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その後のパルナ母さんの講義で分かったことは、どうやらまだ俺には魔法が使えないってことですね。
描写? なにそれ魔法?
講義の詳しい描写はプライバシーに反するためしない。頭の上のことは関係ない。ただ男子は望まないとだけ言わせてもらいたい。
さて、魔法なんですが、使用するためにクリアしないといけない残りの条件は二つ。
『魔力操作』と『契約』らしいです。
一つはありがちなやつだが、もう一つはヤバい匂いがプンプンするよ。
あれかな? 悪魔と契約することで云々みたいなやつかと思っていたが、全然違いました。
紙を読むだけだそうです
実は魔力が感知できて、この『契約』を結べば、魔法の発動はできるらしいのだが、使用する魔力量の調節や操作が上手く出来ないと暴走することがあるらしいので、『魔法を使用できる』と言われるレベルは、この三つの条件をクリアしないといけないらしい。
順番は魔力感知→魔力操作→契約の順が正道らしいです。
魔法をよく知らない人は、魔力があって契約すれば魔法が使えるという認識があるらしく、よく暴走しがちなんだと。あぶねー。
では『契約』するにはどうしたらいいのか。
魔法を使用できる人が魔法言語を特殊な紙に書いたら『契約紙』というものが出来上がる。
この時、紙に記された魔法はその魔法言語を書いた当人が実際に使用できる魔法だけらしい。
例を上げると、『水』の魔法を使える魔導師は『水』の呪文の契約紙を魔法言語を用いて作れるが、自分が使用できない『火』の契約紙は絶対に作れない。
既に完成された『火』の契約紙を隣に並べて臨書をして、全く違いのない契約紙を作ろうとも、『水』の魔導師が作った『火』の契約紙は作動しないらしい。
何故かは未だに解明されていない。魔法言語も同様に綴りのパターンや文字数などの法則性がないらしく、おそらくはそれが原因だと考えられているが、こちらも解明されていない。
それなら『火』の契約紙で契約したあとに、『火』の契約紙を作ればいいだろうと思われるのだが、ここで話が戻ってくる。
出来上がった契約紙を読み上げ、契約紙に魔力か血を注げば、契約紙が燃え上がり『契約』は完了する。その人は契約紙に記された魔法が使えますよーっということだが、話はそんなに旨くない。
やたらと『火』やら『水』やらと強調したのは、『相性』というものが存在するためだ。
この『相性』、どうやら自分の得意不得意な属性のことで、『火』の魔法を得意とする魔導師は『水』と相性が悪く、『水』の契約紙を読み上げても契約が出来ないらしいのだ。
これも契約紙を臨書するパターンと同じく、隣で水の魔導師が水の契約紙を読み上げるのを追いかけても、相性が悪いと契約は出来ない。
呪文を魔法言語で紙に書いたり、契約紙が燃え上がり魔法を使えるようになることを、魔導師たちは『呪文を刻む』というらしいが、この己の中に刻まれた呪文が反発して魔法が覚えられないんじゃないかと言われている。
ただ例外は存在するらしく、やはり単なる得意不得意だろうと考えられ、そこから『相性』が良い悪いと来ているらしい。
つまり『契約』を結ぶには相性の良い魔法の魔法紙を読み上げ、呪文を己の中に刻めばいいということらしい。
他に魔法を覚える方法はないのかとパルナ母さんに尋ねたら、成長していくうちに魔法言語が頭の中に浮かび上がり、その魔法言語を唱えると新しい呪文を己の中に刻めるそうだ。
レベルアップで新呪文的な理解でいいね。
さて、ここまでの説明で俺はピーンと来たね。
俺、どえらいチート(日本語翻訳機能)持ってるやん……。
この契約の儀式だが、実は魔法言語が読めたらいけるんじゃね? と思えた。
つまり魔法言語を自分で翻訳できたら呪文を覚えることができるのでは? と仮説を立ててみたのだ。
成長値と言われるものが規定の値に達していないと上位の契約紙は読めないらしいが、下位の契約紙は相性が良ければ結構誰にでも読めるらしい。
特に読み方を理解していなくとも、自然と読めるらしい。
はいキタ。これで勝つる。
つまり神様、俺に魔法で異世界無双しろってことですよね? 異論は認めません。日本語翻訳機能とかのデフォしか持ってねえじゃん、とか生意気吐いてスミマセン。なんせ赤ん坊の言うことなんで許してあげて下さい。とんでもないチートをありがとう。しかも紙読むだけで全魔法習得も夢じゃないとか将来が安泰過ぎる。ムフフフフ………………はっ。
少し考えが加熱気味だったので、まずは立証してから喜ぼうとパルナ母さんに契約紙をねだった。
あぶねーあぶねー。これで、ぬか喜びとかだったらテンションの落差がデカ過ぎて死もありえた。まずは複数契約できるかどうか確かめてからだな。なるべく相反する属性で。
パルナ母さんの答えはノーだった。
まぁ、正直分かる。順番的には魔力操作を覚えてからだわな。しかも散々危険だと説明してきたのにこれだから子供は〜、といったところだろうか。
だがしかし!
