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「凄い!凄い凄い!!本物の勇者なんて凄いわ!」
何やら王女が興奮している。少し地が出てる気がする。まぁそんな事はどうでもいいが、勇者って俺達の事じゃないのか?
「しかも見てビスマルク!ただの勇者じゃない、救世の勇者とあるわ。これはきっと勇者の中の勇者よ!!」
「3千年の過去で5人しかいなかった勇者のスキルを持った者たち。もし救世の勇者というスキルが勇者を遥かに超えるものならばとんでもない者が現れたものですな!」
「ええ!このお方ならば…ふひ。」
おい!王女がふひって言って笑っているぞ、いいのか戦士団総長。とてもではないが王女がするような顔ではない。ビスマルクも、戦士団の団長達も目を逸らしている。
「えー…、初っ端から凄いスキルの持ち主が現れたが次は誰がする?」
ビスマルクがそう言うが、完全に王女の顏を見せないように誤魔化そうとしてる。王女も腹に何を抱えているのか分からないから要注意だな。
「…僕が…やる」
おっと、次は足立君が鑑定するみたいだ。正直一番注目するところだろう。勇者ってスキルが出たならば、魔王っていうスキルもあるかもしれないしな。…いや、足立君は魔王で収まる器じゃないかもしれないから下手をすると邪神ってこともありえるかもしれない。
「…《ステータス》」
石板の上に鑑定紙を置き、更にその上に手を置き呟く足立君。楢崎の時と同様に石板が光り、その光りが鑑定紙に吸い込まれるようにして消えていく。そして鑑定紙をじっと見て確認する足立君。それを俺を含めたクラスメイト全員が見守る。静まりかえったその空間で誰かが唾をゴクッと飲む音がやけに響いた。さぁ、魔王か邪神どっちだ!?
「「「…」」」
沈黙は30秒程だったが凄い長く感じた。足立君はもう確認し終えたのだろう、王女の下まで行くとニヤッと笑い鑑定紙を差し出した。少し後退りながら、受け取る王女。さっきまでの興奮が嘘のように消えている。そして渡された鑑定紙を見て固まる王女。
「あり、えない…」
どうやら邪神だったようだ。これでこの世界の滅亡は決まってしまったな。逃げる準備をしなければ…。と変な事を考えてたら王女が更に呟く。
「賢者なんて…」
「「「おぉ!!」」」
「「「…」」」
ビスマルクと団長達は足立君の事を聞いていないのか素直に凄いと驚いているが、クラスメイトは別の意味で驚いている。多分クラスメイト達はこう思っているだろう…
(何故、お前が賢者!?賢者の要素なんてどこにもないじゃん!)
…と。
「何かの間違いだろ?な?そうだろ!そうだと言ってくれよ!」
「あれだ!下ネタ的な賢者の方だろ!?」
「あれが賢者なんて私は認めない。…ええ、絶対に!」
クラスメイト達は各々信じられない的な事を叫ぶ。何気に皆酷いな、俺も賢者はないなとは思うけど。とクラスメイト達が騒がしくしていると、楢崎が叫ぶ。
「皆、聞いてくれ!俺は多分、言葉の意味が違っていると思うんだ。だってそうだろ?世界が違うんだ、言葉の意味だって当然変わってくると思わないか?」
「そ、そうだよな…」
「絶対にそれしかないだろ」
「間違いないわね!」
それぞれ納得したみたいだ、楢崎が皆の顔を見て笑顔になる。そして王女の方に振り向いて言った。
「ですよね!?王女様」
しかし、現実は厳しかったようだ。王女が泣きそうになりながら質問に答える。
「…皆様はモラリス様によって私たちの言語を理解できるように能力が与えられています。よって言葉の認識の差異はないかと…思われます」
今の王女の顔は諦めと、諦めたくないという矛盾した心が相反して泣きそうで、悔しそうで、それでも目だけは諦めないと訴えている。こんな場所でするような顔じゃないと思うけど、その気持ちはよく分かる。俺も他の人から見たらそんな顔をしているかもしれない。とまぁ傍から見たら馬鹿みたいな芝居をやっているように思えるが当の本人達は真剣なので、ビスマルク達も何だか割り込めるような空気ではなく、困惑している。しかし、ここで空気を破る声が聞こえてきた。
