錆びた時計の行方 ―後―
次の日の朝早く、リサはあの時計の行方が気になりもう一度中央広場の噴水まで出向いていた。もちろんその目的は、あの時計がどうなったか確認するためだ。無ければ一番いいのだが、もしあった時のことを考えると。あの大金だ。不用意に人の手に渡らないほうがいい。心持駆け足になりながら、リサはあの袋と時計のことだけを考えていた。
そして目的地に着き、少し挙動不審になりながらも昨日依頼通りに沈めた袋の位置にやってきた。
一回、二回、と三回深呼吸してから、思い切って覗き込んだ。
「――――あれ? あの袋がある」
噴水の中には、昨日リサが指定通りに沈めていた袋が残っていた。恐る恐る手を伸ばし袋を取ると、重さはあまりかわっていないように感じた。持ってきていたタオルで軽く手と袋の水気を拭ったあと、袋を開ける。
「――時計も金貨もある」
そこには依頼された時計と、自分が一緒にいれた金貨もピッタリ枚数が揃ってはいっている。
( ――どういうことななんだろう)
昨日リサはちゃんと指定通り正午前に来て、正午ぴったりに噴水に袋に入れた懐中時計を沈めた。不備はなかったはずだし、人通りの多いこの場所でいくら噴水の中とはいえ誰の目にも触れなかった。というのは少しヘンだ。時計には興味がなくて金貨だけ持ち去られていたり、時計も一緒に持ち去られている可能性も考えていた。なのに、どちらも欠けることなく揃っている。
「――時計、修理が間に合わなかったら私が好きにしていい、って書いてあるし。持ち帰っても大丈夫かな?」
しばらくこの時計をこのままここに沈めておくか、家に持ち帰るか悩んだ末。リサは時計を袋ごと金貨と一緒に持ち帰ることにした。
時計を家に持ち帰ってから、念のために水気による影響で壊れていないか確認する。
「うん。大丈夫みたいね、良かった」
時計はどこにも異常はなく、苦労して直した時のままだった。
時計のことはよかったが、謎は解決しない。どうして、あの依頼主は注文通りの指示に従ったにもかかわらず時計を取りにこなかったのだろうか。
「――直るわけがない、と思っていたから?」
(だから、迷惑料というか割いた無駄な時間に対する報酬として多額なお金を置いていったのかしら)
なんだかそれっぽい理由な気はするが、何が事実なのかはわからない。
「必要以上の検索は身を滅ぼすっていうし、特に私に不利益があったわけでもないしね」
そう。リサにとってしてみれば、仕事がそう頻繁にあるわけではない時計屋からしてみれば。突然舞い込んだ、難題ではあったが、舞い込んだ仕事のおかげで暇な時間を過ごすこともなかったし。報酬は破格すぎるもので、いいことづくめだ。だからこそ、不安でもあるのだが……。
「まあ、何か事情があってとりにこられなかっただけかもしれないし。もしかしたらまた、お店まで取りに来るかもしれないしね」
そこは義父母との死別以降、前向きに生きよう!と決意したリサ。頭を振って気持ちを入れ替える。リサは例の時計を店や家に片付けて置いておくのは何だか不安だったので、いつも服の下に身に着けることにした。
服に隠れてみえない懐中時計が、一瞬だけ、キラっと光った。
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文法上誤用となる3点リーダ、会話分1マス空けについては私独自の見解と作風で使用しております。