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夢売りDiary  作者: 琥狐 燐
1/1

君を夢で殺す…

 夢を見る。



 いつも夜には決まって似たような夢を見る




 夢では俺は彼奴を殺す。


 何時も何時も、俺は彼奴を殺す夢を見る。


 今日もその夢を見る…



 * * *


「なぁ、ちゃんと聞いてるのかよ?おーい、なぁ?」

「五月蝿いなー…ちゃんと聞いてるっての」

 こいつは俺の幼馴染で、いつも夢に出てくる彼奴だ。


 こいつと一緒にいるといつもあの夢を思い出す、断片的にだけど…あの夢が何を意味しているのかは分からないけど、余り…というか、いい気分にはなれないし

「……最悪だ…」

「ん?どうした?」

 ボソッと呟いた言葉に帰ってきたものになんでもない、とだけ言って流しておく。


 時々、俺が夢の中でこいつに痣や、切り傷をつけたところに同じ傷がついていることがある、俺はそのことを問い詰めるけど、彼奴はなんでもない、とだけいって話を逸らす。

 それが、何故かとてつもなく不安になる。俺が殺しているのは夢ではなく、現実の話で、今見ているのは夢の中なんじゃないか…って、不安定になる。

 彼奴はもういないんじゃないか…そう、錯覚すら起こす。


 * * *


「なんで…」

 不意に出た言葉は彼奴に届くはずはなくて、届いたとしても、彼奴から言葉が返ってくることもなくて。

「又、またこんな夢…いつになったら終わるんだよ…」

 そんなことを言ったらこの言葉が届いたのか彼奴は何か言いたげに俺に向かって手を伸ばす。

 俺はその手を取ることができなかった…


 怖かったんだ…


 現実でも彼奴が死ぬんじゃないかって…


 どうしようもないんだ…


「ごめん…ごめん、ごめんな?」

 俺はこの言葉を夢が覚めるまで言い続けていた…


 * * *



 ビックリした。

 起きて思ったのがこれだ、今日夢はリアル過ぎだ。この前まではこんなにリアルな夢ではなかった。

「なんだよ……」

 もうこんな夢は見たくないのに…

「彼奴は…」

 急に不安になってきた。これは何時ものことだが今日のは違う。

「彼奴が俺の言葉に反応したの…初めて…だよな……?」

 自分で言葉にしてみて寒気がした。


 まさか


 彼奴に


 俺は急いでベッドから出て寝衣から着替え家を飛び出る。

 向かう場所は決まっていた。


 頼むから…


 自分の予想が当たっていないことを願いながら目的の場所へと急いだ。

 途中の赤信号で彼奴に連絡を入れていないことを思い出し、『今から行く』とだけ打ってメールを送る。

 送ったと同時に赤から青に変わり、俺は何も考えないで目的の場所…彼奴の家まで走った。



 彼奴の家に着いた。ケータイを確認すると彼奴からメールが返ってきていた。ホッとした…俺はメールを見ないでインターホンを押した。

「……」

 ガチャ

『はい?』

「…俺だけど…」

『今行く』


 彼奴が家から出てきて彼奴の部屋に通される。

「で?どうしたんだよ…結構急いで来たみたいだけど…」

 俺の息の上がり方から読み取ったのか、彼奴はそう言ってお茶を差し出した。

「え、あー…なんでだっけ」

 俺はそれを受け取り曖昧に答える。


(理由考えてなかった…)


「はぁ…まぁ、そんなことだろうと思ったけどさ…なんかあった?」

 彼奴は呆れたように言って、お茶を飲む。

「いや、別に…」

 チラッと彼奴の腕に傷があった、最近で来た傷に見える。


(最近こいつ、怪我するようなことしてたっけ…)


 いや、なかった。元々、こいつはそんな怪我するようなことなんてできる奴じゃないし、一日の大半は俺といることが多いから怪我したら俺が気付く…

「なぁ…」

「ん?」

「その腕の傷…どうしたんだよ?」

 俺は彼奴の腕にある傷を指差しながら、聞いた。


 数分の沈黙。


「あ…あぁ、これか?朝起きたらなんか、なってた。今日ベッドから落ちてたし、多分その時やったんじゃないかな」


 彼奴はそう言った。

 いつもならすぐ返事が返ってくるが、今回は違った。

 こいつが嘘をつくときはいつも何分、返事が遅れる。


「本当に、ベットから落ちただけか?」


 彼奴は何か考えた後今日みた《夢》の話をし始めた。

 俺は夢も聞いて何かが引いて行くのが分かった…





 * * *





「まぁ、ただの夢…って思いたいけど、起きて数分後にお前が来たからさ…何か関係があんのかな?」

 彼奴が話した夢の内容は今日俺が見た夢のまんまだった、違うのは視点。

 自分が殺されるのを見ていた…はずだった。気づいたら視点が切り替わって俺に殺されたんだという。

「って、お前顔真っ青だぞ!?大丈夫か?」

「だい…じょうぶだ」

 彼奴が俺と同じ夢を見ているんじゃないか…そう思ったことは何度かあった。でもそんなことあり得ないことだし…と自分に言い聞かせてきた。

 でも…


「…ごめん…」


 不意に聞こえてきたのは彼奴の謝罪の言葉だった。

「な、なんでお前があやまんだよ…?」

「分からない、でも…謝らなきゃと思ったから…」

 そう言って彼奴は目線を落とす。


『違う…』


 彼奴が謝るような事なんて無い、はずだ。


『違う…何か忘れてる、気がする』


「お前が謝るようなことじゃない…」

 俺の口から出た言葉はこれだった、これしか言うことがなかった。というより、彼奴はきっとこの言葉が聞きたかったんだと思うし、俺自身〝あの時〟は俺の不注意だったから。だからこれでいい。


 俺の言葉を聞いても彼奴は俺を見ようとはしなかった…でもそれでいい…


「 」



 ここで俺の視界は暗闇に落ちた。




 彼奴は泣いていた…


 最期に見た夢は俺も、彼奴も泣いていた。






 これで安心して寝れる、彼奴を殺す夢なんか見ないで、ゆっくり、目覚めることなく…


 * * *


「どうでしたか?」


 目の前にいる男は不敵な笑みを浮かべていた。辺りは暗く、よく見えない。


「此処が何処だか分からない。みたいな顔してますが…もしかして忘れちゃいました?」


 …?


「きょとんとしないでください…ハァ…今の映像を見せる前に自己紹介諸々、説明をしたのですが…まぁいいでしょう。」


 男は一呼吸置いてから説明を始めた。


「初めまして、自分は〝夢売り師〟と言います。夢売人という方もいらっしゃいますが、なるべく夢売り師とお呼びいただけると嬉しいです。」


 〝夢売り師〟…?


「夢売り師というのは、まぁ、そのままの意味なのですが、夢を売る者でございまして…」


 夢売り師はそう言うとパチンと指を鳴らした。辺りが明かりに包まれる。周りには天井まで本棚がたたずんでいた。


「此処にある本は全て夢を買った人たちが見た〝夢〟でございます。さっき見ていただいたのは少し特殊なのですが…」


 そう言って夢売り師は一つの本のページをめくる。


「え?さっきの夢はよく分からなかった?そうですか…でしたらもう一つ、夢をお見せしましょう。」


 夢売り師はまた、パチンと指を鳴らした。さっきまで明るかった場所が闇に包まれる。


「それではお見せしましょう…最初から最後まで…何があったのかを…」



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