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魔女の従者と永劫の契約と  作者: 華月瑞季
三章 常緑の復讐者と花の妖精と
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68話 『ぶどうのショートケーキと魔女の年齢と』

 木目の床に木を使った柱、机や椅子といった家具にまで木材が使われた室内は黄色い温かみのある照明で照らされている。

 窓枠は大きく、外からの日差しを多く取り入れた室内は落ち着いた雰囲気に包まれていた。広い室内には複数の机と椅子が並んでおり、数人がまばらに席に着いている。

 あの後、複数の店舗で衣服の買い物を行ったトリシャたちは、休憩にと喫茶店に立ち寄っていた。

 トリシャは奥の席に座り、隣にはアイリス、向かいにはクレアリスが座る。店員がメニュー表を持って来ると、トリシャたちは注文を行う。


「帰ってからでも良いんだが、待ってる間に今回の報酬を渡しておこうか」


 注文を終えると、クレアリスは鞄から臙脂色の布を取り出す。それをテーブルに広げ始める。


「その事なんだけどね。今回は受け取れないかな」


「どうしてだ?」


 クレアリスは布を机に広げる手を止めて顔を上げる。


「ここ10日間くらい顔も出せなかったし、何もしていないのに報酬は受け取れないかな」


 常緑の魔女との一連の騒動の中、一度も氷の城に訪れる事も無く、クレアリスと一緒にお菓子の研究も行わなかった。そんな状況でトリシャが報酬を受け取れるはずもない。


「しかし、トリシャが考案したパフェの売り上げも好調だし支払わないわけには……」


「その分の報酬は十分貰ったから、これ以上は貰えないよ」


 パフェについてもクレアリスが元々作っていたお菓子を組み合わせただけに過ぎない。その概念を知っていただけであり、そのものを作ったわけでは無いのだ。

 トリシャは必要以上の報酬を受け取る気にはなれないでいた。


「そうか。確かに今回は一緒に研究する事も無かったからな。

 でも、1人で研究していると行き詰ってしまうから、また暇な時にでも手伝ってくれ」


 トリシャの言い分に納得したクレアリスは、広げた布を元に戻すと鞄の中にしまう。

 彼女の作ったお菓子を食べるのは、トリシャの楽しみでもあり、その手伝いもしたいと思っている。

 トリシャは研究の手伝いを約束すると、彼女は嬉しそうにはにかむのだ。


 そうこうしている内に、注文していた品が運ばれてくる。

 机には、ぶどうのショートケーキと紅茶がそれぞれ3つずつ並べられていく。

 ショートケーキの上にはぶどうの粒が3つも乗っており、ふわふわのスポンジの間にはぶどう果汁を使ったソースが挟まれている。


「んー、ぶどうは瑞々しくて美味しいし、クリームも甘くて美味しいね」


 ぶどうのショートケーキにフォークを入れたトリシャは、一口頬張ると、その美味しさに唸りながら感想を漏らす。


「自分で作ったお菓子はもちろんだが、外で自分が作れないお菓子を食べるのも格別だな」


 クレアリスは帽子を隣の椅子に置くと、目を輝かせながらケーキを頬張る。

 そんな2人の様子を見ながら、アイリスもケーキを口に運ぶ。口の中にクリームを広げると、彼女も一緒にケーキの甘味を味わうのだ。


「そういえば、果物を使ったお菓子ってあまり作ってないよね?」


 トリシャはぶどうの粒を下にあるクリームごとフォークに乗せると、それを眺めながら質問をする。

 クレアリスの作るお菓子といえば、アイスやソフトクリームなどの氷菓。それと、クリームを使ったケーキやシュークリーム、チョコレートにプリン。

 どれも美味しさに間違いはないが、その中で果物といえばショートケーキやパフェの上に乗せていた苺くらいしか見た事が無い。


「素材の管理が大変だからな」


「というと?」


「基本的に材料は外から買っているんだが、果物を大量に仕入れると管理が難しくなる。

 苺だけは大量に仕入れているんだが、他の果物は自分で消費する分しか買わないんだ」


 エラードから評価を受けているのは、温度管理の難しい氷菓と、大量に安定したお菓子を作る生産性だ。

 果物をメインにした菓子類を大量に、かつ安定して供給するためには、それに見合った施設の整備が必要となりコストがかかってしまう。

 主食として、日々の食事の延長線上で商売をしているクレアリスにとって、無理に果物を使ったお菓子を商品化する必要は無いのである。


「自分で一から作ろうと思ったら大変だし、こうして外に出て食べるのも良いもんね」


 店の味を自宅で再現するのが難しい様に、ありとあらゆるお菓子を作るのは簡単ではない。それに加え、採算を取ろうとすると、その味と勝負できるような品質と商品化が求められる。

