ターン9 新たなる力
「出てこい。僕の切り札。『火の鳥 零』こいつの登場時能力発動!! 山札から『火の鳥 銀』を踏み倒し召喚!! ターンエンド」
『火の鳥 銀』確かあれは相手カードとのバトルの勝ち負けに関係無く破壊される代わりに、ターン開始時に相手カードを一体破壊できるカードだ。その効果で『白狼の騎士』を破壊しようとしてるのだろう。ならばやるべき事は一つ。
「私のターン、正直相馬に対して手の内晒したくなかったけど、やるしかない!! ドロー。そして進化、『白狼の騎士』を『孤高の騎士団団長 ハク』へ!! そしてターンエンド」
これが私の新たな切り札、どんな壁でも乗り越える力。人と狼の中間(よく言う人狼)の姿、頭から伸びる長く美しい毛と『白狼の騎士』の特徴に加え、盾と剣を廃し長い槍を装備している躍動感溢れるイラストだ。さあ、祝え、私の新たなる相棒誕生の瞬間を!!
その頃の実況解説ブース
「ねえねえ弓衣ちゃん。弓衣ちゃんって彼氏いるの?? 教えてよ~。あ、もしかして片思いとか? お姉さんに話してご覧なさい。ウリウリ」
「や、止めてくださいハルナ先輩、反応に困ります」
もともと校内の有名人であるハルナ先輩見たさに集まっていた人に加え、この一連の流れで観客が一気に増えたらしい。
「ゲームも終盤ですよ。ここで仕事しないとあの子に打ち上げられますよ」
いや私そんなにすぐ手出ませんよ。すると吊るされた相馬が今にも消えそうな声で、
「あの子はねぇ、昔から、すぐ打ち上げる子だったんですよ」
後でアイツ打ち上げる。
「それは不味いわね。さてアキノちゃんの新切り札、『孤高の騎士団団長 ハク』は進化カード。強力な能力を備えています。その能力の一つが……」
すると実況解説のやり取りに痺れを切らしたのか、
「いくら強力な力があろうが破壊してしまえばいいんだ! 僕のターン、ターン開始時能力で、『孤高の騎士団団長 ハク』を破壊! 」
しかし何も起こらない。それもそのはず。
「『孤高の騎士団団長 ハク』の能力! 相手のターン中に発動した能力で破壊されない!! 」
「ば、バカな」
呆気に取られる瑞鶴先輩。
「瑞鶴君、計画が崩れたわね」
ニヤリと笑うハルナ先輩。
「この一手、大きいですね」
同じくニヤリと笑う弓衣先輩。
「あの!! そろそろ降ろして貰えませんか!? 」
もうムリと暴れる相馬。
「おのれならばお前の場の『ヴォルグガンナー』を代わりに破壊だ! そして手札から『火の鳥 天』を召喚!! 『零』でお前の『ハク』に攻撃。パワーは此方が上だ。能力で破壊できないならパワーでねじ伏せるまでよ!! 」
いつもの私なら負けてた。でも、今日は違う。
「手札から人狼族のカード一枚を捨てることを条件に『不可視の人狼』を場へ! そしてその能力で攻撃を『不可視の人狼』に誘導!! 」
相馬との戦いで学んだ身代わり作成が早速生きてきた。
「あの子、格段に強くなっているわね」
しみじみと語る弓衣先輩。今ならあの人にも勝てるつもりだ。
「なんとここで瑞鶴君攻めきれない! アキノちゃんこの攻撃を完全に防ぎました。しかし手札がこれによりなくなった!! 」
ハルナ先輩目当てで集まっていた周りの観客達も、この激しい攻防から目が離せなくなっていた。苦虫を噛み潰したような顔をした瑞鶴先輩がターンエンドを告げる。その一言が、私にとっての反撃の狼煙だ。
「私のターン、ドローはせずに『ハク』で『零』に攻撃!! 」
周囲が大いにざわついた。カードゲームをやったことがない人にも、ドローをパスするというのはこのゲームのルール上問題がなくても理解し難い行動だったらしい。
「なんとアキノちゃん、カードをドローしませんでした。これはこのターンで仕留めるという意思の現れか、はたまたブラフか? 弓衣ちゃんどう見ます? 」
「このターン以降、あの子は一切ドローしないでしょうね」
さらにざわつく周囲とハルナ先輩。にしてもさすがは弓衣先輩。そこまで読めてるんですか。
「ねえねえどうして? おせーてよ弓衣ちゃん」
弓衣先輩の脇にぐりぐりと頭を押し付けるハルナ先輩。まあ見ててあげてください、面白いですよ、ここからがとなだめる弓衣先輩。
「何をしているんだ君は。君の『ハク』では『零』のパワーには届かないんだよ!! 」
「確かに負けてた。さっきなら。でも今なら、仲間も、手札も無くした『ハク』は止まらない!! 場に味方がいない時、『ハク』のパワーを二倍に、手札が無い時、『ハク』のパワーをさらに二倍!! 」
「確かに面白いわね。アキノちゃんの『ハク』のパワーが、」
「『零』のパワーを上回ったわ」
そう、この『孤高の騎士団団長 ハク』にはもう一つ能力がある。ただ騎士として剣を振るい、単騎出撃も厭わない、一匹の狼としての能力! さあ、どこからでもかかってこい。私達は負けない!!
