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魔女の従者と永劫の契約と  作者: 華月瑞季
三章 常緑の復讐者と花の妖精と
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48話 『魔法の復習と属性と』

 晴天に見舞われた空の中を、遥か上空に広がる雲が、左から右へと流れている。

 地に足を付け、その雲を眺める少女の名はトリシャ・ロゥリィスポットと言う。そんな彼女が現在立っている地というのは、彼女が初めて魔法を覚えた場所だ。

 何故、そんな場所にいるのかというと、目的はただ一つだけだった。その目的とは、ルミエーラに魔法を教えてもらうほか無いのである。



 事の発端は3日前まで遡る。アリアと共に洞窟から救助されたトリシャは、飛行艇に乗ると氷の城まで帰り着く。

 飛行艇内で約束通りアイリスとの入浴をした後、アリアの作ってくれた料理を頂いた。その後、自室に戻りウトウトし始めた矢先に、飛行艇は氷の城の中庭に着陸したのだった。

 帰ってきたトリシャが真っ先にとった行動は、氷の城の中で与えられた自室に向かう事だった。部屋に入るなりベッドにうつ伏せになったトリシャは、そのまま深い眠りについたのだ。

 何故なら、洞窟内で一応寝てはいたものの、睡眠をきちんと取れたわけでは無かったからだ。


 そんなトリシャが目を覚ました後、夕食の席でルミエーラにこう告げられるのである。


「明日にはここを出る予定だから、出発の準備を忘れないように」


 唐突な告知に、トリシャは食事の手を止め、面を上げてルミエーラの顔を見る。


「え? ここを出るって、飛行艇での生活に戻るという事ですか?」


「そう言ったつもりだが?」


 ルミエーラは、お皿に乗せられた牛肉を、ナイフとフォークを使って一口大に切り分けると、それを口の中へ運ぶ。

 表面に焼き目のついた牛肉は、アリアによって作られたソースがかかっており、深いコクと奥に潜む甘味が牛肉に絡むと、より濃厚な味わいを醸し出す。


「えっと、それじゃあクレアリスとはお別れという事ですか?」


 氷の城を離れて飛行艇での生活を再開するという事は即ち、氷の城に住まうクレアリスとのお別れを示唆する。

 予想よりも早いクレアリスとのお別れに、トリシャは動揺してしまう。


「いや、アリスも付いて来ると言っている。その為に準備が必要だと言っていたから、今頃部屋に篭って準備でもしているんじゃないか?」


 クレアリスとお別れせずに済むと知り、トリシャは安心するのである。

 今や彼女とは友達と言える関係になり、彼女と行うお菓子作りも、日々の生活を彩るのに欠かせない要素となっていた。

 甘いお菓子が食べられるだけではなく、その報酬としてお小遣いも貰える。何よりも、クレアリスと過ごす日々は楽しいの一言に尽きるのだ。

 つまり、トリシャにとってメリットしかないわけで、飛行艇という小さな世界で楽しく暮らしていく為には、必要不可欠なファクターなのだ。


「付いて来るって事は飛行艇で過ごすって事ですよね?」


「ああ、ちょうど部屋が1つ余っているからな。そこをアリスの部屋に当てるつもりだ」


 飛行艇のトリシャの部屋の奥にもう一つ部屋がある。トリシャは今までその部屋に入った事は無かった。

 しかし、一番初めにアイリスから飛行艇を案内された時に、彼女の口から空き部屋だと聞かされた事を思い出す。


「あと、明日は仕事があるから部屋の中にいてもらうが、明後日からは魔法を教えてやるからサボってる文字の勉強はしておけよ」


 氷の城へやって来てから、トリシャは文字の勉強にほとんど手を付けていなかった。

 何故なら、クレアリスと一緒にお菓子作りに夢中になっていたからだ。

 その他にも、お小遣いで買ったカメラを使って写真撮影をしたり、週に1回、クレアリスに付いて街へ出かけたりしていた。

 そんな日々を送るトリシャが文字の勉強をやっているはずが無いのである。

 その様子をルミエーラは、アイリスから報告として全て聞いていたのであった。


「いやー、サボってるだなんて……」


「私を誤魔化せると思うなよ」


 ルミエーラに真っ直ぐ見つめられたトリシャは、思わず視線を逸らしてしまう。


「はい、明日からは頑張ります」


「今日からでもいいんだぞ?」


