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魔女の従者と永劫の契約と  作者: 華月瑞季
二章 白銀の幼女と母親の愛情と
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28話 『雨の日々と魔人の存在と』

 雨の日が続き、ここ半月は外出する機会が減っていた。それでも雨の降っていない地域を選び、魔法の練習や買い出しなどを行っていたのだが、本格的な雨期に入ってしまった所為で、トリシャは外出する機会を奪われてしまう。

 買い物はおろか、魔法の練習も出来ないので、やる事と言えば文字の勉強とお茶会くらいしか無い。お小遣いで購入したお菓子も、アリアが定期的にお菓子を作ってくれるとはいえ、底を付きかけていた。

 新たに魔方陣を描く練習や魔法式を覚える事は出来るようになったが、トリシャにとっては文字の勉強と大差はなかった。


「あーもう。何か室内で出来る事でもないかなぁ」


「難しい問題ですね」


 アイリスはトリシャの悩みに必死に答えようとするが、トリシャの望む答えを出すことが出来ない。というのも、彼女たち魔人に暇という概念が存在しないからである。


「アイリス達は暇になったら何しているの?」


 アイリスは寝ている時も起きている時もトリシャに付き添っているし、アリアに至っては家事全般を1人でこなしているのだから暇が無さそうに見えたが、トリシャは思い切って聞いてみた。


「やることが無くなっても、何かをすることはありませんね。何もない時は待機状態になりますから」


「待機状態?」


 あまり期待はしていなかったが予想の斜め上の答えに、トリシャが直ぐに理解する事は出来なかった。


「ええ、ジュエリーの形態をとり、魔女――私たちの場合はルミエの装身具として側にいる事となります」


 トリシャはここで、アイリスを初めて見た時の事を思い出す。今まで忘れていたが、彼女と初めて会ったのは、ルミエーラの中指にはめている指輪が光り出して、その中から少女が現れた時だった。

今思えば、指輪の形をしている時が待機状態なのだと、トリシャはようやくアイリスの言葉を理解した。


「待機状態の時って意識ってあるの?」


「そうですね……基本的に意識があるわけではありませんが、ぼんやりとした記憶はあります。浅い睡眠に近い状態でしょうか、ルミエが魔力を注ぐと指輪の状態でも意識がはっきりしますよ」


 先ほどとは違い、アイリスは丁寧に説明してくれる。パソコンのスリープ状態の様なものかと、トリシャは勝手に解釈するのであった。


「僕には待機モードとかないの?」


「トリシャに、ですか?」


 待機状態という便利なものが存在するのなら、ルミエーラの仕事にも意識のある状態で付いて行くことも出来ると考えたのだった。それには彼女の同意や彼女に身に着けられることが前提なのだが、暇を持て余したトリシャにはそんな些細の事はどうでもよかった。


「この場合、残念と言ったら良いんでしょうが、トリシャは魔人ではなく生体人形なのでジュエリー形態になることは出来ませんね」


 そこまで深く考えていたわけではないので、トリシャが落ち込むことは無い。しかし、生体人形と魔人について理解に欠けている事は今しがた理解した。

 アイリスやアリアと接していると、彼女たちが魔人という存在である事を忘れてしまう。いつの間にか、魔人と生体人形を混同しているトリシャであった。


「いまいち、魔人と生体人形の違いが分からないんだよなー。大きな違いって何なのかな?」


 この際、違いをきちんと覚えようとトリシャは思うのであった。対して重要な事だとは思えないが、暇を潰すことが出来るなら話題は何でもよかった。


「魔人というのは魔女や悪魔の造り出した人型の従者と、人型の悪魔が魔人と呼ばれる場合があります。それと違って生体人形と言うのは造り出された命、端的に言えば人に近い存在なのです」


 場合によっては悪魔を含むのが魔人で、ほぼ人間と同じ存在が生体人形という事だろうか。この前出会ったウェルシュやその父親を見ると、アリアもアイリスも人間と違いの無い様に見えるから不思議に思える。

 アイリスの説明だと魔人の従者が魔人という事もあり得るのだが、人型の悪魔に興味のないトリシャには、その疑問は思いつかない。


「生体人形は一応人間で、魔人は人間じゃないという認識でいいのかな?」


「概ねその認識で間違いないかと。端的に申し上げると、トリシャは魔女に造られた人間で、私達は道具と同じ存在です」


 アイリスの物言いはトリシャの癇に障るのだった。


「そんな風に言わないでよ!」


 自身を道具と同じだと言うアイリスに、トリシャは気が付いた時には声を荒げていた。例え事実がそうだとしても、彼女達を道具とは思いたくは無かったのだ。

 トリシャにとって、この世界で唯一、気の許せる存在が彼女たち魔人なのだ。それを自ら道具と蔑むのは、トリシャが声を荒げるには十分だった。


「僕にとってはアイリスもアリアも道具じゃなく、人間と変わりないよ……だからそんな風に言わないで欲しい……」


「すみません、言葉が不適切だったみたいですね。ですが……私達は魔女に使われる為に生み出されました。その気遣いは嬉しいですが、私達の存在理由は変わらないのです……」


