表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
力の宿命  作者: 瞳悟空
3/7

3

 大人が10人程で余裕を持って歩けそうな廊下を、王女様御一行が行き、その後ろをクラスメイトと共に歩く。そして後ろを振り向くと神殿みたいな作りだなと思っていたが、外見も想像通りの神殿だった。前を向くと東洋の雰囲気を少し取り入れたような洋風作りの城が建っている。それにしても広い、無駄に疲れそうな程だ。そんな事を考えていたら麗華が喋りかけてきた。


「力くん、少しよろしいですか?」


そう問いかけられ少し考える。ここは異世界、親父達がいない今俺に何の用があるんだ。と思いながら小声で返答する。


「何だ?言っておくが俺の能力は秘密にしておいてくれよ。幾ら幼馴染のお前でも、俺の能力を言いふらすつもりなら覚悟しろよ」


女の子に言う言葉じゃないかもしれないが、これは必要なことだ。親父達がいない今、俺の能力の事を知っているのは麗華だけなのだから。そして俺の能力が知れ渡るとほぼ間違いなく俺の事を利用しようとする奴が出てくるはずだ。何せ実の父親がそうだったのだから…。


「絶対にそんな事はしませんよ。安心してください。私は力くんの幼馴染なんですから。私が言いたかったのは、気を付けてください…ただそれだけです。」


言い過ぎた…そんな思いが頭によぎる。いや、今までの事を思えば間違っていないはずだ。…多分少しの罪悪感に囚われながらも歩く。そして歩きながら悟られないように麗華の顔を盗み見る。怒っているだろうか、それとも悲しんでいるだろうか、そんな思いを抱きながら見た麗華の顔は薄らと微笑んでいた。


(ど、どっちだ!?怒っているのか、それとも悲しんでいるとこを悟らせないように微笑んでいるだけなのか…わからん!)


今の麗華が何を考えてるかを検討していた時、麗華がたまらずといった感じでふふっと声を出して笑った。その瞬間俺の背筋に悪寒が走った。


(やばい。俺刺されるかも…)


こんな時は棚上げにして逃げるべし。そう決断するや否や歩く速度を緩め後方に下がっていく。後ろにいたクラスメイトが邪魔そうに顔を歪めていたが、そんなことを気にしている余裕はない。一番後ろまで来ると安堵から自然と溜息が漏れた。


「ふぅ。危機は去った。」


思わず一人でごちってしまった。と思いきや、後ろから声を掛けられた。どうやらまだ後ろにクラスメイトがいたらしい。


「まだまだ危機はこれからさ。君はどっちかな?…ふふふ…ふひひひひ…」


先程、奇声を上げた足立怪だった!なに?君には何が見えてるの!?それとその質問は何と何があるの?まず選択肢を教えてくれ!前も後ろも危険に満ち満ちている。こんな時、はたしてどうすればいいのだろうか?打開策を考えているうちに目的地に着いたようだ。前の方から王女の声が微かに聞こえてきた。


「皆様、どうぞこちらのお部屋です」


そう言われ続々とクラスメイトが部屋に入っていく。そして俺も続いて部屋に入る。部屋の中は食堂のようなところだった。奥が広い部屋で、中央に縦長の大きなテーブルがあり、50人近くが座れそうな椅子が並んでいる。


「どうぞお好きな席にお座りください」


王女が促すとそれぞれ移動し始めた。俺はここでふと気になったことがあった。椅子は全部で52脚あるが、縦長のテーブルに対して、横に置かれて並んでいる椅子に順番に座っていくのが基本だ。しかし、足立君は何故か真っすぐ奥に向かって歩いている。


「「「えぇ~…」」」


みんなの驚きとも、呆れともとれる声が響く。何故なら足立君が堂々と上座に鎮座したからだ。しかも何故かどや顔で座っている。君は一体何がしたいんだ?


「あの…足立君、その席はちょっと遠慮した方がいいんじゃないかな?」


流石に堪り兼ねた楢崎が注意する。しかし相手は足立君、テーブルをバンと叩いて、ニヤァと笑い見下す様に楢崎を見るだけに留まった。ハッキリ言って滅茶苦茶怖い。足立君は全体的に髪が長く、普段は前髪で目が隠れているが見下すような姿勢をとったことによって長い前髪の下に目が見える。軽いホラーです。楢崎も相当怖かったのだろう。頬に冷や汗が流れている。王女を見るとハッキリと目に恐怖の色を浮かべている。


「ど、どうぞお好きな席にお座りください」


怯えながらも先程と同じセリフを言う。凄い胆力だ。王女の好感度が俺の中でグンと伸びた。


「では皆さん、まずは食事をお楽しみ下さい」


そう言うと王女は部屋を出て行ってしまった。かわりにメイド達がカートに料理を乗せて入ってくる。しばし食事をとりながら今後の事について考える。正直に言って今回の異世界転移については非常にありがたい。俺を狙う奴がいない世界、誠に素晴らしい。しかし、クラスメイト達が邪魔だ。この世界の一般常識を学んだ後は早々にフェードアウトをしたい。そんな事を考えていたからだろうか、対面の席に座っている麗華に睨まれた。彼女は人の考えを読めるのだろうか?少し不安になった。そんなこんなで、皆が食事を終えた頃に王女が戻ってきた。戻ってきた王女は覚悟を決めた眼差しで席に着く。長いテーブルを挟んでいるとはいえ対面に足立君がいる席に。そして皆に食事の感想を軽く聞いた後、中断していた説明の続きを語りだした。ちなみに食事に関して言えば、凄く美味かった。家の関係上、今まで高級料理というものを結構食べてきたが、それらよりも美味かった。流石に王族が出す料理なだけはある。


