ターン12 演劇部の世界
「バミオ、どうして貴方はバミオなの」
「おおジュリエット、どうして君はジュリエットなんだ」
西洋貴族の屋敷の背景を背に、迫真の演技が繰り広げられる演劇部が練習中の体育館からこんにちは。秋野原アキノです。
夏休み序盤、私は友達と秋葉原のカドショ巡りに全国大会優勝デッキの研究と最高にJKらしい初動を決めるつもりでいたのに……。皆さん、あのバカがなんて言ったか知ってます?
「夏休みだよ!全員集合! 」
なんでも演劇部から観劇のお誘いだそーで。先輩方は真面目に見てるけど、私にはどーも良さがわからなくて、早い話、眠い。
あ、もう終わってる。
「いやー大道具が細かいですねぇ」
「そうか、それはよかった」
明らかに寝ていた相馬がゴマをするのは、先日この役職に就いたばかりの演劇部部長二年、外根 場美緒。読み方はゲネ バミオらしい。それにしてもゲネ先輩は本気でよかったと思っているのか?こいつ美術評定2だぞ。
「小道具は雄大ですねぇ」
「そうか、それは担当部員に伝えておこう」
今回もキャラ濃いなー。
「相馬、集合」
見るに堪えなくなり相馬を外へ引っ張る。
「今日に関してはアキノさんの言いたいことは分かるよ。その上で聞くけど、アキノさんあれ以上の感想、出ます? 」
真顔で聞いてくるあたり、今回ばかりはこいつも被害者なんだと納得する。
「ごめん、そうだよね。私が寝ていた以上アンタが起きてるわけないよね」
でもこいつは部長として、部のためにゴマを擦ったのだ。
「アキノさんならわかってくれると思ってた」
相馬の顔がクシャっとなる。私のアホ毛が落ち着かないのは、多分気のせいだろう。こいつの笑顔で安心できるのも……。
おかしい。確実に、何かがおかしい。そもそもいつものアキノなら、大道具の件で見えない一撃を俺に加えてるはずだ。あ、ここからは赤堀 相馬がお送りします。
体育館に戻る途中もずっと下を向いていたし。正直紙の話されると思ってたんだが。俺は疑問を抱きつつ体育館に戻る。
「どうせ、どうせ私なんか……」
エ?なんで弓衣先輩女の子座りで泣いてるの?
「ハァ、もうすぐ私はここに居られなくなるのね……」
壁にもたれかかりアンニュイな表情を浮かべるハルナ先輩。てか弓衣先輩の時も思ったけどあの照明ナニ?
「フ、フフフハハハハハハアアアア。決闘部破れたり」
「ど、どういうことですかゲネさん」
舞台の上で腕を組み高らかに笑うゲネさんの足元からスポットライトが部員たちによって当てられる。
「彼女たちには僕の奥義、<感傷的な観賞>を受けてもらっている。本来は君にもかける予定だったんだが、君は徹頭徹尾寝ていたからね」
「え、じゃあアキノはちゃんと見てたの? このつまらないこの劇」
つまらない、に反応するゲネさん。てか本性現したんだし呼び捨てでいいよな?
「つ、つまらないだと! この外根 場美緒が脚本、主演、監督を務めるバミオとジュリエットがつまらないだと! ものども、であえであえぃ」
ゲネの掛け声を合図に、ジャージを脱ぐ部員たち。その姿はまるで時代劇の岡っ引きだ。そういやちっさいころよくアキノとした時代劇ごっこ、楽しかったな。
「やいやい貴様か、あっしらのカシラを馬鹿にした不届き者は」
スゲェ。さっきまで知的な執事を演じてた人だ。さっきと全然違う。
「どうしたの相馬くん、逃げなくていいの? 」
ゆっくりと舞台から降りてくるゲネが聞いてくる。
「アンタの部員の演技力に見惚れてただけだよ。そもそもお前、俺逃がすつもりないだろ。何が目的だ?」
「高校演劇ってのは何かとお金が入用でね。君たちを倒せば公認部活になれるんだろう」
目的は金か。
「それともう一つ。君のところの女性部員は何かと生徒たちに人気でね。やはり人気者を劇に出せれば我が部に注目が集まるからね」
ああ、あと個人的な好みもあるかな、と付け加える。奴の発言から推測するに、あのセン? 何だっけ。まあいいや。豆腐メンタルみたいな技は一種の洗脳効果があるみたいだ。これはマズイ。
「演劇部に打倒された決闘部は部員が次々に離反。我々は公認部活になり資金的な援助が得られる。最高のシナリオだ」
なにが最高のシナリオだ。そんなのクソくらえ。と見栄を張りつつも、これをどう突破しよう。それに何より……。
「そうまぁ、ねえそうまぁ、おぼえてる? 私達が最初にあった時のこと」
アキノがなんか色っぽい。
「やめろアキノ、体を寄せるな、たいして膨らみもないくせに。それに初めてあった時ってあれだろ。俺が立ちションしてた所見たってやつだろ」
堪らなくなりアキノを振りほどく。
「アンッ。ひどい」
変な声出すな。
「おのれイチャイチャしやがって。野郎ども、容赦はいらない。かかれ!」
あ、これ終わった。この作品早くも打ち切りだ。そりゃそうだ。だって全然更新されてないんだもん。
例の元執事を筆頭に一斉に距離を詰める岡っ引きたち。刹那、俺と岡っ引きたちの間に、西部のガンマンを彷彿とさせる衣装の男子生徒が割り込む。
「貴様、何奴」
岡っ引きたちがざわつく。
「なあに、あっしは通りすがりのガンマンだ、憶えておけ」
彼は俺の方に振り返り、
「逃げますよ、相馬さん。退路は確保済みです」
彼が走る方にいる岡っ引きたちが引き、道ができる。他の岡っ引きたちは何事だと騒いでいる。
「おい待て。まだ先輩方が、それにアキノも」
「今ここで貴方が捕まれば皆さんを元に戻す事も不可能です。今は……耐えてください」
彼の目から一粒の涙が零れる。きっと彼も被害者なのだろう。
「ゴメンアキノ、先輩方。すぐ助けに来るからな」
岡っ引きたちによって作られた道を最大戦速で突っ走る。
「頼むぞ、決闘部!」
「私達の演劇部を」
「しくじんなよ」
道を作ってくれた部員たちから声がかけられる。まだ彼らには洗脳が行き届いていないようだが、これだけ大きく動いたら……。
「ありがとう、皆さん」
彼の涙は、そういうことか。
「大体わかった。この世界を、破壊する! 」
その言葉を残し、俺は体育館から飛び出る。