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びっくりしたー。
やはり精神の状態が平静を保てないようなことが起こると、魔力のコントロールが乱れるみたいだ。
これで今日はもう瞑想が出来ないね。おぅ、ちょっとショックだ。
こりゃあ取り急ぎ最大魔力値の向上は必須義務だな。
魔力が1しかないからちょっとした失敗で強制枯渇状態になっちまうし、瞑想も強制終了だしなー。
ひとまず瞑想を毎日行うのは決定してるんだが、どうにかレベル上げれねえかな?
まあ、今日はとりあえずもういいか。なんせ外出できるし〜。
いやぁ、外出できるってだけでこんなに嬉しいとは。年甲斐もなくハシャいじゃうぜ。なんせここに来て(?)五年、外を出歩くことは禁止されていたからね。目の前にファンタジーが広がってんのに五年もお預けくらったんすよ。ステータス確認のために外に連れ出されたのが初。
おそらくステータス確認前の子供を攫ったりする奴がいたりするんだろうね。
考えたくないけど、ステータス確認前の子供なんて宝箱みたいなもんだもんな。
攫った後でステータス確認して、レアなアクト持ちだったら高値で売れるし、なけりゃ無いで身の代金要求するなり……殺したり、子供相手だと楽だしな。
ステータス確認後だとレアなアクト持ちだったら警戒されて攫いにくくなるだろうしな。
結構、口酸っぱく言い聞かされてきたからね。
しかし、それも解禁!
なんだよあのデコ野郎、最近は魔法関連解禁したり外出許してくれたり、好感度上がっちゃうよ。いやー、美人の奥さんがいるし金持ちだしイケメンだしで爆発しねーかなって思ってたんだけど、街中で不良に絡まれるあたりで許してやれそうだよ。毒草が何に必要だったかって? ハッハッハ、学術的興味ですよ。
ただね? 目の前で強制的にイチャコラを見せつけられたら……うん。さあ外出外出。
ウキウキ気分で歩いていたからか隣を歩くエナが笑いかけてくる。
「ファドニクス様、嬉しそうですね? 良かったですよねぇ、外出のお許しをもらえて」
「うん!」
おっと、思わず子供口調が。まあ、普段から子供口調なんだけどね。だって子供だし。
意気揚々と歩いていたら外門の前についた。
いつもは立ちふさがる鋼鉄の門がウェルカムと言わんばかりに開く。実際はいってらっしゃいだけど。
開けられた門の前には馬車が止まっていた。門兵が脇に構えている。
俺が先に馬車に乗り、続いてエナが乗り込み扉を閉める。
「御者さん、お願いします」
エナが小窓から御者に声を掛けると馬車が動きだした。
当然、単独行動が許されるわけもなくエナと一緒に行動している。
だが、周りを物々しい騎士が馬で守りながらの行軍というわけじゃない。
俺が生まれた家は、裕福だが貴族というわけじゃないらしい。
ぼんやりと分かっている身分の位は、皇族(王族)→貴族→平民といったところ。
まぁこれも細分化されるのだが。例えば、平民なら一般騎士や執事などの貴族から重用されている人は名字が名乗れるようになる。俺の家がそこだ。その下に商人などの平民の富裕層が存在するのだが、商人も一部の者は名字を名乗れる。
平民の序列は、騎士→商人→農民といったところ。そんな中、俺はそこそこいい家に生まれたようだ。その点はほんとに感謝しかない。
なんせファンタジーの世界なんて危険度がやたら高い印象しかない。
外はモンスターだらけで街も危険だらけ、貴族になろうもんなら陰謀渦巻く政治の世界へ。偏見かもしれないが、そんな風に思っていたのだ。
しかし話は別としてモンスターは見てみたい。
竜は別として、危険性の少ないモンスターを遠目で軽くでいいから見れないかな。
そんな期待の入り混じった目で窓の外を見ていたら、エナにしては珍しい少し厳しめの声で精一杯威厳を保つような表情で注意を促してきた。
「いいですかぁ? ファドニクス様。街にいったら手を繋ぎましょうね? いいえ、そんな顔してもダメです。迷子にならないためにも手は繋いでもらいます。知らない人についていっちゃダメですよ? とにかく私のそばを離れちゃダメです!」
そんな子供じゃあるまいし〜。
俺はエナの注意を、へっ、といった感じで流した。幾つだと思ってんだよ小娘。
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街中を人が流れていく。
俺はそれをぼんやりと見ていた。
暖かいとはいえ、今はまだ厳冬期。着る服はみんな厚着だ。
軒先に店を出している露天商で誰かが値切り始め、周りもそれを面白そうに見ている。客引きの声が遠くから聞こえたり、樽に腰掛け煙草を吸いながら商談している人がいたりと、そこそこ広い通りだが賑わいを見せている。
その通りの建物と建物の間の、通行に邪魔にならないようなスポットで、俺は通りを見ている。
一人で。
そう。どうやらエナが迷子になってしまったようだ。
十二歳で奉公にきて五年。花も恥じらう年だから街に出てハシャぐのはわかるけど、もうちょっと落ち着きを持った方がいいよね。
何にしても年頃の女の子が一人歩きなんて危ないから捜してあげなきゃね。ふう、やれやれ。
全く持って微塵も全然関係ないことなんだけど、人の視界ってのは成長するにつれて高くなっていく。身長が伸びるからだ。順調に成長し背が伸びていくなら、急に視界が下がることはない。子供がコンビニでお母さんが見つからないとキョロキョロしているのを見たことがあるが、あれはお母さんからすれば子供の位置は一目瞭然である。視界の違いなんだよな。子供にとって商品を陳列している棚は身長の倍はあるから迷路のように見える。ん? ああ、全然関係ないことないか。エナの背はシーナと比べれば低いし、まだまだ俺にとっちゃ子供みたいなもんだしな。
そんなことを考えながら、俺は裏通りに入った。
なんかこの通りは全然見覚えがなかったので、隣の通りから来たような気がしたのだ。ほんと子供の視界から見た街って迷路みたい。
確実に通ってない裏通りの奥へ奥へと進んでいく。
まあ、エナを捜している身としては? こんなところに迷いこんでたらいかんなとね?
段々と周りに商店がなくなり、民家が入り組んでいる居住区のような場所になってきた。
流石にこっちには来ていないよな。あの角を覗いたら引き返そうかなと思い始めたら、その角の向こう側から声が聞こえてきた。……何かを怒鳴っているような。
……なーんか嫌な予感がすんだよな。でもエナの可能性も少ないながらもあるし、限りなく低くはあるけども。
ちらっと見て知らない人だったら華麗なターンをキメるか。
ひょいっと角から顔を覗かせてみる。
「おいっ! 見せてみろっていってんだろ! お前アクト持ってるそうじゃねーか!」
怒気を声に滲ませた男が三人程、女を囲んで立っていた。
わーお、テンプレ。フラグなんて嫌いだ。