アマガエルさんのクローバー
お母さんと、いっぱい遊べたのに……。
安菜は小学一年生。はじめての夏休みなのに、しょんぼりしています。
-ボーン ボーン ボーンー 家のかけ時計が、三時を知らせました。
「もう、行かなくっちや!」
安菜はみかん色のリュックサックをせおって、げんかんの戸をガチャッ、と開けました。
-パラパラ パラパラー
「まだ雨、やんでないよ」
急いでげんかんのくつばこから、りんご色の長ぐつを取りだしてはきました。ビニールかさを持って外に出ました。
おさげ髪をゆらしながらタッタッタと、団地の階段を下りました。かさをパッ、と広げました。
でも、すぐそばの緑ヶ丘公園の角を曲がったとたん、ビチャン!
「わっ、 水たまりにはまっちゃった!」
ハァーッ。ため息をついて、水たまりからサッ、と右足の長ぐつを引きあげました。
あれっ……?
長ぐつの先っちょに、マスカットみたいなかたまりが、ベチョ。
「わぁっ、ヘンなものがくっついてる。やだぁ!」
安菜は右足の長ぐつを、空に向かってキック、キック、キック。
すると、三回目のキックのとき、ヘンなものがピョン、と空中にむかってジャンプ。 けれどもキックが強く、はずみでクルクル、クルクルと空中回転。
ぺチャンと、地面にひっくり返ってしまいました。
「はーっ。びっくりした。あれぇ?」
安菜はドキドキしながら、ヘンなものが落ちた道ばたまで急いで行きました。
すると、「クエーッ。クエーッ。ケエーッ」と、鳴いたのです。
「ああっ! アマガエルさんだ。うしろ足が……」
アマガエルは地面にせなかをつけ、左足をピクピクけいれんさせています。前へ動かそうとしています。でも、なかなか動きません。左足はピン、と、つっぱっていてとてもイタそう!!
「アマガエルさん、ごめんね」
安菜は、そーっとアマガエルに両手を近づけて、すくいました。草むらへ歩いて行きました。
「えーっと。前にお母さんが読んでくれた本に、書いてあったな……」
安菜は草や花の生えている草むらから、クローバーの葉を見つけました。
アマガエルを草むらに寝かせました。目の前にあるクローバーの葉を一まい取り、ケガをしているアマガエルの左足にのせました。
「もうすぐイタくなくなるから、ちょっとガマンしてね」
だけど、イタいのでしょう。
「クエェェェーッ。クェェエッ」
アマガエルは大きく鳴きました。
左足をピクピクさせました。
クローバーの葉は、引っぱられてちぎれそうになりました。
「もう少しだから、じっとしてて」
安菜はクローバーの細長い茎をとりました。それを、足に巻いた葉の上からおちないように巻きました。
「安菜のお母さんね、バイクに乗ってて転んじゃったの。今ね、足をケガして病院にいるの。でも、アマガエルさんはもう、大丈夫よ」
安菜はクローバーを巻いたアマガエルを手の中に包みながら道ばたへ行きました。
「元気になってね!」
アマガエルを、道ばたのすみっこへおろしました。
「クエェーッ」
アマガエルは安菜を見て鳴きました。クローバーで巻かれた左足を引っぱるように動かしながら、草むらへ入っていきました。
「急がなくっちゃ!」
安菜はみかん色のリュックサックをカタカタゆらし、お母さんが入院している病院に向かって走りだしました。
病院につくと二階までいっきにかけ上がりました。病院の窓から、夕日が見えました。
お母さんは一番おくにあるリハビリ室です。リハビリ室はこの時間、お母さんだけです。
安菜はリハビリ室のドアを開けました。そして、びっくりして目を丸くしました。
お母さんはくり色の毛を肩までおろしていました。ジャージすがたで、手すりを持ちながら立っていたのです。そばには昨日まで使っていた杖がありました。
「もう、杖がなくても大丈夫なの? お母さん」
「お母さんね、今日から杖なしで立てるようになったんだよ。それにね」
お母さんは手すりをつたって、包帯を巻いている左足を引きよせるように、少し歩いてみせました。
「やったぁ! お母さん、もうすぐおうちに帰れるね」
安菜は、包帯をしているお母さんの左足を、そっとさすりました。
了