ターン11 ラノベとジャッジと味噌ラーメン
カウンザスコア!
現在、決闘部のスコアは
決闘部1-0文芸部。
「なかなかやるじゃないの、でも次はそう簡単にはいかないかも……」
口角を上げて笑みを浮かべる文月先輩。文芸部次鋒は副部長の2年、大宰 天満先輩(男)。何でも大宰治の作品に惚れ込み、同じような作品を書くため自殺未遂をしたとかしてないとか。
対して私達の次鋒は部内最強と呼び声が高いハルナ先輩だ。正直言って
「「行けそうな気がする!! 」」
いつも通り相馬と被る。
対決卓に向かう両者、それに浴びせられる声援。(図書館なので声は小さめ)ハルナ先輩が振り返り一言。
「別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」
何故今言う。完全にフラグが建ってしまった。
「先輩あなたバカですか? 」
この状況でカマしたボケに腹筋が崩壊した相馬が必死にツッコミを入れる。
「だってだってぇ、この流れ、私絶対負けるじゃん!! 次鋒は所詮負けポジよ! 」
言いたいことはわからなくもないがとりあえず、
「「全国の次鋒に謝れ!! 」」
ひどい、二人して! の捨て台詞を残し、卓へ向かうハルナ先輩。と同時に急いでストレージを漁りだす相馬。ナニシテンダコイツ。
「あなたが相手ね。見てなさいよ、人魚の本気」
涙目で啖呵切る先輩。なんかみっともない。すると、
「うへッ、可愛いなぁ~。相手が美少女とか僕、ついてるなぁ~」
まじまじとハルナ先輩を見る大宰先輩。
「ジャッジ、選手交替」
真顔のハルナ先輩が言う。少し可哀想になってきた。
交代は認められんよ~とヘラヘラ笑う文月先輩。
「あーもう、「決闘開始」」
二人の声で火蓋が落とされる。
「内容の半分近くが会話であるこの作品で、最も会話がなされる皆さんおまちかねの決闘シーン、実況は最近この作品の欠陥ばかりが目につき、いっそのことタイトルを『欠陥部』にすべきではと思い始めた私、アキノと」
「マッスルは、裏切らない。ストレージ漁りの相馬に代わり室岡です」
「そしてスペシャルゲストの解説、文月です~。よろしゅう」
バトルは中盤、盤面は互いに拮抗状態。先に動いたのは、大宰だった。
「いくよ~。場にいる『政治がわからぬ少年』の能力。山札の一番上を確認」
「大宰の得意戦法は山札操作して楽に大型カードを出す戦法や、手札が悪けりゃ何も出来んがうまぁくハマれば効果は凄いよ。あの次鋒さん、不憫やなぁ」
ニタニタと笑いながら喋る文月先輩。そのまま太宰先輩に、
「負けたらあんさんのラノベ、参考文献として部に提供してもらうよ。それがいやだったらせいぜい頑張りなぁ」
多分彼に一番効くであろう鞭を打つ。勝ちを確信しているからか、多少の苦笑いで流す。
「勘弁してくださいよ部長。この前カードゲームの練習で相手させられた時に、散々持ってったじゃないですか」
あれとこれとはまた別の話、と笑い、
「さっさと坊主めくりしたらどうや、[魔法]なら墓地に、それ以外なら『政治がわからぬ少年』を破壊してそのカードを場に出せるんや」
そういえば、と思いだす。確か前のターンで……
「気付いたか実況の嬢ちゃん。あいつは前のターンにカードを山札に仕込んだんや」
室岡がつづける。
「マズイ、切り札が来る! 伏せろ秋野原!! 」
何故に? こいつのテンションにはついて行けない。そう思っていると、
「キャーー」
頭を抱えしゃがみ込むハルナ先輩。ヤバい、ついて行けない。
「僕の切り札、『韋駄天メロス』を場に!! 」
勝ったな、と文月先輩が呟き、
「細かい能力は追々として、どうや、うちの太宰の山札韋駄天コンボは!、 」
とこちらを伺う。
「コンボ名に捻りが無い」
言いたいことは遠慮せずに言うのがうちの部の良さだと思う。
「そもそもありきたりな戦術ね」
弓衣先輩が言う。
「前のターンでやりたいことバレバレ」
遠くから相馬が言う。
「そもそもカードが可愛くない」