「あ、あれだよ。明日には出発するなら準備をしないといけないし……」


「まぁ、勉強してないと魔法の習得がスムーズに行かないからな。前出来ていた事が出来ないという事態だけは勘弁してくれよ?」


 文字が書けないと、魔法陣を描く事すらままならない。魔法の習得に直接関わってくる事だからこそ、ルミエーラは執拗に念を押すのだった。

 そんなトリシャは、開いた1日を使って文字の勉強を再開させていく。



 こうして、氷の城での生活と別れを告げると共に、魔法を教えてもらう事になったのだ。

 トリシャは昨日、1ヶ月ぶりに本を開く事になったのだが案の定、文字の書き方を忘れてしまっていた。

 しかし、自分がサボっていた付けを拭うために、昨日1日でなんとか元の状態まで読み書きできる様に必死に勉強したのだった。

 それでも、いざ魔法を教えてもらうとなると、自信を持てないトリシャは不安を覚えてしまう。


 森の入口付近に佇むのは、全員で4人だ。

 トリシャとルミエーラとアリア、そして、森の入口で障壁とやらを張っているアイリスの4人になる。

 クレアリスは何か用事があるみたいで、この場に姿は無い。


「前に教えた魔法は覚えているか?」


「ええっと、防御魔法と、エアショットでしたっけ?」


 トリシャが現在使える魔法は、風魔法のエアショットと、防御魔法だけだった。


「エアショット?」


 隣にいるアリアが不思議そうな表情でこちらを向いてくる。


「初心者用の風魔法って、ルミエーラから教わったんだけど……」


「それはきっと、ウィンドショットではありませんか?」


 ここでトリシャは、ルミエーラから教わった時の事を思い出す。

 確か、ウィンドショットとエアショット、どちらか好きな呼び方を選べと言っていた。

 つまり、トリシャが選んだエアショットが間違いで、正しくは風魔法ウィンドショットという名称ということになる。


「はは、間違えて覚えていたみたいだな」


 その様子を見ていたルミエーラは鼻で笑う。

 間違えの原因となる人物に笑われた事で、トリシャは反論せずにはいられなくなる。


「ルミエーラが魔法の名称を覚えていなかった所為で、間違えて覚える羽目になったんじゃないですか!」


「あれ、そうだっけ?」


「そうですよ」


 惚けるルミエーラに対して、トリシャは頬を膨らませる動作をする。


「まぁ、名前なんて細かい事気にするな」


「魔法ってイメージが大事って言ってませんでしたっけ?」


 トリシャはここで、ルミエーラが以前言っていた事を思い出す。


「言ってたかも知れないが、それがどうした?」


「そのイメージを持つためにも、正しい名前を教えてもらう事は必要だと思います」


 ルミエーラの大らかな性格は、魔法の教示の際だけでも直してもらいたい事柄だ。

 魔法を使う感覚を養う為にトリシャのマナを使って強引に魔法を使ったり、防御魔法を習得する為に魔法で攻撃してきたりと、無茶をする事も多い。

 これを機にルミエーラの教え方が優しくならないかと、トリシャは夢見るのだった。


「正しい名前が知りたいならアリアに聞けば良いだろう。それよりも、教えた魔法を覚えているか見てやるから使ってみろ」


 期待も儚く、ルミエーラは相変わらず自身のスタンスを変更しない様子だ。トリシャは仕方なく、言われた通りに魔法を行使する事にした。

 風魔法エアショット。正しくは風魔法ウィンドショット。

 今しがたアリアによって訂正された魔法は、空気の塊を前方に発射する現象を引き起こす。

 それを生み出す為に用いるのは、マナと呼ばれる未知のエネルギーと、魔法を起動させる為に必要な魔法陣を描くという行為だ。


 両手を合わせて銃を構えるポーズを取る。突き出された人差し指は銃口を意味し、その先に魔法陣を描いていく。

 マナを使って描く魔法陣は、緑色に淡く輝いている。そこから前方に狙いを定め、魔法陣から生まれた空気の塊を放っていくのだ。

 生み出された魔法は、風となって大気をかき分けていく。それに伴い生じた風の流れは、不規則な大気の流れを遮って一筋の風の通り道を作る。

 一時的では有るが、人工的に作られた風の通り道は、トリシャが魔法を行使できた事を意味する。

 ふた月弱のブランクを経ても尚、トリシャは教えて貰った魔法を使って見せるのだった。


