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魔女の従者と永劫の契約と  作者: 華月瑞季
三章 常緑の復讐者と花の妖精と
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58話 『魔女の依頼の内容と』

 花の豊かな香りがする紅茶の味は、アリアが入れてくれるお茶よりも酸味が強い。白いティーカップを赤く鮮やかに染め上げ、上空から降り注ぐ光を受け、宝石の様に美しい色合いを醸し出す。

 角砂糖を3つ入れたのにも関わらず、いつもより苦味を感じてしまうのは、使用している茶葉が違うからに他ならない。

 トリシャは用意された紅茶を嗜みながら、目の前にいる常緑の魔女と思わしき女性と、彼女の傍に使える2人の少女達を見やるのだった。


 黄緑色の長い髪の毛を首元で2つに結んだ少女は、白いブラウスと深みのある緑色をしたジャンパースカートを身に着けている。特に首元に臨む黄色いリボンと厚みのあるレースがあしらわれたヘッドドレスが特徴的に見えた。

 目の前で紅茶を入れてくれた時は、指先まで行き届いたしなやかな動作に見とれてしまう程、美しい印象を受ける。

 もう1人は、桃色の長い髪の毛を三つ編みにしている少女だ。白と淡い緑色を基調としたドレスには、赤やピンクやオレンジ色の花の形をした装飾品によって彩られていた。

 こちらの少女は、まるで踊りを待っているかの様に優雅な動きで一口大の焼き菓子を乗せた皿をテーブルの上に並べていた。

 気品溢れる佇まいで紅茶を啜る女性が魔女だとするならば、この少女たちは間違いなく彼女の従者だろう。

 魔女の従者が決まって美人が多いのは、彼女たち従者が作られた存在だからかもしれない。


 トリシャがそんな事を考えながら紅茶を啜っていると、常緑の魔女と思われる女性と視線が重なる。

 咄嗟に視線を外そうとするも、先に微笑みかけられた所為でそれを行うタイミングを見失う。

 反応に困ったトリシャは、目を合わせたままティーカップに唇を付けることしか出来なかった。


「私の名前はエカテリーナ。今日はこんな森の奥まで来てくれて嬉しいわ」


 

 常緑の魔女と思われる女性は自身の名を名乗った後、平たい皿の上に乗せられた焼き菓子を1つ手に取り、それを口へ運ぶ。


「私は金色の従者アイリス。今日は主に代わり訪れた次第です」


「私はクラリーチェ。純白の元従者となります」


 続けてアイリスとクラリーチェは、それぞれ名を名乗る。

 クラリーチェが敬語を使うのは、相手が魔女だからかもしれない。それは、自身の主に問わず、従者と魔女という立場の違いによるものだろう。

 何にせよ、次は自分が名乗ら無くてはならない。

 トリシャはティーカップを小皿の上に置くと、緊張した面持ちで口を開く。


「えっと、初めましてトリシャといいます」


 この場合、従者である事を言うべきなのかもしれない。

 しかし、従者である事をまだ受け入れられていないトリシャが、それを自ら言う事は無いのである。

 自己紹介としては短いものだが、他に何を言えばいいかもわからないので、簡単に済ませる事にしたのだ。


「トリシャと言うのね。初めて見る顔だわ」


 トリシャの対面に位置するエカテリーナは、興味有り気な面持ちで見つめてくる。

 その視線に困惑するトリシャだったが、故意に視線を逸らすのは無礼な気がして、戸惑いながらもその視線に耐えうるしかないのだった。


「金色は弟子を取ったみたいね。私は人付き合いが苦手だから尊敬しちゃうわ」


 従者だと言わなかった所為か、エカテリーナはトリシャがルミエーラの弟子であると勘違いしてしまう。

 トリシャが訂正しようか迷っていると、アイリスが先に口を開く。


「トリシャは金色の弟子という訳ではありません」


 アイリスは本当に気配りが出来る良い子だと言えよう。

 何故なら、トリシャの気持ちを汲んでか、従者というワードを出さずに訂正してくれたからだ。


「あら、そうなの? ヒューマンがいるから、てっきり弟子が代わりに来たとばかり思っていたわ」


 ヒューマンというのは、おそらく普通の人間の事だろう。よく見ると、エカテリーナという女性は、耳介が外側に長く広がっている。

 ウェルシュの様な獣耳を付けた人物がビーストで、テトラのみたいに下半身が魚の様になっている人物を人魚と言うのなら、エカテリーナの様に耳の長い人物はエルフとでも言うのかもしれない。