お忘れじゃなかろうか? 俺はこうみえて(五歳児)立派な大人!
そう! 見た目は五歳中身は三十歳! ってやつさ。やべ、なんか法に触れそうだな。ともかく大人の良識と知見があるということ。だから大丈夫なのだよ。
……といった説明は出来ないね。よくよく考えたらイタタタタタタ、だ。強制的に病院に運ばれちゃうよ。
仕方ないから正攻法でいくことにした。
魔力操作をやってみることに。
魔力操作の説明はされなかった。
何故なら、魔力操作はパルナ母さんが説明する前にあっさりとできたからだ。
拍子抜けするくらい簡単だった。
体の中心、心臓辺りから生み出される紫の靄を、体の中で高速循環させたり、小指の先ぐらいの大きさのボール状にして体外に出したりと、やりたい放題やれた。
流石にこれにはパルナ母さんも驚いていた。
「はぁ〜、ファンくんは将来すごい魔導師になれるかもねー。お母さん鼻が高いなー」
とのこと。
確かに、ここまで簡単だと魔力感知や魔力操作においても異世界補正が働いていそうな気がする。話を聞くに、本当ならもっと時間がかかったり才能を必要とすることらしいからね。
ちょっと後ろめたい。根が小心者なので。
まぁしかし、それはそれ、これはこれ。魔法という武器は異世界で生きていくにあたって大きなアドバンテージになるっぽい。それに純粋に魔法を使ってみたいしね。無双云々は置いといてね。
という訳で、契約紙を再度ねだった。危険の少ない一番簡単で初級のやつでいいから。大人の前でしか魔法使わないから!
俺の必死さが功を奏したのか、パルナ母さんは仕方ないなーと言わんばかりに折れてくれた。
「じゃあ、今度からお母さんがいない時も良い子にできる? タージェのいうこともちゃんと聞ける?」
まち、まちたまえマザー。それは厳しすぎるんとちゃうやろか。
俺はたっぷりと時間を使って考え、冷や汗をかきながらゆっくりと頷いた。無念だ。
パルナ母さんは腰から丸めて紐でとめた羊皮紙を取り出して渡してきた。
用意がよかったのは、もしかしたら教本をとりに戻ったときにこの展開を考えついていたからかもしれない。
俺は早速受け取った羊皮紙を読み上げ、指をかじって出た血を羊皮紙に垂らした。
この時、エナもパルナ母さんも慌てていたが、魔力はさっきので打ち止めなので仕方ない。
おお、これが呪文を刻む感覚か。契約は問題なくできたっぽい。
さあ、ようやく! 魔法を使う時がきた!
俺は手を前方の誰もいない空間に翳し大声で呪文を唱えた。
「火よ!!!」
…………………………緩やかに風が駆け抜けていった。
気づける人は気づいたと思うのだが、俺の魔力量は小指の先ほどの魔力を体外に排出するだけで打ち止めになるのである。
後でパルナ母さんに聞いたところによると、一番簡単で威力もないこの魔法でも、その倍は魔力が必要になるとのこと。
……無双とか夢想しちゃった。うへへ。