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五年が過ぎて。
はい。めでたく五歳になりました。
最近はトイレも風呂も一人で入れるようになりました。ええ、重要な事ですから。
但し、見張り付き。
まぁ、わからんでもないけどね。子供の入浴時の事故って多いらしいし。
あと数年の我慢だ。多分これが神の試練ってやつだ。ちくしょう。
さて、こちらの世界では五歳になったらやることがあるらしいんです。
分かりやすく言えば、ステータスの確認ってやつですな。
お役所に行って、鑑定官って人から魔法でステータスを確認されて、ステータスの記された紙を受け取るという行事がありました。
びっくり半分納得半分ですね、ええ。
これはこの国の国民全員が行う行為だそうです。貧富の差に関係なく。
ちなみに、うちはそこそこ裕福っぽいです。まぁ、メイドさんが付いてる家なので、そうだろうとは思いましたが。
えー、どこぞの公爵付きの執事一家だそうです。微妙に貴族じゃない。いや、期待していたわけではないんですがね。
さて、そんなわけで、公爵付き執事の倅はステータスの確認にお役所に行きました。
正直ちょっと期待しながらね。
というのも、このステータス確認は、いわゆるスキルや魔力量を調べるためにやるそうだ。
そう、スキル。あるんだってよ。
なんかこの異世界全然優しくねえよ。取説とかベビーベッドの近くに置いとけよ。
で、スキルなんだが。
なんでもこの世界では生まれついてのスキルを『才能』と呼び、後天的に発したスキルを『得道』と言うらしい。
総じて『贈り物』と呼んでいる。スキルって言わないんだねぇ。
そのアクトを持っている人って少ないらしく、国を挙げて珍しいアクトなど持ってないか調べているそうだ。国益に繋がるかららしい。
無論無料だ。うむ。素晴らしい響きだね。
そんなわけで、母様につれられてお役所に行って、なんか魔法陣っぽいものの上に立たされてカシャっとされて、ドキドキしながらステータスが書かれている紙を貰ったとですよ。
結果は無能。生きててすんません。
まぁ、母さんも父さんも当然といった反応だったけどね。
なんでもロードならともかくアクト持ちは殆どいないらしい。
一つ持ってれば「へー、凄いね」二つ持ってて「うわっ、珍しい」三つで「アイドルにならない?」といった感じと言えば、うわぁ、わかりやすぅい!
それでワタクシめはといいますと「はい、それじゃあ次の方ー」だったのですけどね、ええ。
だから持ってないのが普通だそうです。
普通万歳、無個性も個性なんですよ世の中の皆が主役なオンリーワンなんです。ボク転生者。てへっ。
ガッカリしましたが許して欲しい。
だって! 普通さぁ! もっとさぁ! っさあ! ……いや、いいんですけどね。
ちなみに基礎ステータス値も魔力量も普通の五歳児レベルでした。
つまり前世の知識持ちの翻訳機能搭載のパンピーということですな。
別にいいもん。通訳になって語学無双するからっ!
そんなこんなで、誰よりも落ち込み家中の人から慰められましたが、立ち直りました。
でもやっぱりギフトが欲しかったので勉強することに。
後天的に派生するロードなら今から勉強してたらいずれ身につくんじゃね? とまあ軽い感じで勉強を始めました。
ところが、めちゃくちゃ難しいらしいです。魔法覚える方がまだ簡単だとか。
えっ? こっちの世界のスキルってそんなんなん? じゃあ、難易度がイージーな魔法から。
と、あっさり目的を変更したんですが、こちらも大変だったんですよ。
この五年の間に魔法に関することは全く教えて貰っていない。
理由は、子供が扱うと危険だから。
うん、だよねー。本人も危険だけど、周りももっと危ないよねー。ちょろっと魔法使ってお屋敷燃やされたらたまんないもんねー。
しかし、このステータス確認を終えて、凹んでいた俺が床に転がりダダをこねるという儀式を経て、遂に! 魔法解禁です!
え、ぼくごさい。むずかしいことワカラナイ?
普通ですよ普通。欲しいもの親にねだってダダをこねる五歳児(三十歳)なんて、どこにでもいます。
さぁ、魔法魔法。おお、漸く退屈な生活に刺激が。思えばここまで長かった……。
ちなみに、本が読めないなんてことはない。
この翻訳機能が実は結構なチートで、言語に関しては本当に将来安泰レベルで約束されているといっても過言ではないだろう。
そう、本もスラスラ読めるのだ。
どんなミミズ文字でも日本語として理解できるという優れもの。多分、他国の文字とかでも理解できると思う。
本好きと思われたのか、お陰で本は沢山買ってもらえた。危ない記述の乗っているの以外で。
まぁ専ら御伽噺とか図鑑とかなんだが、これが結構面白い。
当然と言えば当然なんだが、見たことも聞いたこともない話や植物とかだらけだし、特に魔物図鑑は夢中になって読みふけってしまった。
他に娯楽もないしねー。
御伽噺の人物が実在するのか質問したり、山にこの植物を取ってきていいか許可を求めたりの五年間でした。
当然許可は貰えず、植物はメイドさんに取ってきてもらったり、庭に自生しているのを観察したりといったところ。
流石に魔物が見たいとは言わなかったけどね。でも、今生で一回は竜が見てみたいなー。いるらしいんですよ、竜。
それに魔物を見たいなんて言い出したら図鑑取りあげられちゃうかもしんないし。一度、毒草見たいっていったら説教されたからね。
発言には気をつけねば。
スキルがあることも分かったので、スキル大全的なものもあるんじゃなかろうか。今度聞いてみるとしよう。
いつか覚えてみたいよな。
そして今日、初めて魔法関連の本をもらった。
題は『はじめての魔法』。
……まぁ、五歳だしな。ともかく魔法使えるってのはいいよな!
テンションの上がった俺は、早速魔法を使うべく庭で試してみることにした。
魔法を使うときの約束で屋内では使用しないというのがあるためだ。
約束はしっかり守らねば。魔法禁止令とかだされたら絶望しかねんからね。
本来なら本を熟読してから実践なんだろうけど、やたら薄い本だし、読みながら魔法を使ってみよう。
勿論、どこに行くにもメイドさんがついてくるけど、大人が監視しているところでという約束もあるので、これは仕方ないな。
綺麗に包装されている本を丁寧に取り出して、俺は机から立ち上がった。お付きのメイドのエナが問いかけてくる。
「ファドニクス様。どちらへ?」
最近坊ちゃま呼びじゃなくなった。これ地味に嬉しいな。
でも未だに名前に慣れなくて、誰のことかと思ったりもするが。
「庭で魔法使ってくる!」
「左様でございますか。ではご一緒しますね?」
意気揚々な俺に微笑ましげな笑みを浮かべてくるエナ。
エナにクスクスと笑われながら俺とエナは自室を後にした。
まぁ、新しい玩具を買ってもらえた五歳児の反応としては間違ってないと思うけどね。