中と外
「ごぼっ!?」
朔は突然身体が何かに叩きつけられたような痛みを感じ、動きを止めてしまう。
そこを狙うように六つの炎が飛んできた。
「っくそ!」
全力で後ろに下がるが間に合うはずもない。
轟っ‼︎ と炎が爆発した。
「がああああああああああ!!!」
痛みをごまかすために叫ぶ。大した効果はないがやらないよりはマシだ。
(・・・そういえば俺の身体はどうなるんだ? さっきの痛みは身体が吹き飛ばされたからか!?)
新たに炎が飛んできた。六つの色の炎が津波のようになって朔に襲いかかる。
「おおおおおお!!」
恐怖を押さえつけて津波に斬りかかる。二本の刀が津波の一部を吹き飛ばして安全地帯が生まれる。
(まいったなくそ! 能力が使えないとか予想してないぞ!)
朔の身体自体は人間だ。吸血鬼の身体になったりしたがそれでも今は人間だ。特別な訓練を積んだわけでも馬鹿力なわけでもない。
朔の戦法は基本的には『斬ったら速攻で逃げる』だ。彼の能力は『速度を操る』程度でしかなく、力攻めなど出来るわけがない。
(・・・ここでは能力は使えない)
力強く刀を握りしめる。
(だけど何かあるはずだ! 相討ちになるとしても必ず何かがあるはずだ!)
それはただの願望だ。だが今の朔はそれにしがみつくしかなかった。
ゴバッ! と炎が竜巻へと変わり、空から炎の塊が降り注いできた。
「おおおおおおおおおおおおおお!!!!」
朔は塊から身を護るために二本の刀を構え、弾き飛ばす。
その光景を、彼女は見ていた。
ゴッ! という音がサタンの耳に届いた。
その光景を見て、サタンの顔から表情が消えた。正直予想外だった。面白くない方向に。
振り下ろした剣は、女性の手で受け止められていた。その腕は、目の前の抜け殻のポケットから出てきていた。
「なんだおめぇは。そんなつまらなそうな顔してんじゃねえよ」
その声に込められた力は、とても強いのだろう。その声が響き渡るだけで、大地が揺れたのだから。
だが、サタンは面白くなかった。格下すぎるからだ。
「んな声で言われても怖くねえぞ化け狸」
ボウン、と何とも気の抜ける音がした。気がついた時には抜け殻の隣に狸の妖怪がいた。
「なんじゃやっぱり駄目か」
「ふんっ、神格持ちか。確かに思いが集まった結果出来上がった神様に近い存在なら幾らか対抗できるかもな」
「出来るわけなかろうて。儂とて己の力量くらい心得ておる。今出来ること繋げるくらいじゃ」
「・・・繋げる?」
狸は何も言わない。代わりに笑った。企みのある笑みを。
ゴバッ‼︎ とサタンは全力で剣を振るった。
「ぬんっ!」
狸は手を振り、不可視の力が攻撃を凌いだ。
一瞬の隙、それだけあれば充分だった。
「お主は知らんかもしれんが・・・」
ズズズズズッと何かが集まっていく。
狸はどこまでもふざけたように笑う。
「幻想郷の異変は、全て人間が解決するものだ」
ベキベキベキベキ‼︎‼︎ とあってはいけない音が響いた。その音源は、どこぞの半人半霊が斬り裂いた空間の穴だった。
「てんめ・・っ!」
サタンは狸を始末しようと剣を振るう。
その瞬間に割り込むように、それはやってきた。
ドゴゴゴン‼︎‼︎ と連続した巨大なレーザーが穴からやってきた。
「っ!?」
咄嗟に慣れない魔法の防壁を張る。しかしレーザーはあっさりとそれを貫いてサタンを焼いた。
「ぐおおおおおおお!!」
それでも直撃するよりマシだった。レーザーで貫かれた大地は、底がまるで見えなかった。
「うお!なんだこの威力!?マスパの威力がとんでもないことになってるじゃないか!」
そんな声が聞こえてきた。声のする方を見ると正に魔法使いと言わんばかりの格好をした少女がいた。
その手に持っている物を見て、サタンは思わす叫んでしまった。
「月弓だと⁉︎ なんだってそんな物を人間が持ってるんだ!?」
「さっきそこで自称神様に貰ってきたんだぜ。しっかしこれ威力は凄いんだが使い所がなー・・・流石にこれはやりすぎだな」
(冗談じゃねえぞ。神器なんざ持ち出して来やがって・・・)
月弓、紛い物ではない、正真正銘の神器。月の神である月読の持つ星々の加護を受けた弓。
(まずい、星はまずい! そんな人の思いがぎっしり詰まった物を持ち出されたら・・・!!)
全力ならば勝てる自信があった。だが今サタンを構成する七分の六の力が中にいる人間の心を潰そうとしている真っ最中だ。
(まだ力の使い方が分かってないはずだ。ならば速攻で叩き潰せば・・・)
「あら、余所見してたらマジックを見過ごすわよ?」
ヒュン、と何か空気を裂く音がした。
それより先に現れたのは、周りが見えないくらい大量にある銀のナイフ。
「っ!?」
轟っ! とサタンを中心に爆炎を展開させ、ナイフを吹き飛ばす。
「何で咲夜がいるんだ?今夜だからお前のご主人の時間だろうに」
「お嬢様は最近朝夜更かししてらっしゃるから平気よ」
いつの間にか現れたメイドはナイフを持ってままそんなことを言った。その眼は紅く染まっている。
「てかお前、なんか変わったか?」
「・・・変わった、というよりは戻った、が正しいわね」
「??」
(・・・おいおい、あいつなんでそんなに強い殺意を)
空気を裂く音が聞こえた。咄嗟にその場でしゃがむ。
サタンの上を大量のナイフが飛んで行き、しゃがんだサタンに追い打ちをかけるように星が飛んできた。
「ちぃ!」
爆発、そしてその勢いを利用して距離を取る。
(くそくそくそくそ!! 本気でこれはまずい)
剣を構えはするものの、勝てるかどうかが怪しかった。もしかしたら負けるかもしれない。
(全力でやれば勝てない相手じゃないが・・・全力でやれば間違いなくあの野郎が何かするな)
剣を地面に突き刺す。
(だったら簡単だ。一旦引いて中の異物を排除した後で叩き潰す!)
轟っ‼︎ と炎が辺り一帯の空間を焼き尽くす。もちろんただの目くらましだ。
ただし、その目くらましはあらゆる物を溶かすが。
(ちょうど穴が空いてるし、そこから逃げ出せれば・・・)
バチンッ と何かが光った。炎に紛れて見えなかったのだが、それはお札のように見えた。
ゴバッ! と炎が全て巻き上げられた。
「・・・マジかよおい」
一点へと集まる炎を見上げてそんな呟きが漏れた。
「まったく、紫の奴が妙に急かすから何かと思ったじゃない」
「あー・・・霊夢まで来ちゃったか」
「何で残念そうなのよ貴女は」
サタンは乱入してきた博麗の巫女を、正確にはその中にいる存在を見ていた。
(軻遇突智⁉︎ 神降ろしが出来たのかこの巫女!)
サタンは本気で危険を感じていた。ふざけてるとしか言いようがなかった。
(殺意の塊のようなメイドに神器持ってきた魔法使いに神の力を扱う巫女・・・ふざけるなよなんだってこんなタイミングで来るんだよ!?)
そんなことを言っても何も変わらない。
勝手に話し合った少女達は勝手に話を進め、一斉にサタンへと襲いかかる。
その光景を、彼女達は見ていた。