「では勇者様方の世界が選ばれた理由についてですが…」





王女の説明が終わった。簡単に説明すると、俺たちの世界を維持しているエネルギーをこの世界が供給しているから、お前らも手伝えっていうことらしい。少し詳しく言うと、この世界にはレベルやスキルといったステータスが存在しているらしい。俺は小説等で知識はあるが、ゲームや小説を嗜まない者たちにとっては理解しがたいだろう。それはともかく、この世界の人達は存命中にレベルを上げ、スキルを鍛える。そして亡くなった際に上げたレベルや鍛えたスキルはエネルギーに変換される。魔物を倒した際には、一部は倒した者たちのレベルを上げるために使われ、残りは純粋なエネルギーに変換される。そして変換されたエネルギーはこの世界や俺たちの世界を維持するために充てられるらしい。詳しい原理等はわからん、それは神様に聞いてください。まぁ聞いても理解はできないと思うが。さて、そんなわけで俺たちが召喚されたわけだが、俺以外のクラスメイト達には戦う力なんてない、精々スポーツができる程度だ。だがそれについては神モラリス様が力を与えてくれたらしい。先程言ったステータスに、各々に合ったスキルを与えられている。ちなみに俺達がこの世界で普通に会話出来ているのは言語を理解するスキルを与えられているかららしい。ただしこれは通常のスキルではないためステータスには表示されないと言われた。そんな説明を体感で3時間ぐらいされた。足立君の無言のプレッシャーが無ければ王女の説明ももう少し早く終わっていただろうが。とまぁこんな感じだったわけだが、部屋の窓から見える外はもう暗くなっていた。


「皆さん貴方方の世界と私達の世界のために協力しては貰えませんか?」


「「「…」」」


多分クラスメイト達は思っているだろう。何故自分たちが…と。しかし、それは直接言うには躊躇われる。何故かというと先程、王女が話していた内容の中には何故()召喚されたのかについても説明があったからだ。それは需要と供給のバランスが崩れたためと王女は言った。曰く俺たちの世界の人口が増えて需要が増えたのに対し、この世界の人口は逆に減り供給が減少した。そしてこの世界は増えすぎた魔物に対して対抗策を打てないでいる。それが俺達が、今回召喚されるに至った原因だ。俺達の世界は完全にヒモ状態。そんな世界の住人である俺達が、頑張って貢いでいるこの世界の住人のお願いにイヤとはなかなか言えない。しかし…


「滅びればいいんだぁーーー!!」


突然立ち上がって、叫ぶ足立君。それを完全にスルーするクラスメイトと王女。僅か数時間で慣れた王女には尊敬する。


「ですが、いきなりこんな話をされて戸惑われるのも分かります。ですので今日は一旦お休み頂いて、明日お返事を聞こうかと思います。何かあれば専属のメイドに申し付け下さい。それでは…」


失礼しますと言い部屋を出る王女。そして入ってくるメイド、計28人。どうやら一人につき専属のメイドが付くみたいだ。メイド達は迷いのない動作で、各々が尽くす相手の元に歩み寄っていく。そして俺のとこにもメイドがやってきた。


「初めまして。サシャ・アーネリウスと申します。以後よろしくお願いします」


そう言って、綺麗に一礼する。その綺麗で洗練された動作とは裏腹にすごく可愛らしい顔をしている。髪の色は茶色で、後ろで髪を団子にして括っている。目はクリっとして保護欲をそそり、胸は程よくありそうだ。ただ残念なのは服だ。メイド服なのだが、メイドカフェなんかでよく見るスカートの丈が短いのではなく、足首まであるロングスカートだ。ジロジロとサシャを見ていたら戸惑いがちに声を掛けられた。


「あ、あの。失礼ですがお名前をお聞かせ願えませんか?」


おっと自己紹介を忘れていた。第一印象は大事だからここはかっこ良く決めよう。


「あ、す、す、すいません。白しゃぎ…。…白鷺力です」


はい無理でしたー。まぁ分かってましたけどね。だってまともに話したことがある女の子って、麗華ぐらいなものですよ?ボッチなんだからしょうがない。


「ふふっ…そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ。これからは(りき)様とお呼びしてよろしいですか?」


笑われた…。これなら親父達に狙われてる方がよっぽどましだ。あ…あんな家でも帰りたくなってきた。くそ、これがホームシックか!俺には縁がないと思ってたのに。


「え、ええ。」


「では早速お部屋まで案内させて頂きます」


ニッコリと笑って部屋の外に向かって歩き出すサシャ。俺もそれについていくが気分が優れない。部屋に着いたらすぐ寝よう、そうしよう。別に枕に顔をうずめて泣きたいとかそんなんじゃない!ホントだよ?


「ではどうぞお入りください」


そう言われて開かれる扉。どこをどう歩いてきたのか覚えてないが、そんな事よりもう寝よう。


「あとこれをお持ち下さい。何かあればそちらを鳴らして頂ければすぐに参りますので」


手渡された手持ちサイズの鐘。意識が半分飛びらながらも、受け取る。


「では…ごゆるりとお休みください」


そう言われ、部屋を見回すことなく目についたベットにダイブする。異世界初日の感想はこの一言に尽きる。悲しい…。






ちょっとしたことでショック受ける。よくありますよね!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