 強く言葉を発したトリシャにアイリスは謝るが、魔人と人間とでは根本的な立場と考え方が違うのだ。トリシャがいくら強く言ったところで、彼女達の考え方が変わるわけでもない。

 アイリスには彼女が生み出された理由があり、それが唯一であり絶対の存在理由に名のだろう。魔女に使役される為に生み出され存在している。それが彼女たち魔人の存在意義であり全てなのだ。


「人として仲良くしていく事は出来ないの?」


「今まで通り仲良くする事はできるでしょう。しかし、私達が人ならざる存在である事は変えようのない事実なのです」


 トリシャはやり場のない憤りを覚えた。彼女たち魔人と仲良くしていく事はきっとできるだろう。だが、それはあくまでルミエーラという魔女の存在が間に入っているからに過ぎない。

 トリシャの事を第一に考えてくれているアイリスも、いざという時――それこそルミエーラと仲違いすれば、きっと彼女の――魔女側に付くに決まっている。

 この世界での拠り所、本当の意味でのトリシャの味方になってくれる者はだれ1人としていない事を理解してしまったのだ。

 孤独を感じると同時に、魔人という存在そのものに怒りを感じられずにはいられなかった。


「ごめん。ちょっと言い過ぎた……」


「いえ、謝る必要はありません。直ぐに受け入れるのは難しい事かもしれませんが、どうか私達の存在だけは否定しないでもらえれば幸いです」


 そう言うと、アイリスはトリシャの手を取る。握られた手を見つめるように視線を落とすトリシャには、今だけは彼女の顔を見ることが出来なかった。

 握られた手には血が通い、生を感じさせるほどの温かみがある。トリシャには素直に彼女たち魔人を人間ではないと割り切ることが出来ないのである。


「心が乱れた時は紅茶を飲むといいですよ。用意してくるので待っていてくださいね」


 徐に握っていた手を離そうとするアイリスの手を強く握って離れるのを阻止する。その指は細く、少し人肌より高い温もりからは人間味を感じられる。今こうして目の前にしていると、彼女が魔人だという事が嘘のように思える。


「どうかされました?」


 急に手を強く握られて、アイリスは驚きを露わにする。手を握ったまま離そうとしないトリシャが何も言葉を発しないのでアイリスは不安に駆られるのだ。


「ごめん……紅茶、紅茶を飲んだら落ち着くかもしれないから準備を頼むよ」


「かしこまりました」


 トリシャはぎこちない笑顔を見せると、そっと手を離す。手が離れるのが確認されると、アイリスは紅茶を入れに部屋から出て行った。

 自身の身勝手な気持ちでアイリスを困らせてしまったと反省する気持ちが半分。もう半分はアイリスやアリアを魔人として見られないもどかしい気持ちに苛まれる。

 彼女たちと仲良くしたい気持ちは変わらないが、一定数を越えて仲良くなることは叶わないのだろう。

 より親密に信頼関係を結ぶには、どうしたらいいか考えてみるが答えなどでなかった。彼女たちが魔人で、トリシャを含めた存在の定義が変わらない限り、彼女たちとの関係性も変わることは無いのである。



 それから数日間、アイリスとぎこちない関係が続いた。トリシャと違い、アイリスは今までと何ら変わらなく接してくれていたと思うが、トリシャの方が接し方を迷走していて、ぎこちない対応になっていたのだ。

 といっても、関係が険悪になったわけでは無い。見ようによっては今までと何ら変わらない関係に見えるだろう。しかし、このままではいけないと分かってはいても、そう簡単に踏ん切りがつかないのである。


 そうやって時間が過ぎていく内に梅雨は終わりを告げて去っていくのであった。また、買い物や魔法の練習に外へ出ることが出来ると、素直に喜べないほど、トリシャはアイリスとの事を気に病んでいた。


