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魔女の従者と永劫の契約と  作者: 華月瑞季
一章 金色の魔女と従者の契約と
22/92

21話 『両隣の少女たちと』

 アイリスに押し倒されてしまったトリシャは、自身の右手の上に彼女の胸部が押し付けられている事に気が付く。

 その膨らみから伝わる弾力を感じたトリシャは手を引き抜こうとしたが、少女の体が押し付けられている為か、手を抜く事が出来なかった。


「すみません、押し倒してしまって。嬉しくて、つい抱き着いてしまいました」


 上に覆いかぶさっていたアイリスは、謝罪と共に体を起こす。少女の体が離れた事で、ようやくトリシャの右手は自由に動くかす事が出来るのだ。


「いや、その……こちらこそごめん」


「何がですか?」


 流れでついつい謝ってしまったが、胸に触れた事を謝罪したところで、少女に伝わりはしなかった。

 これ以上喋ると、自ら墓穴を掘る事になりかねないので、トリシャはこの件について触れない事にした。


「いや、何でもないよ」


 はぐらかすトリシャに、アイリスは不思議そうな目で見つめる。その無垢な眼差しが余計に罪悪感を持つ事となるのだが――

 そんなやり取りをしている中、部屋の扉がノックされる音が聞こえてくる。


「アリアが来たみたいですね。私が開けてきます」


 そう言うと、アイリスはベッドから降りて扉の方へ向かった。

 事前に打ち合わせでもしていたのだろう。そうではなくとも、この部屋に訪れる人はアリアくらいしかいないが――

 アイリスの手際の良さから事前に打ち合わせしていたと見る方が自然である。

 トリシャは上体を起こして、ベッドに座り直す。少女が扉の方に行っている間に、高鳴った心臓の鼓動を落ち着けることにした。

 深く2回呼吸をすると平常時ほどとはいかないものの、鼓動が少しずつ落ち着いてくる。


 トリシャが息を整えている間に、アリアが部屋に入ってきていた。その手にはティーセットを乗せたトレーを持っている。

 彼女は鏡台にトレーを置くと早速、紅茶をカップに注いでいく。

 戻ってきたアイリスは当たり前の様にトリシャの横に腰かけると、楽しそうな笑顔を向ける。

 その表情を不思議に思わず、トリシャはアリアの入れてくれる紅茶を楽しみに待つのであった。


「アイリスだけではなく、トリシャにも心配をかけていたみたいですね。

でも、心配はいりません。私は平気ですから」


 アリアは注ぎ終えた紅茶を、トリシャに手渡す。ミルクの伴った紅茶の甘い香りが鼻に抜けていく。

 彼女の入れてくれる紅茶は熱すぎる事も無く、渡された瞬間から美味しく飲む事が出来る。

 少女の口から直接心配はいらないと言われたのだ。気にしても仕方がない事だと考えながら、トリシャは入れ立ての紅茶を啜るのであった。


「大丈夫そうなら良かったよ。僕に出来る事があったら言ってね」


「そのことでアイリスと話したんですが。今夜、私もご一緒してもよろしいでしょうか?」


 トリシャは危うく紅茶を吹き出しそうになる。今夜という事は、もしかしなくても寝床を共にするという事だろう。

 彼女たちは食堂で密かに話していたに違いない。聞き取ることが出来なかったが、あの時楽しそうに耳打ちしていた話だと、トリシャは確信を持つ。

 だからなのか、アリアが入ってきたときから終始にこやかな表情を見せるアイリスが、ご機嫌な理由が分かった気がした。


「そこで、今夜はこれを着て就寝したいと思うのですが、いかがですか?」


 徐に立ち上がったアイリスは、鏡台の足元に置いた袋に手を伸ばす。そこから取り出したのは薄いレースで出来た、下着の様な素材でできたワンピースだった。

 ネグリジェやベビードルといった方が正しく思えるようなくらい、色気に溢れた服だ。それを今から着せようというのだから、トリシャの動揺は計り知れないものとなっていた。


「ちょっと待って、それを誰が着るの?」


「トリシャと私と」


「私です」


 その言葉に更に衝撃が走る。1人と言わず3人ともに着せようとしている事実に愕然とする。


「トリシャにしか頼めないお願いなのですが……嫌でした?」


「嫌とかじゃなくて、流石にその恰好は恥ずかしいし……」


 トリシャは面と向かって断ることなどできない。出来る事があったら言ってね、と気前良く言ってしまったのだ。今更断ることなんて出来はしない。


「安心してください。そう言うと思ってトリシャの分は控えめなのを用意しておきました」


 意気揚々とアイリスが取り出したのは、初日にルミエーラから渡されて着ることになった白いワンピースだった。

 今考えても十分着るのに抵抗のある服装だが、先ほどアイリスが持っていた服と比べればいくらかマシに思える。

 そもそも着るものが他に無いといえ、一度着てしまっているので、抵抗感は和らいでいたのだろう。


「わかったよ。それ着れば良いんでしょ」


 ふてくされたように、トリシャは渋々彼女たちの要求を聞くことにした。


「ありがとうございます。では早速、着替え始めますね」


 アイリスはそう言うと、トリシャの服を脱がし始める。

 自室なのだからここで着替える事に抵抗は無かったが、アリアとアイリス二人の可憐な少女の前で服を脱ぐ行為は、いくら着替えを手伝ってもらう事に慣れ始めたトリシャでも羞恥心を刺激されてしまう。