 トリシャはそんな事を考えながら、何度もティーカップに口を着けるのであった。


「代わりといっては何ですが、金色の従者である私が用件を承ります」


 受け答えに逐一緊張するトリシャと違って、アイリスはテキパキと返答をする。

 魔人も分類するとしたら、アイリスやクラリーチェはヒューマンの魔人。アリアがビーストの魔人となるのだろう。


「紅茶のおかわりは如何ですか?」


 トリシャが考え事をしていると、黄緑色の髪の毛を携えた少女が、ティーポット片手に尋ねてきた。

 何度も口を付けている内にティーカップの中の紅茶の量は減っていて、中身が無くなるタイミングを見計らって声をかけてくれたのかもしれない。


「あ、お願いします」


 トリシャがティーカップをソーサーの上に置くと、少女の手によって再び紅茶が注がれていく。

 赤く染まる液体が注がれると共に、花の香りが蒸気の中から立ち込めてくる。

 ヘッドドレスと髪の毛に隠れて気づかなかったが、従者と思われる少女の耳介も外側に向かって長く突き出ていた。

 トリシャがその特徴的な耳に見とれている間に紅茶は入れ終わった様で、少女は一礼すると再びエカテリーナの側まで下がっていく。


「本題を話す前に色々話がしたかったのだけれど、あなた方にも都合があるみたいだから本題に入るとしましょうか」


 今日、この場所にトリシャたちが来たのは、常緑の魔女がルミエーラに用事があると、彼女の従者に聞いたからだ。

 でなければ、魔法の練習をサボってまで森の奥底にまで来たりはしない。

 そんな事の発端のピーチハルトは、従者と思われる少女たちと一緒に、エカテリーナの側で佇んでいた。

と言っても、体の小さな彼女だけは、半透明の羽を使って浮遊しているのだった。


「その前に、遠慮しなくて良いから紅茶だけではなく、お菓子も食べて感想を聞かせてちょうだい」


 テーブルの上には、縁に花柄の模様が施された平たいお皿が並べられている。そこには、クッキーと思われる焼き菓子が幾つも載せられていた。

 トリシャは様子を見ながら頂こうとしていたのだが、冷静になって考えてみると、魔人であるアイリスやクラリーチェが食すはずが無いのである。

 今この場で食事を行うのは、トリシャと焼き菓子を用意させたエカテリーナだけなのだ。


 トリシャは手前にあるクッキーを1つ手に取ると、それを遠慮がちに口に含む。

 サクッとした食感と共にバターの風味が口の中に広がる。1つずつ何枚か口にすると、生地が口の中の水分を奪ってしまう。

 しかし、それも茶請けとしては必要な要素となるだろう。潤いを求めてか、紅茶の味がより強く感じるのだった。


「お口に合うかしら」


 エカテリーナはゆったりとした口調で話しかけてくる。

 クッキーを食べるのはトリシャ1人だが、それでも自身が手作りした物を人に食べてもらうのは嬉しいものなのだ。


「あ、はい。美味しいです」


「それは良かったわ」


 トリシャがクッキーを複数枚食べている様子を見れば、嘘を言っていない事は明白だ。

 それに気を良くしたのか、エカテリーナは終始晴れやかな表情をしていた。


「それで、金色への用件とは何でしょう」


 紅茶にも焼き菓子にも手をつけていないクラリーチェが本題を切り出すように催促をする。

 アイリスやアリアと違って、彼女は食事に興味など無いみたいだ。

 魔人は本来食事をする必要が無い。彼女が目の前にある焼き菓子や紅茶に興味を示さないのも、その所為なのかもしれない。


「そうね。私が金色を探していたのは協力して欲しい事があったからなのよ」


 ティーカップを片手に、エカテリーナは本題について話を始める。

 しかし、話し始める時に少々表情が曇ったように見受けられた。

 魔女が他の魔女に協力を依頼するのだ。ただ事では無いという事だろうか?