「筋肉が足りない」
後半二つは個人的主観に過ぎないような……
「酷いなぁ、でもこんな高いパワーのカード、対処できる? 無理だよねぇ」
確かにハルナ先輩のデッキではあの高パワーには太刀打ち出来ない。
「「さ~ら~にぃ~」」
声を合わせる文月先輩と太宰先輩。
「『韋駄天メロス』の能力、<最速>発動!出たターンにも攻撃可能。早速『都の歌い手 エリー』に攻撃。そして破壊」
「高パワーで<最速>持ち、厄介なカードだ」
唾を飲む室岡。なんだ、まともに解説できるじゃん。
「ターンエンド。なんだったらサレンダーすればぁ」
確かに盤面は圧倒的不利、手札も枯渇状態。以前の私ならこの盤面投げ出している。ただあの人は違う。受験を控えた状態でこの部の門を叩いた覚悟は生半可じゃない! はず……。するとハルナ先輩が声をあげる。
「絶望的ね、相馬クンや筋肉サンみたいにカードパワー高いわけじゃないから一発逆転も難しい。でも、やれることはあるのよ」
太宰先輩からターンを返される人魚は微笑む。ゴメンね、私、負けず嫌いなの。といいながら。水面に光るその一枚は、ほんのわずかな反撃。だが彼女の歌は、それを革命に変える。
「『浜辺のポリス ハマ』を召喚! その能力で、各プレイヤーは自身の手札の枚数以上のコストを持つカードを山札の下へ。『メロス』クン、スピードの出し過ぎよ!!」
警官の制服に身を包んだハルナ先輩の警告で、『メロス』は連行されていった。
「不正は許さない! とでも言いたげなカードですね。ちなみに『ハマ』の能力で手札枚数以上のカードも使用できなくなってますね」
「それ何てオリ〇ティス? とは言え園田、いいカードを引いたな。デッキに愛されててうらやましいぞ」
やっぱり人気者は違いますね、と私たちが話していると、
「それはちがうと思うなぁ」
と文月先輩が青い顔をしながら入ってくる。
「人魚の嬢ちゃん、あのカード結構前から握っとった。太宰に一泡吹かせる為にあえてここまで温存してるなんて性格わるいな嬢ちゃん」
それを知って文字通り一泡吹く太宰先輩。そこまでショックなことか?
「アキノちゃん教えておいてあげる。多くのデッキタイプを知りなさい。知識は時に、四十一枚目の切り札になるの。今回彼のデッキは『メロス』やその他大型をデッキトップから呼び出す踏み倒しデッキ。ドローソースも少ないから踏み倒し行動さえ押さえれば……」
長く、かつ分かったような分からなかったようなのでカット。まあつまり相手の動きを封じれば一方的に勝つに決まっているってことでいいのかな?
その後、身動きが取れなくなった太宰先輩を慎重にハルナ先輩が攻め、勝利を収めた。
「あたしらの負けが確定、か。ま、餅は餅屋やな」
このアホの家からラノベ回収するからまたな~。と魔女は去り、私たちは解放された。
同日、行きつけのラーメン屋にて。
「そいや相馬、お前なんであんな焦ってストレージ漁ってたの? 」
塩ラーメンをすすりながら相馬に聞く。
「ほりゃほはへはれほ」
「食ってから喋れ食ってから! 」
味噌ラーメンをかきこむ相馬がむせる。
「そりゃお前あれよ、正直弓衣先輩が勝った時点で俺の出る幕ないかな~って思ってたんだけど、ハルナ先輩がこれでもかってフラグ乱立したじゃん。んでいそいで調整始めたんだけど」
必要なかったな。と絞めてスープを啜る我らが大将。なんだ、らしいことも出来るじゃん。
「ありがとうね、相馬。今日助けてくれて。あの時みたいに手を引いてくれて」
カッコよかった、と呟いた。今日の私は変だ。いろんな部活に追われたり、文芸部との団体戦、慣れない事尽くしで興奮してるのかな?それとも落ち着いた今だからコイツの手の力強さとかイロイロ、柄にもなく意識してるのか?
なんか言ったか? とラノベ主人公みたいな返しをする相馬。どうやら私の気持ちはラーメンを啜る音に負けるほど貧弱なものらしい。正直コイツと変な関係にならなくてよかったとほっとした。
ラーメンの塩気が染みる。