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魔女の従者と永劫の契約と  作者: 華月瑞季
三章 常緑の復讐者と花の妖精と
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70話 『村長と案内役と』

 氷の城の後ろにそびえる山を大きく迂回した先に、一つの村が存在する。

 その村は周囲を森林と山に囲まれており、三角形の高い屋根の家が密集するように並んでいた。

 クレアリスの後を追って空中を移動していたトリシャたちは、村の中心地へと降り立つ。

 今まで訪れた事ある街とは違い、建物の密度が低く木造の家屋が多くみられる。


「さて、村長の所へ向かうとするか」


「ま、待ってください……」


 ノエルに運ばれる形でここまで移動してきたフレッサだったが、空中を飛んできた事で腰が抜けてしまったのか上手く立てないでいた。


「情けないなぁ。仕方ない、ノエル運んでくれ」


「かしこまりました」


 ノエルがフレッサの手を握る。彼女の体は地に足が付いたままなのだが、フレッサの体だけが宙に浮いた。

 再び自分の意志とは関係なく体が宙に浮いてしまいフレッサは戸惑うが、クレアリスはそれに構わず歩き始める。


 村長の所へ向かうと言ったクレアリスを先頭に、村の中を少し歩く。

 そして、ある一軒の家の前まで一直線に向かうのだ。その家は白塗りの壁をしており、村の中で数少ない木造ではない建物だった。

 クレアリスは扉の前まで行くと、ノックをせずにいきなり扉を開いた。


「村長はいるか?」


 豪快に扉を開く様子はルミエーラを彷彿とさせ、クレアリスの言動にどれだけ影響を及ぼしているのか窺い知れる。

 トリシャが彼女の口調を直し始めて2カ月半以上経過するが、それでも一向に直る気配が無い。

 飛行艇や氷の城で一緒に居る時は、多少なりとも気を配っている様で比較的改善は出来ていると言いても良いだろう。

 しかし、ルミエーラの前や外出先などでは、相変わらず元の口調に戻ってしまう様だ。

 それらに共通する事といえば、魔女という一言に繋がる。

 魔女装束を纏い外出する時は、彼女は魔女として行動している。

 彼女にとっての魔女の理想象とはルミエーラなのだろう。だからなのか、口調や仕草と言った言動の細部を真似してしまっているのかもしれない。

 ルミエーラの前でも同じことで、今までの振る舞いがあったからこそ急には態度を変えられないのだろう。


「これは、これは、魔女様。お待ちしておりました」


 家の中から口ひげを蓄えた老年の男性が出迎える。

 その男性は渋い青緑色のしたバケットハットを被っており、手元には木製の杖を携えた小柄な人物だ。

 クレアリスよりも遥かに年齢が高いにも関わらず、腰を低く構えている。


「今回の依頼内容の最終確認をしたい」


「お茶を用意しますので、先に席に着いていてください」


 そう言うと、村長と思われる人物は奥の部屋へ去っていく。

 壁には石材が使われている者の、扉や家具といった調度品は木材が多く使われていた。

 部屋の片隅には机があり、四辺には椅子が6脚も置いてある。

 クレアリスの後に続いたトリシャは、隣の椅子に着席するのだ。例によって、アイリスとノエルは椅子には座らず、それぞれの後ろへ位置する。


「お待たせしました。お茶は叶いが持ってきますので少々お待ちください」


 先ほどの男性は戻ってくるとクレアリスの対面へと座る。

 終始笑顔を見せる男性に、トリシャは穏やかな印象を受けるのだ。


「フレッサ、ご苦労だった。お前も席に着いたらどうだ?」


「は、はい」


 机の横に佇んでいたフレッサは、男性の言葉を聞いておずおずと村長の隣に腰かける。


「魔女様、話を始める前に一つお聞きしますが、そちらのお嬢さん方は?」


「私の友人でトリシャと言う。後ろは従者のアイリスだ」


 クレアリスは淡々と説明をする。

 アイリスは自身の従者じゃなく金色の魔女であるルミエーラの従者だと、トリシャは訂正しようとしたが、話の腰を折りそうなので今回は控える事にした。


「そうですか、そうですか。私はこのヨルベール村の村長をやっておりますウィッキーニと申します」


「と、トリシャです」


 村長と目のあったトリシャは、会釈をしながら名前を名乗る。


「それでは早速、依頼内容の確認に入りましょうか」


 村長はアイリスの方を見ることなく本題へと移る。

 魔女と交流がある事から、アイリスを従者として扱っているのかもしれない。

 トリシャはアイリスたち従者を人と同じように扱い接しているが、それはこの世界の常識とは少し違うのだろう。

 アイリスたち魔人は人として扱われないのか、それとも従者、付き人として挨拶の必要性を感じなかっただけなのかは、トリシャには分からないのである。


「依頼内容は魔獣の討伐。対象はタランドゥスとなります」


「数は分かるか?」


「基本的に単独で行動する事が多い魔獣ですが、確認できるだけで5頭以上は居ると思われます」


 程なくして村長の奥さんと思われる女性が、お茶を注いだコップを持って来る。

 一つ多く用意されたお茶は、おそらくアイリスのものだろう。

 女性は席に着いている人数分のコップを机の上に並べると、奥へと戻っていく。その手には余分となったコップが一つ握られていた。


「では、森に入り確認できている5頭以上の討伐及び見かけた数だけ討伐すればいいんだな?」


「はい、そうしてもらえると助かります」


 トリシャはお茶に手を付ける。

 普段飲んでいる紅茶よりも色も香りも薄い。口に含んでみるも、予想通り薄い味わいだった。