 トリシャが服を脱がされている横で、アリアは徐に服を脱ぎ始める。思考の追い付かなくなったトリシャは、彼女たちの動きを制止する事も無く、なされるが儘に服を脱がされていくのであった。


 下着姿になり一息ついているのも束の間、アイリスの手によってブラジャーも外されてしまうのだった。


「え、下着も脱ぐの?」


「上だけです」


 横目でアリアを確認すると、彼女も既に上半身は裸になっていた。弧を描くように張り出した乳房に釘付けになっていると、トリシャの視線に気が付いたアリアは照れくさそうに微笑む。

 慌てて視線を外すと、待ち受けていたアイリスに服を着せられる。薄い生地のワンピースに身を包むと、最初に服を着た時の恰好になるのであった。

 アリアも着替え終わったみたいで、水色を基調とした生地が透けて見えるワンピースに身を包んでいた。目のやり場に困ったトリシャは直ぐに視線を外す。

 下着姿は何度か見た覚えはあるが、それでも直視する事は出来ない。恥ずかしさで大人しくなっているトリシャを尻目に、今度はアイリスが着替え始める。


「目の前で着替えられると、目のやり場に困るんだけど……」


「あら、今日は浴槽を共にしたではありませんか、今更恥ずかしがることはありませんわ」


  彼女からしたら気にならないのだろう。アリアの目の前で着替えるのと、さほど違いは無いのだ。

 右を向けば服を脱ぎ始めたアイリス、左を向けば下着姿に近いアリア、彼女たちに板挟みにあった視線の行き場を無くしたトリシャは、たまらず背を向けるのであった。


「そんなに緊張なさらなくとも、これから朝までご一緒しますのに」


 背を向けたトリシャに、アリアは近づいてくると背中越しに体を密着させ耳元で囁く。その言葉でトリシャは余計に緊張する。背中に当たる彼女の体温を感じ、体を強張らせた。

 アリアに手を引かれ振り返ると、ピンク色の生地が透けたワンピースに身を包んでいるアイリスの姿があった。


「緊張を解すために、もう一杯紅茶を飲んではいかがですか?」


 アイリスに促され、ベッドに腰かけると、アリアが再び入れてくれた紅茶を手に取る。トリシャは落ち着きを取り戻す為に、一口ずつゆっくりと啜っていく。

 紅茶の成分にリラックス効果が含まれているかは知りえないが、トリシャは徐々に落ち着きを取り戻すのだ。

 トリシャが紅茶を啜っている間に、右側にアイリス、左側にアリアが座る。そのどちらも直視することが出来ず、カップの中の水面に視線を落とすのであった。


「今日は私たちの我儘を聞いてくれてありがとうございます」


「これで私たちは不安を抱かずに朝を迎えることが出来そうです」


 少女たちは次々に感謝の言葉を口にする。改まってお礼を言われると、抵抗をしようとしていた自分が馬鹿らしくなってくる。

 アリアとアイリス交互に目を合わせると、トリシャはようやく落ち着きを取り戻すのであった。


 トリシャは徐に立ち上がると、ティーカップをトレーの上に戻した。振り返り改めて彼女たちに視線を落とすと、色気を身に纏う少女たちの姿がそこにはあった。

 ベッドの上に下着同然の姿で座る少女たちを見ると、現実味のない空間に苛まれた気分に陥る。しかし、少女たちの手を握り体温を感じると現実だという事を思い知らされてしまう。


「どうかされました?」


「もう就寝されますか?」


 トリシャが急に自分たちの手を握ったものだから、彼女たちは不安を露わにした。

 心のどこかで、やり過ぎて嫌われたと感じているのだろう。その不安を払拭するように、トリシャは2人に微笑みかけた。


「そうだね、もう寝よっか」


 時計の短い針は、まだ北西を指したところだったが、早めに就寝する事を決めた。と言っても寝落ちするように就寝している毎日なので就寝時間だけ見れば、いつもと変わりない。

 トリシャがベッドに横になると、左右から挟むようにアリアとアイリスが寄り添ってくる。


「僕が真ん中でいいのかな?」


「部屋の主が真ん中で寝ない事がありますでしょうか」


「私たち2人とも貴方の側に寄り添っていたいのです」


 まるで愚問だと言うように、少女たちは口々に意見を述べる。その問いは無意味だった事は、彼女たちの表情を見れば分かるだろう。

 寄り添ってきた少女たちは、トリシャの腕をそれぞれ取ると、腕に抱き着き手を絡めて来る。

 そして、胸に挟む様に腕にしがみつかれ、指と指を絡める様に握ってくるのだ。2人の動きがシンクロするように同時に腕を取られ、トリシャの胸の鼓動が早くなる。


「ねぇ、そんなにしがみつかれると寝られそうにないんだけど……」


「寝られるまで側にいるので大丈夫です」


「せっかく一緒に寝られる機会に離れるなんて事は出来ません」


 トリシャの訴えを退ける様に少女たちは言う。トリシャは抵抗を諦めて、彼女たちの好きなようにさせる事にした。

 紅茶を飲んだせいか、興奮とは裏腹に目を閉じれば眠気はあっさりとやってくる。

 アリアとアイリス、2人の温もりと柔らかさを感じつつ、トリシャの意識は少しずつ薄れていくのであった。


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