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俺の魔力量は1/1です。
五十三万もある御方が羨ましくてしょうがない。
これは魔力を持たない等の例外を除いた最弱値だそうです。わかるっちゅーねん。
一縷の希望を掛けてパルナ母さんに魔力量の底上げ方法を聞いたら、ちゃんとあるらしい。良かったー。
方法は二つ。
一つは魔法をバンバン使うこと。もう一つが瞑想。この二つ。
意外と簡単なので安心したのですが、一つは既に俺には無理なのが分かっている。ちっちゃい火作り出すのに魔力値が2掛かんのに、最大魔力値1の俺がバンバン魔法を使える訳がない。
あと、よくある魔力の枯渇で最大値アップとかもないそうです。それどころか、魔力は枯渇すると回復するのが遅れるらしく、最低でも1は残すのが普通だとか。どうも残りもんです。福があるかもよ?
といったわけで、残された手段は瞑想なんですが……これがなー。
ぶっちゃけ瞑想のアップ値は魔法バンバンの半分もいかないし、地味な上に集中力も半端なく使うと言われた。
なんていうか……さらば魔法ライフ。と、なるところだが。
やっぱり魔法を使えるという魅力には抗い難いね。とりあえず魔力値が1上がれば手からライターできるんだし、頑張ってみるかー。
で、瞑想の手順なんだが。
座禅を組んで目を閉じて心を落ち着けるというものを連想していたのだが、実際には魔力の体内循環を行うことらしい。
なにそれ、メッチャ簡単。
魔法操作は俺にとって呼吸を行うレベルの動作なので、魔力を体内でグルグル回すだけでいいなら朝から晩まで回してられるよ!
これまた意外と簡単なのですが、これを毎日やったらどのくらいの頻度でどの程度魔力が上がるのかというと、一カ月で1らしいです。やはりそんなに甘くなかったかー。
まぁしかし、これで一月先には魔法を使える目処が立ったので良しとしよう。
余談だが、魔法をバンバン使って最大魔力値が上がるのは、どうも成長値が上がるためっぽい。
つまり純粋に最大魔力値を上げたければ瞑想をするしかないのだが、全くといって盛んに行われることはないらしい。
瞑想は本来、相当な集中力が必要となる上、魔力を体内循環させている途中で誤って体外に放出してしまったりと失敗も多く、それなのに一カ月も頑張って1しか増えないのが理由だとか。
体外に放出してしまった魔力は、その後空気に溶けるように消えていく。つまり魔法も使ってないのに無駄に魔力を消費してしまうのも瞑想が嫌われている原因の一つだ。
まぁ、俺には関係ないけどね。
瞑想の方法を聞いたので、早速翌日から実践した。
とりあえず朝起きてから魔力を体内でグルグル回し、そのまま一日普通に生活するというものだが……。
全然修行している感がないな。結構無意識で行えるからなー。かといって寝ているときは止まっているようだけど。
いつまで行えるか疑問に思ったので、初日から魔力を体内でグルグル回しながら寝てみた。そしたら、朝起きたら止まっていたので、いつ止まったかは定かではないが、本当に意識が無いときは無理なようだ。
ほとんど無意識で行えるって言い方が正解かな。激しく動揺したりするとコントロールを誤るのかも? こちらは試しようがないから試してないがな。
魔法講座を終えて三日程経ったが、まだ魔力が増えることはない。
瞑想は基本的に一日に五時間から六時間程行い、一カ月で最大魔力値が1上がるものなので、単純計算したら二百四十時間で1アップということになる。
ちなみに、こちらの世界では一カ月は四十日で一年は十カ月、だいたい四百日だ。季節も四季ではなく三季しかなく、厳冬期、青葉期、涼秋期と呼ばれている。計算間違いじゃないよ。
一日およそ十八時間はグルグルしているので、大体あと十日程で1上がるはず? まぁ、一カ月待たなきゃならんならそれでもいいが。
なるべく毎日やった方がいいなー。何故なら、この世界においてのステータスの絶対値って下がるらしいんですよ。
例えば筋力値。
毎日筋トレしたら上がるらしいのだが、筋トレをやめて数十日すると下がり始めるらしい。下がりにくいステータスと下がりやすいステータスが存在するらしいのだが、こちとら崖っぷちなので毎日行っておこう。大した労力じゃないしね。
それにしても下がるって、ないわぁー。
筋力値は筋肉が衰えていくからなのだろうが、生命値(HP)や魔力値(MP)も下がる状況ってどんなのよ? いや、この二つは特に下がりにくいらしいんですけどね。
でも下がる。これがゲームならクソゲー認定してるとこだよ。
大体成長値も不思議だ。
どういう状況で上がるか知らないが、レベルが上がると当然ステータスは上昇する。なら筋肉はどうなるんだろう?
筋トレで筋力値が上がるのは、単純に筋肉がつくからだろう。
しかしレベルアップで増大した筋力値ってなんなんだろうか? 筋肉の量自体は変わらないはずなのに。
ステータスなんてもんがある異世界なのに、妙にリアルに偏っているっていうか、ファンタジー風味といいますか。
そのくせ不可解なところも多々ある。
…………まぁ、気にしてもしゃーない。今はとりあえず魔法、魔力っと。
今日も朝起きてから魔力を体内でグルグルさせながら生活してます。片手間瞑想。
自室にこもって新しい本を読みながら。
季節は未だ厳冬期なれど暖かく、カーテンを開けて日差しを入れれば暖炉要らずのこの陽気。
ふと眠気を覚えそうになるが、寝てしまうと瞑想が終わってしまうのでグッと我慢しながらパルナ母さんから預かった魔法教本を読んでいた。
魔法には詠唱魔法と無詠唱魔法が存在し、詠唱魔法は呪文の詠唱に時間がかかるが十全の威力を発揮する。無詠唱魔法は時間のロスはないが詠唱魔法と比べると威力が格段に落ちる。
しかし普段使われる魔法の中で最もポピュラーなものが、簡略詠唱魔法と呼ばれるもので、これらは詠唱魔法に分類される。
簡略詠唱魔法とは、呪文の発動キーと呼ばれる最後の一文を唱えるだけで魔法を発動する手法で、威力は正式詠唱に及ばないものの無詠唱よりは強く、叉、取得が困難とされる無詠唱と違い契約時から使える、か。ふーん。
パルナ母さんが蝋燭に火を灯すのに使った魔法は簡略の方だな。だって契約した時に使った呪文はそこそこ長かったし、魔法使ってみようとした時に言った「火よ」って言葉も、パルナ母さんが言う呪文を真似てみただけだしな。
正式詠唱の方が魔力がかかるのかな?
調べておこう。微妙に俺がもつゲーム知識と齟齬があるしな。
パラパラとページを捲ったところで、エナが部屋に息を切らして駆け込んできた。
「坊ちゃま! 許可、許可が出ましたよぉ!」
ははは、とりあえず落ち着きなよ。坊ちゃま呼びに戻ってるから。あとノックはしよう。やましいことはないけども。ないけども。将来のために。
俺は水差しからコップに水をつぐとエナに差し出した。
「あっ、ありがとうございます」
ゴクゴクと水を飲み干し、ぷはぁっと息をつくエナ。
「もう一杯のむ?」
「いえ、もう結構です。ありがとうございます。……それでですね、許可が出たんですよ!」
「なんの?」
俺が首を傾げるのに、エナは笑顔で答えた。
「外出の」
………………なんですと!?
俺の肩から魔力が飛び出した。