表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の従者と永劫の契約と  作者: 華月瑞季
外伝1 白銀の城と
59/92

9話 『就寝前のお願いと』

 ルミエーラは相変わらずクレアリスの世話をアイリスに任せきりだった。何故なら、彼女に幼い子供の面倒を見るつもりはなく、研究を最優先に生活していたからだ。

 それでも時折、クレアリスの様子が気になるようで、アイリス伝いに動向を伺っていた。

 そんな中、クレアリスは母親の面影を求めてか、ルミエーラに我が儘を言うようになるのだった。

 特に月に数回は情緒不安定になるのか、アイリスだけでは無く、ルミエーラとも添い寝を求めてしまうのだ。


「ルミエ……今日はダメ?」


 時折こうしてルミエーラの元を訪れるクレアリスは、彼女の様子を伺いながら夜を共にする事をお願いしに来るのだ。


「はぁ、またか? まだ1週間しか経ってないじゃないか」


「ダメならいい、我慢する」


 ルミエーラの溜息を聞いたクレアリスは、落ち込むと同時に部屋を退出しようとする。


「ダメでは無いさ。普段アイリスに任せきりだからな。これくらいならしてやるさ」


 そう言うと、ルミエーラは丸い座面の背もたれの無い椅子から立ち上がる。

 ルミエーラの声に足を止めていたクレアリスは、振り返り彼女に近づくと嬉しさの余り抱きつくのだった。


「ルミエ、大好き」


「おいおい、これじゃ歩けないじゃないか。もう寝る時間だろ? さっさと部屋に戻るぞ」


「はーい」


 クレアリスの表情は笑顔で満ちていた。悪態を付きながらも最終的にはお願いを聞いてくれるルミエーラを、クレアリスは心の底から慕っているのだ。


 研究施設から転移魔法を使って梟の置物のある部屋へと移動する。その部屋の中にはアイリスの姿があった。

 魔法の知識の無いクレアリスが、1人で研究施設に来るには、アイリスの協力が不可欠だ。つまり、彼女が魔方陣を使ってクレアリスを研究施設まで転移させた事になる。

 どうやら、クレアリスが戻ってくるのを来るのを待っていたみたいだ。


「お願い聞いてもらえたようですね」


「うん」


「アイリス、せめて来る時はお前が付き添ってやれ」


 ルミエーラは、クレアリスを1人で来させた事に不満を漏らす。何故なら、クレアリスが施設から転移する前の部屋に戻るには、ルミエーラが転移魔法を起動しなくてはならないからだ。

 アイリスが付き添っていれば容易に断る事も出来るのだが、クレアリス1人だと魔方陣を起動させるのに、結局作業を中断しなくてはならない。

 1度作業を中断してしまえば、ルミエーラの性格からクレアリスのお願いを断る事は無い。


「クレア様だけで伺った方が良いと思いまして」


「お前、わざとだろ?」


「何のことでしょう」


 惚けてみせるアイリスに、ルミエーラの溜息は止まらなかった。何故なら、クレアリスのお願いを聞く事になったのも、アイリスの思い通りに事が進んだようにしか思えないからだ。


