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境界:魔王

「あらら、これは予想してなかったわ」

「ほんとにねー」

 幽霊が運んできた茶菓子をつまみながら紫と幽々子は見ていた。空間に空いた穴には、朔と妖夢の姿がある。

「もう少しこのことで弄り遊んでからくっつけようと思ってたのにね」

「紫、貴女彼にどんな教育したのよ?」

「藍、どうなのよ」

 音も気配もなくいつの間にか藍が現れた。もっとも、二人からすれば分かりやすいことこの上ないのだが。

「どうと言われましても、紫様の言われた通りに一般人レベルの知識を。まあ紫様や私を見てて計算能力は外の最新のスパコンは超えるんですがね」

「他には?」

「そうですね、後は一般常識なんかを。それと責任は逃げずにキチンと背負えとも」

「「……はあ」」

 盛大にため息を吐きながら二人は朔と妖夢を見る。

「……でも、妖夢のあの顔を見れたなら私はそれで良いわよ」

 幽々子のそんな言葉に紫も頷く。

 紫はスキマを閉じ、最後に一つ残った饅頭に手を出そうとする。

「なあ、それはいいんだけどさ」

 しかしその饅頭は男がむしゃむしゃと食べていた。男は饅頭を飲み込んでから紫にこう言った。

「お前、一瞬だけ全力を出しただろ?」

「それが?」

「その時に『結界に回していた力』も使って、結界が一瞬消えただろ?」

「だから、それが? 早く言いなさいよ」

「龍が運ばれてきたぞ。その時に」

 途端に紫の動きが止まる。顔はいつもと変わらないのだが、よく知ってる奴らからすればバレバレだ。

「本来はあいつを吸血鬼の所に飛ばすんじゃなかったのか? なあ、どうするつもりだ?」

 男の方も良い笑顔だ。怒ってる気配も幽々子や藍には感じ取れない。

 実際はそういった物を全て紫にぶつけているだけなのだが、二人が知ることは出来ない。

「ちょ、ちょっと出かけてくるわ」

 誰に言ったのか分からない声の主は、空間の穴に飛び込んで消えていった。

 残された者達は、揃い合わせたようにため息を吐いた。



 彼は一人、地面に転がっていた。

 彼は、ある時は何でもない普通の人間だった。

 彼は、ある時はとある星に住む生物の実験生物だった。

 彼は、ある時は復讐のために生きていた。

 そして今の彼は、己の根幹を完璧に破壊されていた。

(……、)

 薄れゆく意識の中、僅かに残った生存本能が魔力を使って生命を維持しようとしていた。たが無理だ。今の彼には、死にかけの人間の身体を超活性させられるほどの力はない。

(……いな)

 残ったのは、一つの願い。生きてる人ならば、誰もが思うであろう、願い。

(幸せに、なりたいなぁ……)

 ぼんやりと、薄れゆく意識の中でそんなことを適当に考えていた。

 パンッと何かの音がした。

「……?」

 ジロリと眼だけを動かして音源を見る。

外の世界の学生服、ワイシャツにスラックスを着た少年が立っていた。年齢は十七か十八だろう。

 黒髪で、容姿は良い方には入るだろうが突出してるわけでもない。どこにでもいる普通の学生のように見えた。

「どうだ、動けるか?」

 その言葉を理解するのに少し時間がかかった。そして気づく。自身の力がいつの間にか戻っていることに。

「お前は、誰だ?」

「んー、俺か?」

 少年は笑う。どこにでもいる普通の少年の顔で、普通と同じように。


「魔王。どこぞのクソ神はそう言ってた」


 世界は、回り始める。

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続き『東方龍神祭』

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