宴会
一月前の朔ならこの状況を想像することはなかっただろう。普通の人間がこんな集団の中に入ることはないからだ。
。だがもう朔は普通の人間ではない。スペルカードで戦うことは出来なくても妖怪から全力で逃げれるくらいには普通ではなくなっていた。だからこの中に混ざっていても大丈夫なのだろう。
「だけどこの場所にこの面子はおかしいと思う・・・」
博麗神社。一番妖怪がいてはいけない気がするこの場所に、幻想郷の中でもかなりの力を持つ妖怪が集まっていた。
なんかそれだけを聞くとお互いがお互いを牽制しまくって殺伐としている気がするが、そんなことは一切なく楽しい雰囲気で酒を飲んで騒いでいる。
朔はそんな中適当に敷かれた布に座って適当に食べ物を食べて見ていた。
「お、見ない顔の奴がいるね〜。誰の知り合い?」
すると突然頭からでかい角を生やした鬼が話しかけてきた。話しかけながらひょうたんに入ってる酒を飲んでいる。
「私よ私」
「あ、紫じゃん」
「紫さん、そこから顔を出すの気持ち悪いんでやめてください」
紫は朔の腹の辺りにスキマを空けて現れた。流石に腹から出てくるのは心臓に悪かった。
「紫の知り合いか。なんかこいつの周りを白いの飛んでるからどこぞの宴会を邪魔した奴らの仲間かと思ったよ」
「一応半人半霊に区別されるから間違ってるわけじゃないけどね」
「ふーん。名前はなんて言うんだ?」
「あ、津後森朔です」
「つごもりさく? 晦朔、ねえ・・・まあいいや。私は伊吹萃香、紫の友人だよ。というわけで酒飲むか?」
「あ、どうも」
萃香はひょうたんの酒を枡に入れて渡してくる。枡の大きさが一升枡の気がするのだが多分気にしちゃいけない。
少し飲んでみる、するととても美味しく、そのまま一気に飲み干した。
「美味しいですねこれ」
「おー。これ一気するとはただ者じゃないね」
「へ?」
意味が分からない朔に紫がひょうたんを指差して教えてくれる。
「このお酒、間違いなくアルコール度数が九十以上あるわよ」
「・・・は?きゅ、え?」
「いやーこれを一気する奴が鬼や天狗以外にもいるなんてねえ。・・・待てよ? こいつ半人半霊ならあの庭師もいけるんじゃないの?じゃあね朔、私はこれで失礼するよー」
何やら呟きながら萃香は何処かへと行ってしまった。
「それじゃあねー♪」
紫もスキマを閉じて消えた。
「やれやれ・・・そもそも何で俺はここに・・・・・」
そもそも妖怪だらけで気が休まないというのもあるが、ここにいるのは全員女性で、全員がかなりの美人さん達なのだ。この中に男一人というのはなかなかに緊張する。
(可愛い人綺麗な人が多すぎるって・・・・)
「ごふっ!」
「?」
誰か遠くにいる人が盛大に咳き込んでいた。酒が気管に入ったのだろうか?
