるぞ。アデュー」

 体制を立て直しキメる所を決めたバミオが出口に向かって走り出す。

「やった。出口だ。逃げられる。勝った」

 バミオの前に出口の光が見える。彼にとっての希望が。しかし……。

「そうは問屋が卸さねぇぞ、外根」

 巨体が出口を塞ぐ。その威圧感に、バミオは腰を抜かす。

「さて、噂によると、お前もカードゲームやるらしいな。先生と戦おうじゃないか」

 目が笑ってない。声も低い。

「い、いいだろう。僕は何でも完璧にこなすバミオだぞ。演劇部部長は無敵なんだ。万が一のために勉強しておいたカードゲームとやらでも無敵なんだ。バミオ強い子負けないぞ」

 かくして、巨人と役者の闘いが始まった。

 数ターンが穏やかに過ぎ、先に動いたのは……。

 「僕のターン。フィールドカード『誰も居ない舞台』を使う。その効果で自身のターンを強制終了」

「佐助です。実況解説です。どうやらあのカード、自身のターン開始時に何かしてくるようですね。自身のターンを強制終了させるデメリットから見て、残しておくのは得策ではないかと」

 バトルフィールドに横向きで残るカード、それがフィールドカードだ。

「俺のターン。『訓練筋肉 ビルダー』召喚。こいつの能力発動だ」

 そう言い室岡が鞄から出したものは……。

「佐助です。むむ、あれは握力計でしょうか? 」

 握力計を右手に持った室岡は、それに力を入れる。

「佐助です。十、二十、どんどん上がっています。止まりません」

 三十代男性の平均握力はおおよそ四十㎏、たいしてこの室岡の数値は。

「五十一か、落ちたな。まあいい。このとき、握力計の十の位を参照する。そして……」

「な、何をするのだ? 」

 身構えるバミオ。その能力とは。

「その数までドローする。今回は五枚だ。昔は六枚引けたのにな」

 バミオの顔が安堵する。

「なんだ驚かせやがって」

 ここで実況解説の目が光った。

「五枚……だと。なんと恐れしい。それに気付いていないのか。どうやら金に者言わせるタイプの初心者だな。あ、佐助でした」

 しかしバミオは余裕綽々。それもそのはず……。

「僕のターン。フィールドカードの効果発動! デッキトップを捲り、役者族ならこのカードを破壊して場に出せる」

 いわゆる踏み倒しである。

「佐助です。踏み倒しは強力なカードを事前にトップに仕込んで初めて真価を発揮する戦術、しかし彼はそれをしていない。嫌な予感がします」

 バミオの踏み倒しに、仕込みは不要だ。

「そうさ。いい役者は仕込み無しでも演じるんだ。その人生そのものすべてがドラマ。華麗に可憐に開演だ! 出てこい、『悲劇の乙女 ヒロインジュリエット』」

 哀愁に満ちた笑顔を振りまき、その少女の人生が幕を開ける。

「佐助です。『ジュリエット』の登場時能力で、『悲劇の男 ヒーローロミオ』を山札、もしくは手札からタダ出しできます」

 少女の隣に、舞い降りる美男子。しかし、二人の手は届かない。

「『ロミオ』の能力で場の自身を破壊することで相手は自身のカードを場から一枚墓地に置く」

 先ほどだした『ビルダー』を墓地に置く室岡。しかし彼は冷静だ。

「更に能力で『ジュリエット』も破壊だ。この時、墓地の『誰も居ない舞台』の能力。場に役者がいなくなると、墓地から復活する。更に『ジュリエット』が破壊されたことでお前の手札を二枚捨てさせる。これにて悲哀の第一部、完結だ」

