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魔女の従者と永劫の契約と  作者: 華月瑞季
一章 金色の魔女と従者の契約と
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9話 『混迷と拘束と』

 トリシャがお店を出ると、ルミエーラとアリアの姿がない。店の前で辺りを見渡すが、2人の姿を確認することができなかった。

 どうやら、店の人と話している間に置いて行かれたらしい。

 全く、あれだけ人には足元に気を付けろとか言っておいて、自分は後方の確認を怠っているではないか。

 トリシャは揚げ足を取るように、ルミエーラを心の内で非難する。そうでもしないと、知らない土地で一人取り残された心細さを軽減することができないからだ。

 来た道を折り返せば2人に追い付くかもしれない。

 そう思い立ったトリシャは、走って後を追いかける事にした。

 お店で商品の使い方のレクチャーを受けていた時間はそんなに長くないはずだと自身に言い聞かせ、店に来た方角に向かって走り始める。

 トリシャは川に架かる橋を駆け抜け、路地へと入っていく。手に入れたばかりの桜色のペンダントを首から下げ、路地の中を駆けていくのであった。




「ルミエーラ! トリシャの姿が見えません」


「は?」


 アリアの言葉に後ろを振り返る。少女の言う通り、付いて来ているとばかり思っていたトリシャの姿が見られない。

 ルミエーラはここで初めて、トリシャが後ろから付いてきていないことを認識する。辺りを見渡してもトリシャの姿は無く、ルミエーラの表情は険しくなるのだった。


「たっく、あいつはどこに行ったんだ?」


「すみません。確認を怠りました」


 顔を歪めながら呟いた言葉は、決して少女を咎める為のものでは無い。それは、この場にいない少女へ対する苛立ちだった。


「反省は後だ。引き返すぞ」


 ルミエーラは仕方なく来た道を引き返す事にした。足早に歩を進めるのは、迷子の子供を一人にしておきたくなかったからである。

 アリアは自身の誤りを責めるが、ルミエーラは誰が原因かなんてどうでもよかった。トリシャがいないという事実に対処するのが先だと考えるからだ。


 来た道を引き返したのはいいが、気が付けば知人の店の前まで戻ってきていた。何故なら。店にたどり着くまでの間に、トリシャの姿は見られなかったからである。

 店で何かにでも見とれているのだろうと考えたルミエーラは、再び知人の店を訪ねるのだった。


「カーネリア、トリシャはいるか?」


 またもや、勢いよく扉を開けると、同時に店中に聞こえる大声を放つ。これは、学習能力とは関係が無く、本人に行動を改める気が無いことが伺える。

 ルミエーラは店に入ると店内を見渡すが、入口から見る限りトリシャの姿はない。店にいるのは数名の客と、カーネリアと呼ばれた三つ編みの女性だけである。


「あら? あの新しく来た子なら先ほど出ていったはずだけど。入れ違いになったのかしら?」


 戻る途中にトリシャの姿を確認することは無かった。

 だとすると、トリシャが後を追いかけて来る途中に、道を間違えた可能性がある。というより、他に原因は考えられない。


「アリア、探しに行くぞ。」


「はい」


 アリアに声をかけると同時に、ルミエーラは店を飛び出した。今、少女を一人にしてしまうのは、良くないと直感したからだ。

 ルミエーラの焦りは直ぐ後を付いてくる少女にも伝わり。その少女の表情も懸念の色を表していた。


 しかし、ルミエーラは橋を渡った所で急に立ち止まる。何故なら、トリシャの魔力を感知しようにも、まだ少女の魔力の色を覚えていないので感知しようがないからだ。

 ルミエーラはアリアだけでなく、自身が付いていながら失態を犯してしまったことに苛立ちを覚える。


「仕方ない。居場所を割り出すか」


 ルミエ―ラは腰から下げた鞄から球体の道具を取り出す。

 手のひら大の大きさになる赤銅色の球体は、中央に青色の宝石が埋め込まれており、金色の枠で装飾されている。

 彼女が宝石に触れると、球体をした道具は上下に分かれ、分離した上半分は空中に浮遊する。

 上と下の部品を繋ぐように半透明の曲線で立体的に繋がると、広がった空間の中には現在地を示す様に地図が広がるのだった。

 高低差も忠実に記された地図は、方角や向きも正確に捉え、見る者にわかりやすい設計をしている。


「確かアイツのマッピングの色はピンクだったよな?」


 地図を縮小し、ピンクに色付けされた地点を探しだす。その印は現在地より少し離れた地点を示していた。


「この場所は――」


 ルミエーラは球体を元の大きさに戻すと、鞄の中へしまう。足早に走り出した彼女の嫌な予感が的中していたのだ。

 ルミエーラはアリアを引き連れてトリシャの元へと急行するのであった。




 先へ、先へ進んでも一向に2人の姿が見えない。進めば進む程、方角がわからなくなり、気が付いたら見た事もない景色の広がる場所へとたどり着いていた。

 路地に入り奥へ進んでいくと、角を2つ曲がった。この辺りから方向感覚を失い、しばらく進んだ後に来た道を見失う。

 元の店に戻って、自分がいないことに気が付いた2人が戻ってくるのを待とうと考えた時には、既に戻り方がわからなくなっていたのだった。


「はぁ……」


 しばらく路地を彷徨った挙句、2人を見つけることができない。歩き回って疲れたトリシャは近くのベンチに腰掛けながらため息をつく。

 急いだら追いつくと思っていた過去の自分に言ってやりたい。お前は方向音痴なのだからその場で待っているのが正解だと。

 自分が方向音痴だと知って落胆する一方、これからどうすればいいのかを考えると先行きが不安になる。

 馬鹿だなぁ、と呟きながらルミエーラが現れるのを期待するが、そういう展開は都合よく訪れないのである。


「お嬢ちゃん、どうかしたのかい? 困っていることが有ったら相談に乗るぜ」


 顔を上げると見知らぬ男性が2人、目の前に現れた。

 2人とも頭にはフードを被り、寒くもないのに首に布を巻いている。腕には籠手の様な物を付けているが流行りのファッションなのだろうか?

