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魔女の従者と永劫の契約と  作者: 華月瑞季
三章 常緑の復讐者と花の妖精と
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50話 『魔法の練習の成果と』

 風魔法ウィンドエッジ。

 この魔法を一度使って見た事で、トリシャの中で魔法に対するイメージを膨らませる事が出来た。

 ここから、自分の使いやすい形に持っていく事が必要となってくる。かといって、アリアの様な魔法式の変更を伴うアレンジを加える事は出来そうに無い。

 なので、魔法式を変更せずに魔法を正しく発動させていかなければならないのだ。

 トリシャ試行錯誤を繰り返し、風魔法ウィンドエッジを習得する為に練習していく事となる。


 そんなトリシャから少し離れた場所では、ルミエーラがアリアの防御魔法の特訓を行っている。

 何を行っているのか気になっていたトリシャは、魔法の練習の合間に遠目から様子を伺う。

 ルミエーラが複数の魔法陣を空中に描くと、そこからアリアに向かって複数の雷魔法を発動させる。

 一直線に向かって突き進む雷撃は、アリアに当たる直前で、彼女の防御魔法によって防がれていたのだった。

 もしも雷魔法が直撃してしまう事態を考えてしまうと、どうしてもアリアの身を心配してしまう。

 それに加えて、バチバチと鳴り響く雷音に集中力を乱されるトリシャであった。


 そんな中で散漫しがちな集中力をかき集めて、トリシャは魔法の習得に専念していくのだ。

 魔法陣は正しく描く事が出来ている。イメージを掴めたトリシャは、もう1度風魔法を使ってみる事にした。

 ルミエーラが行った様に、木を切断するイメージで魔法を実行する。

 自分に合った形を模索するトリシャは、気がつけばルミエーラの使った魔法とは少しだけ違った形へと変化させていく。


「こんな感じかな。後はもう少し練習しないと」


 何度か練習を繰り返したトリシャは、手応えを感じ始める。

 こうして通算2つ目になる風魔法の習得に向け、納得いくまで練習を重ねていくのだった。


「トリシャ!」


 すると突然、アリアが名前を叫ぶ声がする。その切迫した声にトリシャが振り向くと同時に、目の前を一線の雷撃が通過していく。


「うわっ!」


 慌てて動きを止めたトリシャは、僅か30センチ程前を通過する雷撃に気圧されて、後方にバランスを崩してしまう。

 ドスン、と腰を地面に打ち付ける。骨身にまで染みる痛みは、受け身を取れなかった所為である。


「トリシャ、お怪我はありませんか?」


 慌てて駆け寄ってくるアリアは、真っ先にトリシャの身を案じる。

 不安げな表情と相まって、下向きに下がった猫耳は、彼女の気持ちが一層沈んでいる証拠なのだ


「大丈夫。ちょっと尻餅を付いただけ」


 雷撃が直撃していたら無事では済まなかっただろう。

 しかし、今しがた腰に受けている痛みは、飛んできた雷撃と直接的な関係は無い。

 アリアから差し出された手を取ると、トリシャは彼女の助力を受け、痛む腰を地面から上げる。


「いやー、アリアが防ぎきれなくて弾かれた魔法が、まさか当たりそうになるとはな」


 猫耳を垂らしているアリアとは対照的に、ルミエーラは全く悪びれる様子が無い。


「当たったらどうするんですか?」


「すみません」


 反省の色を見せないルミエーラに言ったつもりなのだが、アリアが真っ先に謝ってしまう。

 彼女はトリシャの言葉を受け更に落ち込む。それは猫耳だけではなく頭まで垂れてしまった様子を見れば一目瞭然である。


「アリアじゃなくてルミエーラに言ったんだよ」


「ですが、私が防げなかった所為で」


「そうだぞ。防御魔法は大切なんだからもっと上達してくれないと困るな」


 トリシャがフォローを入れるも、ルミエーラは平然とアリアを追い込んでいく。


「いや、雷魔法使ったのはルミエーラでしょ。そもそも無茶苦茶な特訓を始めるからこんな事になるんですよ」


 自身にでは無く、アリアの方が雷撃に当たる危険性が高い。

 彼女がもし、今みたいに防ぎきれなくて直撃してしまったらと思うと、トリシャはルミエーラに苦情を入れずにはいられない。


「悪い、悪い。次からは当たらないようにするから」


「どうするんですか?」


「んー、そうだな……アイリスに頼んで防いでもらうよ」


 アイリスは、森の入口付近で、今も障壁とやらを張っている。

 そんな彼女に丸投げする形で頼むのは、負担にならないのかと考えてしまう。


「アイリスの負担にはならないんですか?」


「大丈夫、大丈夫。アリアと違ってアイリスはこういうの得意だから」


 気のせいかもしれないが、ルミエーラの言葉に、猫耳を垂らしているアリアが余計に落ち込んだ様に見えた。


「アリアのマナも減ってきたし特訓の続きは明日にしよう。それよりもトリシャの調子はどうだ?」


 責任を逃れる為かは分からないが、ルミエーラは急に話を転換してきた。

 教えて貰った魔法が、ある程度形になってきていたトリシャは、再び彼女の前で魔法を使って見せる事になる。


 足を肩幅に開き、右足を前に出して半身の形を取る。それと同時に右手と左手の手の平を逆向きに合わせ、体の左側へ寄せるのだ。

 そして、左足に重心を預ける仕草は、フリースビーを投げる時の構えから得た発想になる。


 トリシャは風魔法をフリスビーに見立てて、それを投げるイメージで魔法を使ってみようと考えたのだ。

 ルミエーラの構えだと、どうしてもボールの様な球体を投げているイメージしか湧かない。