 現状利益が出ているなら、そのお金で好きなお菓子を購入した方が有意義と言えよう。


「何でも1人でしようとしたら限界があるからな。だからこそトリシャには期待してるんだぞ。

 2人でならもっと美味しいお菓子を作っていけるかもしれないからな」


 クレアリスはそう言うと、口いっぱいにケーキを頬張る。目一杯、フォークに乗せていた事もあり、口の横にクリームが付いてしまう。


「クレア様、口についてしまってますよ」


 ハンカチを取り出すと、アイリスは彼女の口を拭う。椅子から腰を上げ側によると、クリームを丁寧に拭き取るのだ。


「すまないな。ありがとう」


 口の中の物を呑み込んだ後にお礼を言う。アイリスはそれに笑顔で答えると、自分の席へと戻るのであった。


「クレアとアイリスは仲良いんだね」


 トリシャは一連のやり取りを微笑ましく眺めていた。紅茶を一口飲んだ後、カップを机に置くと2人に声を掛けるのだ。


「まぁ、昔は一緒に暮らしていたからな」


「3年近く前になりますでしょうか。その時は身の回りのお世話もしていましたね」


 ルミエーラと喧嘩別れするまで一緒に住んでいたのは聞いていた。という事は、今の自分の様にアイリスがクレアのお世話係をしていたのだろう、とトリシャは考える。


「そういえば、クレアって何歳なの?」


 アイリスたち魔人は年を取る事も無く見た目が変わらない。トリシャ自身も生前の生前の年齢が分からないどころか、この世界に生まれて半年も経ってない。

 ルミエーラにいたっては見た目の年齢が20代半ばなのに対し、実年齢はもっと上だと言う。ただ、実際の年齢は聞いても答えてくれないのだが――

 周囲の人物が年齢という概念からことごとく逸脱している所為で、クレアリスの年齢を今までわざわざ確認する事が無かったのだ。


「21歳になるんじゃないか?」


「え?」


「え?」


 クレアリスの身長は10センチ以上低い。身長だけでなく体の線も細く、成人済みだとは到底思えない。

 年齢を聞いてトリシャが驚くのは当然だが、隣に座るアイリスも同じく驚きを露わにする。


「私が知る限りは16歳だと思うのですが……」


 仮に16歳だとしても、それよりも幼く見える。トリシャは本当に年齢の概念を見失いそうになっていた。


「あれ、21じゃなかったっけ?」


「クレア様は5年もの間、魔術結界の中に封印されていましたし、16歳と言った方が外見との差異が少ないと思われます」


 何か事情があるのか、2人の間に5年の隔たりが見受けられる。


「もっと幼く見えたから驚いたよ」


 トリシャは気持ちを一旦落ち着ける為に紅茶に口を付ける。


「まぁ、見た目に関しては、4年近く前にルミエーラの作った薬を勝手に飲んでしまってから成長しなくなってしまったんだがな」


 当事者でないトリシャでもこれを聞けば後は察しが付く。ルミエーラと喧嘩をした直接の原因がそれである事を。

 魔女であるルミエーラの作った薬の影響で身体的成長が止まったのだとしたら、彼女の見た目が幼いのも頷ける。

 つまりは、この世界で16年過ごしているのだが、外観は12歳のままだという事になるのだろう。


「ふーん。クレアはルミエーラの年齢って分かったりもするの?」


 前に一度聞いた事があったが、その時ははぐらかされてしまった。トリシャはクレアリスから間接的に聞き出せないか探りを入れたのだ。


「確か、私よりも11歳上だったかな?

だとしたら27歳なんじゃないか?」


「でも、封印とか言ってた5年を足したら32歳になるんじゃ……」


 トリシャは正解を求めてアイリスの方を見る。


「私からは何とも言えません」


 アイリスはルミエーラの事を多くは教えてくれない。それは彼女が主の情報をなるべく外に漏らさないとようにとの配慮なのだろうか。

 何にせよ、彼女から本当の年齢を聞き出せることは出来そうにない。

 20代半ばに見えるルミエーラも、クレアリスと同じ薬を飲んでいたと仮定すれば32歳と言う年齢は妥当なように思える。その薬がどのような効果があるのかまでは定かではないが、話から察するに老化を減退させる物と見た方が良さそうだ。

 成人済みであるルミエーラが、成長を止める薬を作るのは考えにくい。そう考えると若さを維持したり、老化を予防したりする方が魔女らしいと言えよう。


 ルミエーラは以前、娘が欲しいからトリシャを造ったと言った。

 トリシャの外観は14、5歳くらいなので親子とするには少し若すぎる気もする。しかし、彼女の年齢が32歳とするならば、子供が欲しくなってくる年齢だとこじつけて考えてもおかしくは無い。

 もしくは、魔法を積極的に教えてくれる事から、後継者や弟子が欲しいかったと仮定する事も出来る。何故なら、今までの彼女の行動を見ると、子育てがしたいという感じには見えないからだ。

 家族が欲しかったのか弟子が欲しかったのかは定かではないが、彼女のおおよその年齢が知れたというのは、トリシャにとって大きな事だった。


「アイリスの年齢とかって分かるの?」


「私は年齢を数えたことは無いので分かりかねます」


 予想はついていた事だが、アイリスの年齢は不詳のようだ。本人でも分からないのであれば他に知りようもない。


「魔人は基本、寿命という概念が無いからな。分かるのは私が生まれるより前から居たという事くらいだろう」


 クレアリスは最後の一口を食べ終わると、まだ手を付けていなかった紅茶を飲み始める。


「という事はルミエーラよりも長い気なの?」


「という事になりますね」


 魔人だから年を取らなければ寿命も無い。トリシャは改めて自身とアイリスの違いを認識するのであった。


「休憩も十分取れたとこだし、そろそろ帰るか」


 ケーキを食べ終え、話がひと段落したところで席を立つ。

 支払いは「私の用事だから」と言って、クレアリスが奢ってくれる事となった。

 もちろんトリシャは自分の分を払おうとしたのだが、「報酬も支払わなかったからこのくらいは出すよ」と言われてしまっては引き下がるしかない。

 小遣いも限りがあるので、ここはご馳走される事にしたのである。

 店を出たトリシャたちは、人気の少ない場所まで移動する。そして、来た時と同じように体を宙に浮かせ、氷の城まで移動するのであった。


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