 トリシャは見るからに怪しい男性の登場に返事もできず、かといって逃げることもできない。


「道に迷っているなら言いなよ。俺たちが案内してやるぜ?」


 何を根拠に道に迷っていると思われたのかわからない。一人でベンチに座っているのが不自然に見えたのだろうか?

 実際に道には迷っているわけだけど――知らない人に付いて行ってはダメだという事は、幼い子供にだってわかる事なのだ。

 トリシャは適当にあしらって男たちがこの場から去るのを待つことにする。


「いえ、知り合いを待っているので……」


「嘘は良くないなー。さっきまで路地裏をウロウロしていたじゃないか」


 ルミエーラとアリアを追いかけて彷徨っていた姿を、この2人組に見られてしまっていた。となれば、路地裏からこの場まで後を付けてきたという事になる。

 男たちの怪しさは増すばかりだが、咄嗟の噓がばれて、ますます逃げ難い状況に陥る。

 この場に留まったところで、目の前の男達は諦めて何処かへ行ってくれそうもない。かといって、ルミエーラやアリアが駆けつけてくれる保証もないのである。


「嘘をついたわけではありません。一緒にいた人とはぐれたので、ここで待っていようかなと思って……」


 言い訳をするように自身の発言を訂正する。

 なるべく目の前の男達を刺激せずに切り抜ける方法を探るが、こういう状況の対処方法を思い浮かばない。


「俺たちが一緒に探してやるよ」


「そうそう。みんなで探した方が手っ取り早いだろ」


 男達は口々に言う。トリシャは、まるで退路を断たれる様に逃げ場を失っていく。

 完全に相手のペースに飲まれている。2対1という事もあり、言い訳を重ねたところで勝ち目など無いに等しい。

 警戒すべき状況なのは変わらない。だが、この状況を打破できるだけの力量を所有していないのだ。

 フードの中から覗く顔は怪しく見え、まさしく母親が子供に付いて行ってはいけません、と言いたくなるようなシチュエーションに直面しているのだと感じる。


「お構いなく……」


「よし、それじゃあ探しに行くぞ。お嬢ちゃんもほら立って」


 トリシャの言葉をかき消すように、勢いよく話を進められていく。2人の男は居なくなるどころか、強引にこの場から連れ出そうと促している様にみえる。

 この様子だとルミエーラ達を見つけ出すまで纏わりついてきそうだ。抵抗したら強引に襲ってくるかもしれない。

 そう考えると、不本意ながら怪しい2人の男に付いていくしかないのである。

 トリシャは引きずられる様な気持ちでベンチから腰を上げるのであった。



 一度迷い込んだ路地裏へ向かって歩いて行く。 隙を見て逃げ出そうと考えたが、前に1人、後ろに1人と、前後を挟まれた。

 このような状態になれば逃げだすことも容易ではなくなる。状況を変えることも出来ずに、どんどん悪化していく。

 そうやって男達の間を歩いていると、先頭の男が路地裏へと続く道へ入っていく。このまま路地裏へ入ると、万が一の事が起こった時に逃げ出すことも出来なくなる。

 トリシャは咄嗟に男とは違う道へ走り出した。恐らく、最初で最後になるであろうこの機会を、逃さない様に全力で足を動かすのだ。


「おい、てめぇ」


 後ろにいた男が大声で叫ぶ。振り返ることもせず、一目散に逃げる為に走り続けた。

 しかし次の瞬間、トリシャは男に腕を掴まれると、前に進んでいた体が後方へ引っ張られる。

そして、後ろに体制を崩すと、フードを被った男にあっさりと捕まってしまった。


「危ない、危ない。どこへ行くつもりだ?」


 後ろを歩いていた男が強い力で腕を掴む。反対側の手で口を塞がれ、大声で助けを呼ぶことも叶わない。


「仕方がない、予定変更だ。このまま連れていくぞ」


 男達は不敵な笑みを浮かべる。腰に付けた鞄からロープと布を取り出すと、トリシャの身体を拘束し始めた。

 もがき抵抗をしようと努力するが、少女になった体では成人男性2人に筋力で適うはずがない。

 必死の抵抗も力なく、あっという間に手足を縛られた挙句、口を布で塞がれてしまった。


「人目に付く前に持ち帰るぞ」


「今日は付いているぜ。こいつは高く売れるんじゃないか?」


 先ほどまでの雰囲気とは違い、男たちは完全に犯罪者の目をしている。

怪しいと思い、危ないと感じ、警戒もしていた。だけれども身の危険を回避することは適わなかった。

 状況は最悪だ。今後の展開を想像すると不安を感じるよりも先に恐怖を抱いてしまう。

 トリシャは大柄な体型をした方の男に担がれると、路地裏の更に奥へと連れていかれる事となるのであった。


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