「『孤高の騎士団団長 ハク』で『火の鳥 零』に攻撃、破壊! 」
『零』を突き刺す『ハク』の長槍。抵抗虚しく墜落し爆発する『零』。
「僕の、僕の『零』がぁ!! 」
「「ターンエンド」」
槍に付いた血を払う団長とともにそう宣言した。
「あの子、大丈夫かしら? 先ほどから何か一人でぶつぶつ言っているのだけれども」
「なんか長槍が~とか血を払う~とか物騒よね!? 」
「まさか!! 多分アイツ、今頃切り札に飲まれてますね。このまま行くと俺の脳に血が昇りきるよりも早く、アイツの理性が飛びますよ!! 先輩方、事態は急を要します。今すぐこの縄ほどいてください」
俺は知っている。アイツはたまに飲まれるのだ、切り札に。あの様子だと持って後4、5分か? 以前『白狼の騎士』に飲まれた時は四足歩行で生肉を求め歩いていた。その進化カードとなれば、そんなもんじゃあ済まないだろう。でも少し面白そうだ。
「先輩方早く!! 」
何故か苦笑いをする先輩方。
「ゴメン相馬クン、テキトーに結んだから、ほどくのムリそう……」
マズイ、このままだとアキノが持たない。
「……しばれ……」 何かが聞こえる
「歯ァ……しばれ相……」 近くなってきている。
「歯ァ食いしばれ、相馬ァ」
やっとわかった。物凄いスピードでこちらに飛んでくる室岡先生が声の主だ。
用務室と印字されたノコギリを振りかざし薪割りの要領で縄に一太刀入れる。いや殺す気か!! しかしノコギリは制服にかすりもせず、縄だけを一刀両断した。そのせいで俺は頭から落ちた。洒落にならない痛みが襲ってきたが、そんなもん知ったことじゃない。今はアイツだ! 「助かります、室岡先生!! 」
待ってろアキノ!
私達は負けない。強くナった。狩人ニも、巨人にも、武士にも、人魚にも、ドラゴンさエも、俺達にはカナわない。私は一人だった。いつも一人だった。どうして一人で生きてきた奴が、誰かに救われているような奴らに負けるのか、いや、負ケナイ! 一人で生きてきた俺ガ勝つに決まっている。孤独だ、力の源は孤独だ。ここは人が多すぎル。山に行こう。その前に、目の前の敵を倒す。特に理由ハ無い。ただ、倒ス。
「……ノ、おい、……」
誰かが俺ヲ呼ぶ。孤独な俺を。
「アキノ、おい、……」
誰だ、アキノとは、私ハ『ハク』。孤高の騎士団団長。
「アキノ、おい、目ェ覚ませ! 」
なんダ、この懐かしく、優しい声は、
「思い出せ、アキノ、俺だ、相馬だ」
ソ、ウ、マ? ソウマ、相馬
「そうだ、お前の幼なじみで決闘部部長の赤堀相馬だ!! 」
オサナナジミ? ケットウブ? 知らない。私はそんなもの知らない。
「嘘だろ、オイ、嘘って言えよ」
知らない。知らないはずなのに、
「お前を倒す。ソのために私達は強くナった。」
「一人で強くなるつもりかよ……」
ナゼお前は涙を流す。そして俺も、私も。
「小さい、小さいんだよお前は!! 身長も、胸も、その考えもだ!! 一人でなんとかなるとか思ってんのか! 小さい! 何もかも小さいんだよ!! 」
今お前胸がなんとか言わなかったか?
「アキノ?……オイ、アキノ!! 」
「誰の胸がプレイマットだコノヤロー」
覚醒と同時に反射で相馬を打ち上げる。
「ありがとう相馬、あんたのお蔭で目が覚めた。この勝負、勝てる! 」
そう、私は一人じゃない。
「アキノちゃん! 」
「アキノさん! 」
「秋野原! 」
私には、
「アキノ!! 」
共に強くなれる仲間がいる!!
仲間、か。俺にも、いつか……誰かがそう呟いた。白き狼、白き騎士、その白さは何者にも染まらない決意か、はたまた……
相馬を三度引っこ抜く。
「これでチャラにしてあげる」
今回の礼を含めての一言。ふと瑞鶴先輩の姿が無いのが気になり、
「そういえば瑞鶴先輩は? 」
周囲を見渡すと実況解説スペースにいた三人が目を逸らす。室岡に至っては、
「あ、マズイ用務室にノコギリ返してこないと!! 」
これは何かがある。
「相馬、説明プリーズ」
「ウルフアキノの咆哮にビビって投了して逃げた。これがこの事件の真相だ。信じるか信じないかは」
恥ずかしさと相馬のウザさから、そこまで言いかけた相馬を埋める。多分コイツの肥やしで大地が潤うはずだ。もうすぐ降る五月雨。これは自然の為、花のため。
秋の花、エリカが“孤独”であるならば、
白い花咲く勿忘草は……