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見えない笑顔  作者: 福海
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見えるの?

 屋上のフェンスに手を当てて、空を見るでもなく、グラウンドを見るでもなく、ただ正面を無表情で見つめる彼女を、僕は声をかけずにはいられなかった。

「なんで泣いてるの?」

 もっと他にかけるべき声があったと思う。

 だって、彼女は泣いてなどいなかったのだから。

 ただ無表情に。

 感情を出さずに一点を見つめる彼女に、なぜか話した言葉はこれだった。

 初対面の人にいきなり泣いていないのに『泣いてるの?』など聞かれると、普通は驚いたり怒ったり無視したりすると思うが、彼女は、

「……私が見えるの?」

 と、やはり無表情で彼女はそう言った。

「え、どういうこと? 普通に見えるけど」

 不意を突かれた質問に、僕はこう答えるしかなかった。

「……私の涙も見えるの?」

 高校に入学して一週間、僕は不思議な女の子と出会った。


 ☆


 僕の悪い頭では、合格出来る公立高校などあるはずもなく、適当にスポーツ試験を受けたらまぐれで合格したというのが本音だ。

 まあ人並み以上には運動できたからな。

 そんな行きたくて入学したわけではない晴山高校はるやまこうこうに、いつも通り人が誰も通らない裏路地を通って登校。

 晴山高校の校門前で先生に何か言われたが、僕には聞こえない。

 軽く無視していつも通りの僕の1-6教室に入る。

 遅刻ギリギリで登校したため、クラスメイトはほとんどそろっていた。

 僕のクラスは、スポーツ特待生が大半を占めており、特待生ではないのは僕を合わせて5人しかいない。

 きっと朝練か何かだったのだろう。

 他の4人も僕と同じように、スポーツテストで合格した運動神経抜群の生徒だ。

 僕と違ってギリギリ合格ではないのだろうけど。

 晴山高校では1組から3組までが進学クラス、4組から6組までが体育クラスとなっており、進学クラスがA棟体育クラスがB棟といった具合に完全に離されている。

 他の学校と比べたら多少長いであろう渡り廊下を渡らない限り、僕達体育クラスの生徒は進学クラスの生徒とは会うことが出来ない。

 会う必要もないからな。

 スポーツにすべてをささげてきた体育クラスの生徒と、寝る間も惜しんで勉強をしてきた進学クラスの生徒とでは話が合うはずもない。

 B棟の生徒は好き好んで誰もA棟に近付こうとしない。

 僕以外は。

 僕は昼休みを毎回屋上で過ごしている。

 昼休みだけでなく授業をサボる時も屋上を使っているけども。

 その屋上に上る階段はA棟にしかないため、僕はA棟を通らざるえない。

 屋上は基本生徒も教師も立ち入り禁止となっているため、誰も近寄らない。

 生徒も教師も誰もいない、自分しかいない空間、まさに僕のベストプレイスだ。

 ちょっと汚いけど。

 この日もいつも通り、2時間目の授業までは普通に受けて、3時間目と4時間目の授業は、屋上でサボり、そして昼休み。

 弁当を入れた晴山高校指定バッグを取りに教室に向かい、そして屋上に行く。

 しかし、僕が屋上を出るときと入るときでは違いがあった。

 些細な違いではあるが、誰か見知らぬ女子生徒が、屋上のフェンスに手を当てて、ただ一点を見つめていた。

 僕はなぜ立ち入り禁止のはずのこの場所に人がいるんだ? と不思議に思ったが、もしかして自殺か? とも思ったが、彼女の様子を見るとそんな感じでもなかった。

 僕は彼女に少し近付き、様子をうかがったが、こちらを振り向こうともしなかった。

 ここは立ち入り禁止だぞと教えて二度とこの場所を、僕のベストプレイスを訪れないように彼女に促そうとしたが、それは出来なかった。

 なぜなら、横に回りこんで彼女の表情を見たとき、僕は泣いてるように見えた。

 屋上のフェンスに手を当てて、空を見るでもなく、グラウンドを見るでもなく、ただ正面を無表情で見つめる彼女を、僕は声をかけずにはいられなかった。

 僕は登校から授業中まで一切外していなかったイヤホンをこの時外し、彼女に言った。

「なんで泣いてるの?」

 もっと他にかけるべき声があったと思う。

 だって、彼女は泣いてなどいなかったのだから。

 ただ無表情に。

 感情を出さずに一点を見つめる彼女に、なぜか話した言葉はこれだった。

 初対面の人にいきなり泣いていないのに『泣いてるの?』など聞かれると、普通は驚いたり怒ったり無視したりすると思うが、彼女は、

「……私が見えるの?」

 と、やはり無表情で彼女はそう言った。

「え、どういうこと? 普通に見えるけど」

 不意を突かれた質問に、僕はこう答えるしかなかった。

「……私の涙も見えるの?」

 私が見えるの? という質問にも疑問に思ったが、一番疑問に思ったのは後者の質問だ。

 もう一回はっきりと彼女の顔を見るが、やはり泣いてなどいない。泣いていないのに、なぜ僕は泣いているように見えたのだろう。

「ご、ごめん。泣いてなんかないよね。忘れて」

 僕は作り笑いをしながら彼女にそう告げて、この場所にこのままいてはいけない、そんな気がして、置いていたバッグを手に取り、屋上を後にした。

 高校に入学して一週間、僕は不思議な女の子と出会った。

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