「こんにちわ」
後ろから声をかけられ、振り返る。少し大きめの箱を持った永琳が立っていた。
「・・・どうもお医者様、アルコール中和する薬でも売ってるのか?」
「売ってはないけど、酔うと暴れる人には渡してるわ。以前それで酷い目にあったから」
永琳の視線は何故か遠くで同じように薬を渡す鈴仙に向かっていた。
そのまま朔の隣に座りながら話しかけてくる。
「一つだけ質問があるのだけどいいかしら?」
「なに?」
「・・・・・・」
永琳は何も言わず、目の前の光景を見ていた。視線の先には、どんちゃん騒ぎをする妖怪達がいるだけだ。
「今は幸せ?」
ポツリと、聞こえるか聞こえないかギリギリでそんなことを永琳は呟いた。
「幸せだ。誰かさん達が邪魔しなければな」
即答だった。その答えを聞いて永琳は笑う。
「しばらくは邪魔は入らないとは思うけどね」
「なんで分かる」
「物語の主人公は一人じゃないということよ」
「は?」
言いたいことは言ったのか永琳は黙って立ち上がり歩き去っていく。が、途中で思い出したのかなかなかに良い笑顔を浮かべて一言。
「頑張りなさい」
何を?とは聞けなかった。何故なら答えはすぐにやって来たからだ。
「さーくさーゆ!」
「おわっ!? なに!? 妖夢!?」
後ろから妖夢がいきなり抱きついてきた。後ろを向こうとすると無理やり首を前に戻された。
「食べてませんか? 食べてませんね〜。宴会のんだかりゃよっちぇしゃわいで〜」
「酔ってる!完全に酔ってる!酔うには早い気がするんだ妖夢!!」
抜け出そうと試みるが、朔は力自体は普通の人間なので無理だった。
「よっちぇる? にゃにゅをゆっとぅるんどゅちゅか? かきゃまいふはいてよにゃぅらゅけのょいじゃいへふふぁ!」
「それは酔ってる人の言う台詞だろうがあああああ!!!」
「いやーごめんごめん」
いつの間にか萃香が立っていた。ただし、手のひらサイズだが。
「そこの庭師もいけるかと思って飲ませてみたんだけど駄目だったよ」
「何してくれんの!? というか鬼だよね!? だったら妖夢を引きはがしてくれない!?」
「だが断る」
「断るなあだだだだ!!?」
妖夢がさらに力を強めて身体中が悲鳴を上げる。
「酔え、酔うんだ津後森朔!酔えばきっと希望がある!」
「ねえよ!! うおおお増えた!?」
気づけばわらわらと小さな萃香が自分より数倍大きい枡を持ってきて、その中身を無理やり朔の口に押し込んでくる。
「あばばばばばば!!?」
「あーれー?『鬼殺し』でも酔ってない?どういうこと?」
「鬼でも酔い潰れる酒を飲ましたのか!? そしていい加減妖夢は離れろ!!!」
「にゃってしゃくすょんのきゃりゃだあっちゃかいでぇすよ〜?」
「離れろやああああああああ!!!!!!!」
妖夢を引きはがすために朔は暴れるが、妖夢は中々離れない。だが暴れる甲斐あってか少しだが拘束が緩んだ。
(いけそう!一回抜け出せばこっちのもんだ、全力で加速して逃げ切ってやる!!)
頭も身体と一緒にブンブン振り回して何とか脱出しようと試みる。横向いたり後ろ向いたりと、とにかく身体を動かす。
その時、一瞬だが唇に何かが触れた。
「ふにゃ!?」
奇声と共に妖夢が離れていく。その顔は真っ赤に染まっている。
「はぁ・・・はぁ・・・、疲れた」
「「「「・・・・・・」」」」
「・・・ん、なに?」
騒がしかった妖怪達が全員怖いくらい静かになり、分かってない朔一人が頭に疑問符を浮かべる。
トントンと肩を叩かれた。振り返るといつぞやの天狗が写真もこっちに向けて立っていた。
「この私、射命丸文はシャッターチャンスを逃しませんよ?」
そう言いながら渡された写真を朔は見る。
その写真は、朔と妖夢がキスしてるように見えた。
「・・・・・・ほえ?」
(え、え? は? いや、待て確かにさっき口に変な感じが・・・)
ちらりと妖夢を見る。リンゴのように顔が赤いが、酔ってるのとは違う気がする。
文を見て、天狗にこんな写真を撮られたらどうなるかを考える。
結論が出るのは一瞬だった。
ズバン! と写真がバラバラに斬られた。
朔の手にはいつの間にかどす黒い刀が二本あった。文は紙くずになった写真を見ながらカメラを見せつける。
「最近の写真機はでーたーとして写真を保存していつでも引き出せるんですよ。河童の技術はすごいですねー」
「データごと壊してやる!!」
文は持ち前の速さで逃げ出し、朔は自身の身体を二万倍に加速させて追いかける。
幻想郷の空を、高速で何かが飛び回った。