 涙を流し心中する役者達。そして幕が下りる。

「佐助です。一見無駄の多いコンボに見えますが、彼は手札を一枚しか消費せずに盤面除去と手札破壊を行いました。かなりの手練れかもしれません」

「お次は喜劇の第二部だ。その前に、お客さん、投げ銭、お願いしますね」

 室岡の手札のうち二枚が、ステージに飛んで消滅した。

「どうだ巨人、これが人類の生み出したエモーションだ! 」

「勝ち誇ってるとこ悪いが」

 さっきまで黙っていた室岡の口が動く。それと同時に、捨てられたカードの一枚が輝きだす。

「佐助です。先ほどすっからかんだった室岡先生の場に、何かいます」

「『逆転の筋肉』の能力。このカードが手札から捨てられた時、代わりに場に出す。お前はこれから」

 静かな、張り詰めた空気が流れる。

「これから何も出来ない」

 いつも以上に低い声で告げる室岡に、ターンが回る。

「『逆転の筋肉』を能力で破壊してコスト軽減、手札から『リングの守り人 フェリー』を召喚」

「そんな低いパワーのカード、怖くもなんともない」

「佐助です。いやこのようなパワーの低いカードって大体……」

 佐助の言葉を遮り、急いで自分のターンを始めたバミオであったが。

「何が来ようと関係ない。僕のターン。フィールドカード効果で……来た。最強カード『サウザンド 義経』を場に」

 デッキトップは圧倒的攻撃力と唯一無二の能力を持つカードであった。しかしそれは、トップから動かない。

「どうした、何故場に出ない。何をしている『サウザンド』」

「『フェリー』の能力。誰も手札以外からカードを出せない」

 淡々と室岡が告げる。

「佐助です。役者側は踏み倒し以外の召喚方法は持っていないのでしょう。とても苦そうな顔がそれを物語っていますね」

 バミオがデッキトップに仕込まない理由、それはデッキの大半が切り札級のカードであるからだ。しかしそれは同時に手札からの自力での召喚はほぼ不可能なことを意味する。

「な、何が起きてる……いや、何が起きる」

「何って決まってるだろ」

 ここで今日初めて、室岡が笑った。

「プロレスだ」

 崩れ落ちる舞台。そこには熱狂に包まれたリングが現れた。

「喜べ」

「嫌だ、僕の舞台がー」

 何も起こらないターンは終わり、ゴングは鳴る。

「佐助です。赤コーナ、『筋肉超人 マッスリラー』堂々と入場してきました。みんなのヒーローの登場に、会場はマッスリラーコールの嵐で応えます」

「更に[魔法]筋肉の指名者を発動。相手のデッキトップを見て、それが場に出せるカードなら全ての効果を無視して場に出せる」

「続いて青コーナ『サウザンド 義経ェェェ』今日も自慢の桜吹雪の中からのド派手な登場だ。唸る、唸る、会場は義経コールで唸る」

 先ほどは『フェリー』の能力で出せなかったが、今は全ての能力が無視されている。

「いいのか? 今のお前では、『サウザンド 義経』は越えられない」

 十分な大きさをもつマッスリラーでさえ小さく見えるほど、サウザンドは大きい。

「どうかな? 更に[魔法]頼むぜ筋肉を発動! 自身のデッキトップを五枚見て、その中の魔法を使える」

「生き物中心の脳筋デッキで、そんなカード成功するわけないだろ。せいぜい淡い夢を見てリングに沈むんだな」

 少しの焦りを見せつつも、室岡を煽るバミオの額には、汗が流れていた。

「いいか、本物ってのはなあ、レベルが違うんだよ! 」

 勢いよく捲られた五枚目に、会場の視線と光が集まる。

「佐助です。あの、あのカードは。あまりの強さにデッキに一枚しか入れられない伝説の……」

 制限、それは強きものに与えられた名誉である。

「[魔法]発動。メタリックジム強化合宿! その効果で、自身の手札を全て捨てる」

「プ、なんだ。あれだけ苦労して稼いだ手札を、ここで捨てるとは」

「佐助です。見える、見えるぞ。全てを投げ捨て、黙々と自身を磨き上げたマッスリラーの姿が。二倍、三倍……」

「捨てた枚数分、自身の巨人族一体のパワーを倍にする。今回は六倍だ」

 あれだけ巨大だったサウザンドが、マットに沈む。その姿に、会場は、そして海賊の姿をした演劇部員たちも熱狂した。

 その後は一方的だった。『フェリー』の効果で身動きが封じられたバミオに、ダメージを、筋肉を刻み込む。

 そして……。

「勝者、室岡&マッスリラー!」

「な、なんで僕が……」

 倒れこむバミオの肩を、室岡が支え一言。

「マッスルは、裏切らない」

 室岡&マッスリラーコールの中、巨人は一言。

「あとはアイツだな。しっかりやれよ、部長」

 一方そのころ。

「『白狼の騎士』で攻撃……なぜ、なぜ父上を殺した『赤壁龍』を出さない相馬ァ」

 その言葉に不適に笑う相馬。

「そんな……俺が、アキノに……」

 次回、決着。


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