「クレア様も眠くなってきたみたいですし、部屋に戻りましょうか」


 クレアリスの方に視線を落とすと、彼女は瞼を擦る仕草をしていた。

 水色のワンピースに身を包むクレアリスは、まだ夜更かしをするには早い幼い子供なのだ。


 ルミエーラは氷の城で生活を始める際に、クレアリスの部屋を設けていた。それは、ルミエーラの部屋となった研究施設への入口がある部屋の隣に位置する。

 クレアリスの部屋は、床も天井も壁も白一色に統一されていた。それは、元々の部屋の配色では無く、クレアリスが過ごしていた家に近づける為に染めたものだった。

 部屋に移動した3人は、クレアリスを中央にしてベッドの上に横になる。天蓋付きのベッドは、3人で寝るには少し窮屈だ。

 しかし、クレアリスたっての希望なので、ルミエーラは仕方なく体を密着させるのだった。


「私が来たら狭くなるだけだし、邪魔じゃないか?」


「良いの。なんか安心するんだもん」


 手狭に感じるルミエーラとは違い、クレアリスは嬉しそうな表情を浮かべる。


「アイリスだけじゃダメなのか?」


「たまにルミエと一緒に寝たくなるの。アイリスじゃダメって事は無いけど、ルミエも一緒の方が良い」


「きっと、ルミエに母性を感じているのだと思います」


 上手く説明が出来ていないクレアリスの言葉を補うように、隣にいるアイリスが補足をする。


「母性ねぇ。ま、確かにアイリスだと母親というより姉だもんな」


「どちらかといえば使用人だと思われますが」


「ルミエはパティの代わりじゃないし、アイリスだって必要だもん」


 姉か使用人かはともかく、クレアリスにとってアイリスは、何者にも変え難い大切な者になっているみたいだ。

 それはルミエーラも同じで、母親の代わりにはならないものの、母親を失った悲しみを補う様に、2人を慕うようになっていたのだ。


「分かったから今日はもう寝な。瞼も閉じてきているんだから無理するな」


「うん……」


 ルミエーラが落ち着いたトーンで話しかけると、クレアリスはゆっくり瞳を閉じる。ルミエーラとアイリスに挟まれ安心しきったのか、幸せそうな表情で眠りに付く。

 クレアリスが眠り始めたのを確認すると、ルミエーラは静かにベッドから降りるのだった。


「今日も朝まで居ないのですか?」


「そんな狭い場所では寝られないんでな」


 アイリスの問いに答えると、ルミエーラは部屋から退室する。

 朝食の席でクレアリスの不貞腐れた顔を拝む事になるのだが、それでも彼女は就寝を共にしようとはしなかった。

 それは、彼女がクレアリスの母親の代わりになれない事を理解しているからなのかもしれない。



 翌日、案の定クレアリスの機嫌は悪くなっていた。就寝中にルミエーラが居なくなった事を不満に思っているのだ。


「そう不貞腐れるな。可愛い顔が台無しだぞ」


「だって、また朝まで居てくれなかった」


 クレアリスはスプーンを握りしめて、アイリスの作ったスープを飲んでいた。その握り方は、本来の握り方に反しており、上手くスープをすくえない事も多々あるのだ。


「仕方ないだろ、私は忙しいんだ。寝る前だけでも一緒にいてやるんだから有難く思え」


「じゃあ寝る前だけでいいから毎日一緒にいてよ」


 クレアリスはスープをすくいながらルミエーラの様子を伺う。


「毎日? そんなの面倒くさくて付き合ってられんな」


 期待はしていなかった。しかし、それでもクレアリスは落ち込まずにはいられないのだ。


「眠る前の一時共にすればクレア様の機嫌が直るのですよ。面倒くさがらずに付き合ってあげては如何ですか?」


 食卓の横に佇むアイリスが、ルミエーラを諭すように言う。


「……分かったよ。毎日じゃないけど気が向いたら付き合ってやる」


「本当?」


 クレアリスは喜びの余り、机から身を乗り出す。胸の辺りまで伸びた髪の毛を揺らしながら笑を零すのだった。

 それに対してルミエーラは溜息を吐きながら頷くのだった。


 それからというもの、クレアリスは毎晩ルミエーラの居る研究施設へ足を運んだ。3回に1回くらいは断られてしまうのだが、クレアリスが通うのを辞める事は無い。

 クレアリスが眠りに付くと、ルミエーラは部屋から退出してしまうのだが、それでも寝る前の一時を共有する事でクレアリスは安心感を覚えるのだ。


 そんなこんなで、氷の城での生活も2ヶ月が過ぎようとしていた頃、アイリスは単身でルミエーラの居る研究施設に訪れていた。

 彼女がルミエーラを訪ねて研究施設へと出入りするのは、基本的にクレアリスについての報告が主となっている。

 この日もまた、クレアリスの様子について報告を終えたところであった。


「以上です」


「そうか、普段と代わりないな」


 ルミエーラは息抜きにと、アイリスの入れた紅茶を口にする。


「それと、一つお願いがあるのですが……」


「何だ? 言ってみろ」


 改まるアイリスを横目で見ながら、ルミエーラは紅茶を入れた容器を机の上に置いた。


「近々クレア様の誕生日を迎えるのですが、ルミエにプレゼントを用意して欲しいのです」


 ルミエーラは把握していなかったが、アイリスはクレアリスの誕生日の日にちを知っていた。

 本人ですら覚えていない日付だが、アイリスが前の主が娘を産んだ日の事を忘れるはずが無かった。


「私が用意するのか?」


「ええ、そう言いましたよ」


 ルミエーラは長年人の誕生日を祝った事が無かった。いざプレゼントをと言われても、何を用意すれば良いのか分からないのである。


「アイリスが選んだのを渡しちゃダメなのか?」


「いけません」


「何か良い案とかないか?」


 頭を抱えるルミエーラは、アイリスに知恵を貸してもらおうとする。


「プレゼントは後々考えるとして、誕生日ケーキを作られては如何ですか?」


「ケーキか、それもいいな。でも、プレゼントとの解決にはなっていないじゃないか」


「ご自身でお考えください」


 アイリスに良い案を貰おうと聞いてみたものの、用件が増えただけに終わる。


「最近買い物はレジーナに任せていたが、明日は久々に街に降りてみようか」


「私も付いて行っても宜しいでしょうか?」


「それはいいが、クレアリスは大丈夫なのか?」


 ルミエーラが不安視するのは、アイリスにベッタリくっ付いているクレアリスが、彼女無しで大人しく待っていられるかと言う事だった。


「心配いりません。クレア様については私が何とかしますから」


「そうか、ならいいんだが」


 クレアリスの誕生日プレゼントを何にするか悩むルミエーラは、研究に手がつかないでいた。

 アイリスが退出した後も、椅子に腰掛けたま天を仰いで考え込む。


「さて、どうしたものか……」


 クレアリスの好みも何に興味を持っているのか分からない彼女が答えを出すには、まだまだ時間を要してしまうのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