「次は私がやってもよろしいですか?」
麗華である。彼女は多分興味がないのだろう。平然と、何もなかったように王女から鑑定紙を貰い、台座に鑑定紙と手を置いてステータスと呟いた。そして石板の光りが収まると、鑑定紙を手に持ちそのまま一瞥もくれずに俺の下までやって来た。
「力くん。私、こういうのよく分からないから教えてください。」
何故俺のとこに来た?王女のとこに行けよ!しかし、鑑定紙にどんな風に書かれているのか気になったので受け取ることにした。ちらりと王女を見ると少し悲しげに見えて、罪悪感に胸を苛まれたが。そんな思いを顔には出さずに鑑定紙を見つめる。そこにはこんな感じでステータスが書かれていた。
『
九曜麗華
レベル 1
闘力 57
スキル
【巫女Lv1】
【守護魔法Lv1】 』
結構簡潔に書かれていた。レベルはまあいいとして闘力というのは恐らく、強さの目安となるものだろう。あとはスキルだがスキル名とスキルレベルのみが表示されている。特にスキルの説明等が書いていないのは残念ではある。守護魔法は何となく分かるが、巫女ってどういう事が出来るようになるんだろう。まあ俺が麗華に言える感想…
「結構いいんじゃないか」
この程度しか思いつかない。俺だって初めて見るんだからしかたない。幾らゲームや小説である程度の知識はあると言っても、あれらは空想上のものだ。現実で役に立つかと言うと疑問が残る。まあ少しゲームっぽい世界ではあるが。
「そうですか。それは良かったです」
俺の適当な感想に、笑顔で返す麗華。その後、麗華のステータスについてはあまり騒がれず、順番に鑑定を行っていった。。癖の強そうなスキルや少し変わったスキルを持つ者がいたが、最初の二人がインパクト強すぎて感覚が麻痺しているんだろう、特に騒がれることなく進んだ。そしてとうとう俺の番がやって来た。
「ス、《ステータス》」
もう既に見慣れた動作を真似して実行する。そして光りが収まり、後ろから覗き込まれたりしないように皆がいる方に振り返り、鑑定紙を見る。俺の頬に冷や汗が流れる。顔に動揺が出ないよう冷静に努め、もう一度鑑定紙を見る。そこにはこう書かれていた。
『
白鷺力
レベル 1
闘力 101
スキル
【魔王Lv1】 』
おかしいだろ!!何故俺にこんなスキルが…。俺の特殊能力が書かれていないのは幸いだが、結局はこれを見られたら良くて追放、悪ければ殺されるんじゃないか?いやまぁ、そうなりそうだったらすぐ逃げるけど。
「どうされましたか?何か珍しいスキルでもありましたか?」
王女がこちらに向かって歩いてくる。ま、まずいぞ。どうすればこの状況から逃げられる。こうなったらこの国から逃げるしかないのか?必死に打開策を考えていた時だった。
ガンガンガンガン
大きな鐘の音が鳴り響いた。
「警鐘が4回…これは魔物の襲撃!」
ビスマルクが叫ぶと、団長達が即座に動き教会から出ていく。クラスメイト達はいきなりの襲撃に怯え、震えている者もいる。
「皆さん落ち着いてください!大丈夫です。今、この王都には六人の団長達にビスマルク総長がいますから。皆さんが知らないのは当然ですが、ビスマルク総長ならば一人で弱い魔物なら1000匹以上も倒せる実力の持ち主です。そして団長達も、ビスマルク並みにとは言いませんが、それでもあの六人がいて負けるはずがありませんから」
ニッコリと笑って皆を落ち着かせる。その笑顔を見てクラスメイト達は落ち着いていく。流石は王女といったところだろう。
「王城内なら安全だとは思いますが、念のため別の部屋に移動しましょう」
王女にそう言われ、ビスマルクの護衛の下、別室に移動していった。魔物の襲撃というハプニングがあったが、このお陰で鑑定紙を見せずに済んだことは僥倖だろう。しかし、これからの事を思い、ため息を吐きながら歩いて行った…。
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