 いつもは砂糖で甘くして飲んでいるが、甘みを感じない分、苦みもあまり感じない。

 紅茶に詳しくないトリシャにも、そのお茶が良い物ではない事は判断できた。


「正確な情報とはいきませんが、大型であるレノウタランドゥスを見かけたという者もいました。

 この種が群れを組むのも大型種がいる所為かもしれません。見かけたらこちらの討伐もお願いしたい所存です」


「わかった。そちらも引き受けようではないか」


 話に付いて行けないトリシャは黙ってやり取りを聞いているだけだった。


「あの、報酬の方は多くは払えないのですが、どの様に支払いましょうか?」


「ああ、それなら作り過ぎたお菓子を買って貰えればいい。相場の半値にしておくからよろしく頼む」


「わかりました。用意できるお金は多くは有りませんが出来る範囲でご用意いたします」


 村長は深々と頭を下げる。

 ここでトリシャは疑問を持つ。同じく金銭が発生するならば、わざわざお菓子を購入してもらう必要はあるのか?

 直接金銭を受け取った方が合理的に見える。しかも、売却値は相場の半分という。

 疑問を持ったトリシャだったが、この場では話が脱線しそうなので聞かない事にした。


「そうと決まれば早速、森の方へ向かうか」


 クレアリスはお茶に手を付けずに立ち上がる。


「お待ちください。案内役を着けます。

 フレッサ、フラーグムを呼んできてもらってもいいか?」


「はい」


 フレッサは村長から命を受けると、席を立ち家の外へと向かった。


「何をしている? 私達も向かうぞ」


「ん?」


 てっきりフレッサが案内役の人を連れて戻ってくると思っていたトリシャは、椅子に座ったままでいた。

 クレアリスに言われ、自分たちも付いて行く事を理解したトリシャは慌てて立ち上がる。



 フレッサの後を追って、一見の木造の家の前に向かう。

 先ほどの村長の家よりも一回り小さな家の壁は、年季の入った年輪が見えにくいくらい暗い色をしている。


「お待たせしました」


 程なくして家の中からフレッサが顔を出す。

 後ろから青年が一人姿を見せる。この人が先ほど言っていた案内役なのだろう。

 すらりとした背の男性はマントを羽織り、その中には金属のプレートで出来た胸当てをしていた。そして、足元は革製のブーツを履いており、腰には剣を携えている。


「案内役のフラーグムと申します。魔獣が目撃された場所までの案内をさせて頂きます」


「よろしく頼む。早速、案内をしてもらおうか」


 軽い挨拶を済ませると、クレアリスは直ぐに森へ向かおうとする。


「お兄ちゃん、私も付いて行っちゃダメかな?」


 出発しようとしたその時、フレッサがフラーグムを呼び止める。

 どうやらこの2人は兄妹らしい。


「ダメだ。付いて来ても魔女様の邪魔になるだけだ」


 フラーグムはきつい口調で突き放す。

 これから魔獣を討伐しに行こうというのだ。兄ならば尚更、同行を許可しないのも至極当然だと言えよう。


「案内役が一人増えたところで邪魔にはならんさ」


 クレアリスはフレッサに助け舟を出す様に言う。


「ですが、これから魔獣の元に行くんですよ? フレッサは連れて行けません」


「私の城まで一人で来たんだ。大丈夫だろう。

 心配ならお前が守ってやれば済む事だ」


 事情はどうあれ、この村から離れた距離にある氷の城まで一人で来たのだ。

 クレアリスはフレッサの同行に賛同する。


「分かりました……。俺の部屋に予備の剣が置いてある。取ってこい」


 フラーグムは頭を抱えると、フレッサに武器を取ってくるように促す。


「ありがとうございます」


 フレッサはクレアリスに向けて一礼すると、再び家の中へ入って行く。


「魔獣って危ない?」


 気楽な感じで着いて来たトリシャだったが、魔獣の討伐と聞くとどうしても尻込みしてしまう。

 それはその筈だ、今まで魔獣の類に遭遇した事の無いトリシャにとって未知の体験となるからだ。


「怖いなら村長のとこで待っているか?」


「だ、大丈夫だし」


「心配しなくとも、私がトリシャを守ります」


 強がるトリシャの腕に抱き着いたのはアイリスだ。

 彼女はいつも不安を感じる度に、それを取り除いてくれる。


「アイリスだけでなく私もいるんだ。万が一にでも心配はいらんさ」


「大丈夫、大丈夫。びびってないから大丈夫」


 まるで自分に言い聞かせるように同じ言葉を繰り返す。


「お待たせしました」


 そうこうしている内にフレッサが戻って来る。


「剣は何かあった時の備えだ。自分の身を守る為のな。

 魔獣は魔女様に任せて邪魔をしない様に気を付けるんだぞ」


 フラーグムはフレッサに言い聞かせるように警告を促す。

 それに対してフレッサは、鞘を強く握り締め頷く。


「それでは、案内をさせて頂きます」


「ああ、よろしく頼むよ」


 フラーグムを先頭に魔獣のいる森へと移動を開始する。


「もうそろそろ離れてもいいのでは?」


 トリシャは腕に抱き着くアイリスに向けて言う。

 両手で抱き着いてくるものだから、彼女の胸部が腕に押し付けられている形なのだ。それを一度認識してしまえば必要以上に意識してしまう。

 なるべく感触を意識しないように努めるトリシャであった。


「手は繋いでいてもいいですか?」


「それならいいよ」


 許可を出すと、アイリスは少し離れ腕を下ろしていく。そして手を取りしっかりと結ぶのだ。

 アイリスの手を握り返すと、トリシャは森へと歩を進めて行く。


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