 トリシャは心の内で本題に興味が湧いてくるのだった。


「何に対しての協力を求めるのでしょうか?」


 エカテリーナは、何か考え事をしているのか、口を紡いでしまっていた。その間を埋めるように、アイリスは質問するのである。


「私が頼みたい事はただ一つ。ある人物を一緒に殺めて欲しいだけなのよ」


 トリシャは危うくティーカップを落としかける。幸い、中身を零す事は無かったが、話の内容に驚きを隠せない。

 何故なら、今まで柔らかな物腰をしていた人物の口から、殺害依頼が呟かれる事となったからだ。


「それは誰を指しているのでしょうか?」


 トリシャと違って、アイリスやクラリーチェは動揺を見せない。

 それは、淡々と会話を続けるアイリスからも、微動しないクラリーチェからも感じ取る事が出来る。

 人を殺める話をしても動揺しないのは、彼女たちが魔女と魔女の従者である事と関係あるのだろうか?

 トリシャは1人、本題から断線した考え事をするのであった。


「貴方たち2人なら、それが誰だか分かるのではなくて?」


 エカテリーナはアイリスとクラリーチェに視線を向けると、意味ありげに質問に質問で返す。


「それは……」


「漆黒の事を言っているのでしょう」


 アイリスが言うのを憚った続きを、クラリーチェが声出して言う。

 漆黒と聞いて思い浮かべる人物と言えば、トリシャの知る限り1人の人物しかいない。それは、癖のない真っ直ぐに伸びる黒髪を携え、全身をゴスロリの様な黒い衣類に身を包んだ少女の事だ。

 トリシャは彼女がクロエと名乗っていた事を思い出す。アイリスとアリアを不安に陥れ、あのルミエーラすら危険視する人物だ。

 あの時、アイリスの取り乱しようから、話題に出すのも嫌煙してしまっていた。そんな彼女の心中を気にしてか、トリシャは心配した面持ちでアイリスを見やるのだった。


「そうよ。金色には私と協力して……そうね。討伐とでも言いましょうか。漆黒の討伐を行って貰いたいの」


「ルミエが協力するとは思いませんが……」


 アイリスはトリシャの視線も気付かないのか、独り言の様に何かを呟いていた。


「貴方たちの主にも協力する動機はあるはずよ。協力する様に伝えてくれないかしら?」


 先程までとは違い、エカテリーナの笑みは不敵なものに見受けられた。

 様子が変わったのは彼女だけではない。漆黒という単語を聞いてからというもの、アイリスにも明らかな動揺が生まれていた。

 その証拠に視線は下を向き、エカテリーナの質問が耳に入っていないのか、返答をしようとはしなかった。


「私から伝えておきます。要件がそれだけなら、今日はここで帰らせてもらいますね」


 アイリスに代わり、クラリーチェが話を進める。徐に席を立つとトリシャに目配せをし、この場を去る旨を伝えてきた。

 それがアイリスを気遣っての事なのか、危険を察知したからなのかは分からない。

 しかし、この場を去った方が良いのは確かな事なのかもしれない。

 魔女が他の魔女に殺害依頼をしてきたのだ。そんな怪しげな会話を続けたくないのは、トリシャが一番に思っていただろう。


「あら、もう帰るの?」


「紅茶とお菓子美味しかったです。ありがとうございました」


 トリシャは立ち上がり一礼すると、アイリスに声をかける。我に返ったアイリスは、その声を受けて席を立つ。

 残念がるエカテリーナを背に、アイリスの持っている魔法陣の施された布を広げ、帰路につく準備を行う。

 クラリーチェが転移魔法を起動させると、周囲が柔らかな光に覆われる。その光に包まれながら、トリシャは緊張から解放されていくのだった。


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