「梅雨が開けたということで、明日から氷の島に行こうと思う」


夕食の席でルミエーラが突然、今後の方針について語り出す。梅雨が開けたら氷の島に行くと、恒例行事の様に言われても戸惑うばかりである。


「氷の島ってどういう所ですか?」


 氷の島というからには南極大陸や北極の様な極寒の地を思い浮かべてしまう。ここ最近は少しずつだが気温が上昇すると共に暑さを感じる事も増えてきた。という事は、これから夏がやって来るという事だ。氷の島といえ、一面が氷だという事は想像しにくい。


「涼しい所だ。明日から気温があがるみたいだからな。生憎、このオンボロ飛行艇には冷房装置が付いていないんだ。夏の間だけでも、そこで生活しようと思っている」


 梅雨が開け、夏がやって来るので涼しい氷の島へ行くと言うわけか。確かに、この数週間、冷房器具を一切見なかった。となれば、今度は冬になれば暖房が無いからと火山地帯にでも行くのだろうか?

 冷房器具が無いと聞き、トリシャは先行きが不安にならずにはいられなかった。あれだけ気前よく服や家具を購入してくれたのに、冷房設備くらい整えればいいのにと思わずにはいられなかった。


「少し肌寒く感じるかもしれないから、長袖で行くことをおすすめする」


 わざわざ知らせるという事は、それだけ気温が低いのだろう。まだ涼しいという事や肌寒いという情報しかないが、トリシャは早くも氷の島に行くのを楽しみにしていた。

 それだけでなく、ようやくルミエーラの水着のような服装以外が見られるのかと内心期待していた。彼女の服装自体には興味が無いが、過度な露出は控えて欲しいと日ごろから感じていたのだ。

 ようやく慣れてきたと言いたい所だが、無造作に谷間を露出し動くたびに形を変える谷間は、未だに直視する事は出来ないのだった。


「アリア、準備を頼むぞ」


「かしこまりました」


 何の準備が必要かは想像がつかないが、長期間滞在するのならば、それなりに必要な準備もあるのだろう。きっと準備は彼女1人でする事になるわけだが、彼女なら滞りなく完璧にしてくれるはずだ。


「アイリスは・・・・・・いつも通りトリシャのお守りを頼む」


 間が開くという事は特に役割が何も無い事を示唆している。それよりも、護衛のことをお守りと言うのは辞めてもらいたい。その言い方ではまるで子供に保護者が付き添っているみたいではないか。


「かしこまりました」


「お守りしゃなくて護衛でお願いします」


「どちらでも同じだろ」


 トリシャの小さな抵抗虚しく護衛とお守は同じ扱いにされた。言葉が変わるだけでニュアンスが大きく変わってしまうので、当然ながら不満を感じてしまう。

 アイリスはアイリスで、何の引っかかりも感じることなく承認してしまうのだ。トリシャが彼女に視線を向けると、屈託のない笑顔で応じられる。

 これ以上講義すると本当に子供っぽくなってしまうので大人しく黙っておくことにするのだった。


「聞いていた通り氷の島に行くからトリシャの周りの事は任せるぞ」


「お任せください」


 アイリスはルミエーラから直々に役割を与えられ嬉しそうな表情をする。


「僕には何か無いんですか?」


 トリシャは何となくノリで聞いてみる。アリアやアイリスの様に役割が欲しいわけでは無かったが、ここ数日暇な日が続いていたこともあり、何かを期待して問いかけたのだ。


「お前にか……子供には気を付けろよ」


「え?」


 一言だけ言い残して、食事を終えたルミエーラは自室へと帰っていった。子供に注意と言われても、それだけでは何に警戒をすればいいのか予測がつかない。

 何となく聞いてみただけなのに、引っ掛かりを感じてしまう結果に終わった。


「子供って?」


 トリシャはたまらず隣にいるアイリスに質問をぶつける。


「それはきっとクレア様の事ですね。詳しくは明日になれば分かると思われます」


 ルミエーラは言葉足らずな事が多いが、アイリスやアリアも説明を省くことが多々ある。この世界に来て1ヶ月ほどしか過ごしていないトリシャには1から10まで説明してもらわないと理解できない事が多い。


「クレアってどんな子なの?」


「そうですね。ルミエとの仲は険悪なので、ここ何年かの様子は語ることが出来ません。実際会ってみて、ご自身の目で確認するのが良いでしょう」


百聞は一見に如かずという言葉がある通り、聞くよりも見た方が早いという事なのだろう。クレアという子供の事も気になるトリシャは、明日が来るのを待ち望むのであった。



 初投稿から約1ヶ月半で累計PV1万を超えることが出来ました。

 ブックマークが増えたり評価を貰ったりする度に、更新頻度を落とさない様にしようと、モチベーションにつながります。


 

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