「なんだ。きちんと覚えているじゃないか」


 忘れていると思われていたのか、ルミエーラは感心した様子を見せる。

 昨夜、アイリスの監視の元(頼んだのはトリシャ)必死に復習をしたかいがあるってものだ。


「これからトリシャの適性属性を調べる。探しても無いなぁと思っていたら、あの城の中に置いたままだったんだ。これでトリシャの適性も見る事が出来るな」


 そういうルミエーラが取り出したのは、7色の宝石を付けた顔ほどの大きさの厚みのある円盤だった。

 7つの宝石はそれぞれ違う色に輝いており、盤面に施された複雑な模様が、その道具を高価な物だという印象を与える。


「何これ? 適性属性って何ですか?」


「これはエレメントコンパスといって、平たくいえば属性魔法の適性を調べる道具だな」


 どうやら属性を伴う魔法には、人によって得意不得意があるらしい。7色に輝く宝石は、それぞれの属性を意味しているのだろう。

 トリシャは自身の属性魔法の適性に興味を示していく。


「とりあえず手で触れてマナを注いでみろ。適性があれば光り、無ければ光らない。わかりやすいだろ?」


 トリシャはエレメントコンパスといわれた円盤に向かって手のひらを差し出す。中央の灰色をした宝石に触れるとマナを注いでみるのであった。


「これは光らないね」


「当たり前だ。それはいいから他の魔石を試してみろ」


 中央は属性魔法と関係無いのか、一切の光を放たなかった。トリシャが宝石だと認識していた7色の欠片は、どうやら魔石と呼ばれる代物のみたいだ。

 トリシャは手をそのまま上にスライドさせる。彩度が低く、高明度な白色の魔石に触れると、改めてマナを注ぐのだ。

 すると、辺りを覆うほどの光源が白い魔石を中心に生まれる。余りに強い輝きを受けて、トリシャは目を瞑ってしまう。

 たじろぐ様に1歩後退すると、魔石から手が離れた為か、ようやく辺りを照らしていた光が無くなるのであった。


「目がぁ、目がぁ」


「何やってるんだ? いいから残りの魔石にもマナを注いでみろ」


 手の平で目を抑えて大袈裟なリアクションを取るトリシャに対し、ルミエーラは冷たい反応を見せる。


「こんなに強く光るなら先に言って下さい」


「私の魔法に比べれば、そんなに眩しいものでもないだろ」


 ルミエーラの雷の魔法と比べると、魔石から放たれた光源は眩しいものでもないのかもしれ無い。

 しかし、間近で発光する瞬間を見てしたまったトリシャは、不満を口にしたくなったのである。


「大丈夫ですか?」


 冷たい反応のルミエーラと違い、隣にいるアリアは心配をしてくれている。

 あれほど強い光を受けたのにもかかわらず、魔石の光は視力には何の影響も無いみたいで、トリシャが取ったリアクションほど影響は無かった。


 気を取り直して、トリシャは残りの魔石にマナを注いでいく。

 光に対して敏感になったトリシャは、腰を引いた状態で、恐る恐る手を触れるのだが、結果として白い魔石ほど光る魔石は無かった。

 緑、赤、黄、青色の魔石については、どれも均等な輝きを見せた。しかし、そのどれもが、白色の魔石が放った輝きには劣るものだったのだ。

 残りの黒い魔石も輝きを見せるのだが、他の5色に比べたら、その輝きは弱く見えるのだった。


「全部光ったんですが、僕の適性魔法って何なんです?」


 トリシャは当然の疑問を浮かべる。

 適性があったら光って、適性が無ければ光らない魔石は、強弱はあれど、中央の灰色の魔石以外光って見せた。

 この場合の属性魔法の適性が何なのか、気にならずにはいられないのは必然だと言えよう。


「トリシャの適性属性は……」


 唾を飲み込みルミエーラの言葉を待つ。

 彼女の様な雷の魔法を使いこなす為には、雷属性の適性が必要だろう。

 トリシャがこの世界で見てきた魔法の中で、憧れや目標を抱くとすれば当然、ルミエーラの使う魔法しかないのである。

 いつの間にかルミエーラの雷魔法に憧れを抱いていたトリシャは、手に汗を握り、ルミエーラの言葉に耳を傾けるのであった。


総合評価500 ブックマーク200ありがとうございます。

後回しにしていた改稿作業の加筆で話数が重複したりしますがご了承ください。

※ストーリーの変更はありません



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