その力の意味
「んー?」
男はニヤニヤとしながらこちらに歩いてきている。まるで策があるなら使ってみろよと言うように。
(この武器が、自分の心を相手に見せつけるような武器なら・・・)
貰い物の刀を両手に持つ。
(こういう使い方もできっ!?)
朔は自身の腹を切ろうとした寸前、白い物が見えた。
白い包帯だ。全身を白い包帯で包み込み、髪まで白だから白い塊が移動してるように錯覚してしまう。その塊は、二本の刀を持って、自身の半身である半霊を連れて、男に突撃していた。
それが誰かなんて、疑問に思う必要もなかった。
「はああぁぁぁっっ!!!」
気合いと共に放たれた斬撃は鋭く、しかし今の朔にとっては弱く思えた。当然、男もそうだろう。
男は剣を持たない左手に白炎を纏わせ、塊の斬撃を受け止めた。
怯むことなく塊は絶えず斬撃を繰り出し続ける。それらの斬撃を全て、男はつまらなそうに受け止め続ける。
「邪魔だ」
その言葉と共に男が塊を蹴り飛ばす。勢い良く地面に飛んだ塊は、すぐに立ち直して男に再度突撃する。
「やめろ」
今度は爆炎で吹き飛んだ。包帯が焼け、素肌が出てくる。構わず突っ込んでいく。
「もう、やめろ」
巨大な黒の剣に叩き落とされる。また立ち上がる。
「もう止まれよ! 妖夢!!」
朔の叫びに、少しだけ塊は、妖夢は動きを止めた。しかしすぐに動き出す。
「くそったれが!」
飛んで止めに行こうとする。が、身体が石にでもなったかのように動かない。
「な、んで動かないんだよ」
見れば、背中の翼はいつの間にか消えていた。湧き上がる力も、感じ取れない。
(くそ! どうする、どうする!? どうすればいい!)
その間にも妖夢は男に突撃し、叩き落とされる。
(どうするんだよ! 繰り返すのか? また同じことをするのか!?)
自身の言葉の意味を、朔は理解していなかった。
(繰り返してたまるか! 何度も何度も大切な人が死ぬのを見てたまるか!!)
「うごけ、うごけよ」
ギギギ、と壊れた人形が、それでも動こうと頑張っている印象を受けた。
「動いてくれよ・・・」
空にいる男が、ポツリと呟いた。
「うぜえ、死ね」
男が剣を振るった。明らかに妖夢は、その動きを捉えれていない。
「あああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」
吠えても、それでも身体は動かない。時の進みが、遅くなった気がした。
(動きやがれ! 何の役にも立ったこともない力ども! 一度くらい役に立て!)
ゆっくりと剣が黒の軌跡を描きながら振るわれる。自身の手元にある黒は、動くことはない。
(ふ、ざけんな。動けえええぇぇぇ!!!)
時が、唐突に加速した。
ギン! という金属音が耳を叩いた。
見れば、いつの間にか朔は男の近くに来ていて、剣を黒い刀で受け止めていた。
「・・・ほう?」
男が笑った。そんなに死にたいか?と言っているような気がした。
後ろで妖夢が何か言った。だがその声が朔に届く前に男が剣を振るう。
ゴウッ!! と空気を切り裂きながら来た剣を、とっさに黒い刀で受け止める。
バギンッ! と何かが砕け散る音がした。
黒い刀が、根元から折れた。それを視認した瞬間、朔の身体にとてつもない脱力感が襲いかかる。
「くひっ」
男が笑っていた。どうでもよかった。
妖夢がまた男に斬りかかった。どうでもよかった。
(・・・ああそうか、心を武器にしたのなら、武器が折れたら心も折れるってことだよな)
理性ではそんなことを考えていた。だが、どうでもよかった。
妖夢がいつの間にか捕まり、その首元には黒く巨大な剣が向けられていた。
「お前は後だ。目の前で知り合いが死ぬのをじっくり見てろ」
男がそんなことを言っていた。どうでもよかった。
「(・・・本当にどうでもいいのか?)」
頭に声が響いた。どうでも、よかった。
「(そうやって殺されていくのを見て、また怒って、また殺されるのか?)」
声は語る。どうでもいい。
「(・・・しゃーねーな。そろそろ飽きたんだ。聞かせてやるよ、半人前の声)」
何か言っていた。どうでも、いいのか?
「(・・・ごめんなさい、朔さん)」
妖夢の声が頭に響く。どうでも、よくない。
「(私が、未熟だから、役に立つこともできなくて、ごめんなさい)」
妖夢が謝る声が聞こえてくる。どうでもいいわけがない。
「(貴方の役に、少しでも立つことができていればいいのですが・・・たった数日じゃあ判断できませんね。・・・せめて、私がやったことの、罪滅ぼしを、しっかりしたかったです)」
罪滅ぼしなんて、ない。そもそも妖夢が何をした?
「(・・・・さようなら、朔さん)」
「っ!」
どうでもいい、と言う心を叩き潰す。どうでもいいわけがない。
(目の前で、殺されそうになってるのに、)
壊れた刀を掴み直す。
(どうでもいいわけ、ねぇだろうが!!)
何かが、壊れる音がした気がした。そんなことを気にする暇などなかった。
必死に身体を動かし、男に向かって刀を振るう。男がニタニタ笑いながら剣を振るう。
巨大な黒と壊れた黒が激突する。
音さえしなかった。何の抵抗もなかった。
音もなく巨大な剣が切れ、何の抵抗もなく男の身体を斬った。
「がっ、は!」
「・・・・・なんだこれ」
朔が持つ刀から、黒色が消え、桜色に変わっていた。それと同時に、朔は自分の中にいた何かが消え去っているのを感じた。
ほわん、と刀が形を変え、人魂になる。それと同時に一気に身体に力が入らなくなった。とっさに妖夢が朔を抱えてくれた。
「・・・いまさらだけど、おはよう妖夢」
朔は妖夢にそんなことを言う。妖夢は少し笑いながら、
「今は夜ですよ、朔さん」
と、言ってくれた
「くくく、ははは。なるほど、失った心を埋め尽くした結果か。ははは、こりゃ面白い。そういうこともできたのか」
男が笑っていた。楽しそうに、口を歪ませて、笑っていた。
ゴウッ! と炎が男の周りを舞った。
「塔に来い!面白い物を見せてやるよ!ヒャーッハハハ!! ・・・じゃあな兄弟!」
炎の塊と化した男は、何処かへ飛んでいく。
「逃がすと思ったか!」
その炎の行く手を遮るようにレミリアがいた。男はただ一言呟く。
「畜生炎」
バササササッ! と竹林から大量の火の鳥が飛んできた。
「我らの主の邪魔をするな!」
「主の邪魔をするものは」
「我らが滅する!」
火の鳥の数は、百や千ではない。一万は軽く超えている。
「今度遊んでやるよ、吸血鬼ちゃん? ヒャッハハハ!」
「ちぃ!」
レミリアはそれでも追いかけようとするが、もうそんなに力が残っていないのか明らかに鈍い。
そうこうしてるうちに、男は消えた。