 でも、こうする事でフリスビーやブーメランの様な円盤型や平たい投擲物をイメージしやすくなるのだ。


 右手と左手の間に魔法陣を描くと、トリシャはフリスビーを投擲する要領で魔法を使用する。

 魔法によって生まれた風は、大気を切り裂きながら突き進んで行く。

 ルミエーラの使った魔法に比べれば威力は劣ってしまうだろう。しかし、途中で空気中に散在しない魔法は、成功したと言えるに違いないのだ。


「どう?」


 トリシャは自身の魔法の出来の善し悪しを問う。

 自己採点では高得点をマークしているものの、ルミエーラがそれを良しとしなければ、新たな魔法を習得したとは言えない。

 だからこそ、彼女に魔法の出来を問うのである。


「まぁ、良いんじゃないか? 魔法は問題なく発動しているし、成功したと言えるだろう」


「やったー」


 成功という言葉を貰い。トリシャはわかり易く喜んだ。

 魔法を覚えること自体は楽しく、習得出来れば達成感が生まれる。トリシャは魔法に魅せられ、その習得にハマってしまっていた。

 魔女の手で理不尽にも、この世界に呼び寄せられたトリシャにとって、魔法という未知なるものの存在は、非常に興味をそそられる事だ。

 生前の記憶も無くし、一方的に従者の契約を交わされた理不尽この上ない境遇だからこそ、快楽を求めてしまう。

 魔法を習得する一連の流れはその快楽の1つだと言える事が出来よう。


「じゃあ明日は新しい魔法を教えてくれるんですか?」


 魔法の習得に味をしめたトリシャは、次に何の魔法を覚えられるか楽しみになってきていた。


「馬鹿言え、成功したとは言ったが使いこなせたかどうかは別だ。魔法の発動まで時間がかかるし隙も大きい。速度や命中率を考えると、まだまだ研鑽すべき箇所が山ほどあるだろ」


 次々に新しい魔法を覚えたいトリシャに、ルミエーラは辛辣な意見を突きつける。

 実用的に使う訳でもないのだから、練度を求められても困ってしまう。

 しかし、ここで逆らったところで、新しい魔法を教えて貰えない事に変わりはないので、トリシャは大人しく言う事を聞くしか無いのである。


「わかりました。使いこなせたと判断したら新しい魔法教えてくださいね」


「なんだ、物分り良いじゃないか」


 いつも以上に聞き分けの良いトリシャにルミエーラは驚きを露わにする。

 ルミエーラの従者になって4ヵ月。そろそろ彼女の性格に理解が及んでも不思議ではない。無駄に反抗しても疲れるだけなので、トリシャは引き際を覚えただけなのだ。


「まぁ、ちゃんと習得できたら次の魔法も教えてやるよ。だから真面目に練習に励めよ」


「わかってます」


 魔物と戦うわけでも、魔女として魔法を生業としているでもないトリシャに、魔法の実用性など関係ない。

 しかし、新たな魔法を覚える事が楽しみになってきているトリシャにとって、ルミエーラが納得いくレベルまで魔法を使える様になる事は、必要不可欠な要素になっていた。

 それは、新しい魔法を教えてもらえないからだけでは無く、彼女のお墨付きを貰えることが素直に嬉しく、魔法を覚える喜びに繋がってくるからである。

 誰かに採点、評価をされてこそ、習得後の喜びは一層大きくなるのだ。


「今日はこの辺で終わりにしよう。あまり1度に魔法を使い過ぎると明日がしんどいぞ」


「しんどいって?」


「疲労が溜まるって事だよ」


 激しい運動をすれば筋肉痛が引き起こる。魔法も使い過ぎれば魔法痛とかにでもなるのだろうか?

 使い過ぎると明日に影響が出ると言うのだったら無理に練習を続ける必要は無い。

 魔法についての知識に乏しいトリシャが、いくら練習を続けたいと思っていたとしても、我儘を言う事は無いのである。


「トリシャ、アイリスを読んできてくれないか?」


「わかりました」


 未だ落ち込んだままのアリアは、終始トリシャを視線で追いかけている。

 トリシャを守れなかったから防御魔法の特訓をしているのに、危うくトリシャに怪我を負わせる所だったのだ。

 そのトリシャが自身の失敗に対して何を感じているのか気になるのは仕方のない事なのだろう。

 その視線の先には、森の入口へ駆けていくトリシャの後ろ姿が映っているのだ。


「アイリス、帰るって」


 森の入口に佇んでいるアイリスの元に行くと声をかける。

 彼女はトリシャの存在に気がつくと、前に突き出していた両の手を下ろしていく。


「後ろに倒れたみたいでしたが、お怪我はありませんか?」


 離れた場所に居ても、アイリスはいつもトリシャの動向に気を配っているみたいだ。


「大丈夫。ちょっと尻餅をついただけ」


 アイリスは心配そうに、トリシャの腰周りに視線を落とす。

 そして、服の汚れを見つけたのか急に近寄ると、手でスカートに付いている汚れを払い始める。


「いいよ、帰ったら直ぐお風呂入るし」


 アイリスの急な接近は心臓に悪い。スカート越しにとはいえ、彼女に体を触られると赤面してしまう。

 照れが生じてしまったトリシャは、無意識に1歩後退してしまうのだ。


「そうですか。では、直ぐに入浴の準備をしないといけませんね」


「ルミエーラもアリアも待ってるから行こ」


 トリシャはアイリスを引き連れて、2人の待つ場所へと移動する。既に飛行艇の用意は終わっており、入口が開かれた所だった。

 トリシャはアリアに駆け寄ると、彼女を慰めながら飛行艇へと入って行く。

 明るい表情を向けて話しかけてくるトリシャの様子を見て、少しだけ元気を取り戻すアリアであった。


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