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それぞれの思い

「妖夢ー?」

 もう日が傾き、空が赤く染まってきた時間、妖夢はまだ帰ってきていない。昼過ぎに何故か消えてそのままだ。

「実は白玉楼に帰ったとか?でも荷物普通にあるしなー・・・・・お」

 遠くの空から何かが飛んでくるのを感じた。霊力の感覚からして妖夢のようだ。

「おかえりーよう」

 ブォン! と高速で朔の隣を通り抜けていった。玄関を壊しそうな勢いで開けてドタドタと走っている。

「な、なんだ??」

 追いかけていくと、ミノムシがいた。

 正確には、布団にくるまって半霊が外に出たままの妖夢がいた。若干プルプルと震えている。

「妖夢ー?」

「幽霊なんて怖くない幽霊なんて怖くない幽霊なんて怖くない幽霊なんて怖くない幽霊なんて怖くない幽霊なんて怖くない幽霊なんて怖くない幽霊なんて怖くない・・・・・」

「あ、駄目だこれ」

 まともに話ができそうにないので少し放っておいて台所に向かう。今日の夕飯何をするかまだ決まってないのだ。

 と、台所に行くと紫がいた。それでもうだいたいは察した。

「紫さーん」

「ふふふ〜、可愛いでしょ妖夢はー」

「否定はしないでおきますがあまり遊ばないでください」

「ふふっ。・・・さて、本題に入りましょうか」

 ふざけた雰囲気から一転して本気の顔になる。真面目な顔ではなく、本気の顔。

「朔、塔に行って異変を終わらせてきてもらえないかしら」

「・・・・・ここまできて、命令ではなく、お願いですか」

「ええ、これは誰かのためではなく、私たちのために貴方を使おうとしてるだけだもの。貴方は私たちの所有物ではない。だから私は貴方にお願いをするの」

「俺が紫さんにお願いなんてされたら、どう答えるか分かって言ってますよね」

 一瞬、本当に一瞬、わかる人にしかわからない悲しい笑みを紫は朔に見せた。

「なんで俺なんですか? と聞くのは今更ですか?」

「分かってて言ってるわね?」

「もちろん」

「うふふふふふ」

「あははははは」

「・・・・お願いね、朔」

「頼まれました。全力で頑張ります」

「ありがとう」

 スッと紫が目の前の何もない場所に手をかざすと、大きな穴が現れた。紫はそこに一歩踏み込む。

 そこで紫は今思い出したかのように言う。

「・・・そういえば、妖夢ってあそこまで他人に弱い姿を見せることって、私たちにもないのよ」

「は?」

 意味を問う前に紫は消え去ってしまった。一人残された朔は部屋に戻る。

 ビクビク震えている妖夢に手を伸ばし、その手を掴んでやる。

「っ!?」

「ほれ、安心しろ。俺がここにいるからさ」

「さ、朔さん?」

 ギュッと握りしめてくる手が痛むのを我慢して強く握り返してなる。妖夢の手は柔らかく、冷たかった。

「「・・・・・・・」」

 二人は何も言わない。妖夢は何を言えばいいのかがわからないし、朔は何かを言うつもりはなかった。

 だから、二人は静かに互いの手を握る。

 その感覚を、手放したくないから。



 月が輝くことのない夜、朔は夜の里を歩いていた。

 里に活気がない。すぐ近くに異常な塔があれば当たり前なのかもしれない。

 朔は喋ることなく、黙々と歩く。その背中から声がかけられた。

「こんばんわじゃ、朔どの」

 後ろに顔を向ける。そこには以前物を盗られていたマミゾウと名乗った女性がいた。

「こんばんわ、マミゾウさん。里とはいえ夜の一人歩きは危険ですよ」

「それは主も同じじゃろうて。今暇か?なんなら一杯やらんか」

「あーすいません、酒は飲まない性分でして・・・・それにやることがあるので」

「塔に行くのか?」

 ピクリ、と朔の目に様々な感情が宿る。それはいわゆる敵意や警戒心と呼ばれる物だった。

「お主が行く必要などどこにもないじゃろ?幻想郷の異変は巫女に任せれば良い。ただの被害者であるお主が行く必要など、どこにもありゃせんじゃろ」

 そんなマミゾウの言葉に、朔は笑って言う。

「でも、頼まれたことはキチンとこなさないといけないので」

「それは、キチンと分かって言っているのか?」

「それはもちろん」

「頼まれなかったら行かないか?」

「当たり前です。わざわざ危険な所に突撃する人は普通いません」

「・・・ならいい。少しこっちにおいで」

「?」

 ちょいちょいと手招きされて朔は近づく。朔は意図がわからないまま近づき、抱き寄せられた。

「ふぉぐ!?」

「このようなことが起こらなければ、今頃お主は普通にあの村にいたであろうに・・・」

「な、なに!? なんなの!?」

 マミゾウは何やら呟いているが、朔としてはそれどころではない。というかかなりシリアスな所じゃないんすかー!? と心の中で叫ぶ。

 と、そこでふと既視感を覚える。

(昔、誰かにこんな感じにいきなり抱き寄せられたりしなかったっけ・・・?)

 頭の中で何処かの映像のような物が流れる。誰かに手招きされた小さな子供が、いきなり抱き寄せられて何かを叫んでいる。抱き寄せた人物は影のようになっていて誰かがわからない。

 と、そこでようやくマミゾウは朔を放す。それと同時に映像が消え、まったく思い出せなくなった。

「あの、ちょっと聞きたいことが・・・」

 もうそこにマミゾウはいなかった。代わりに葉っぱが一枚ひらひらと舞っている。

「・・・・・・・・」

 朔は葉っぱを拾い、ポケットに押し込んで歩き出す。行き先は変わらない。



 塔の下で足を止める。塔に触ってみるとゴムのようなものなのか弾力があった。

 上の方では青い服の妖精が何か叫びながら氷を塔に放ち、全て綺麗に跳ね返されて自身が氷を受け、怒って氷を放ちを繰り返している。

 ズズズズズズッと塔から黒い手が伸び、朔を掴む。朔は抵抗することなく身を委ね、そのまま塔へ吸い込まれていった。

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