心の力
便利な身体だなー、と朔は人間ではありえない速度で刀を振るいながら思った。
お互いが武器を振るう度に衝撃波で周りの地形が簡単に変わっていく。そしてそれを行っているのが自分だと思うと笑ってしまう。
(人間としての部分は消え失せた)
飛んできた白炎を叩き落とし、男に向かって突撃する。
(ならば、せめて化物として己の敵を倒す!)
「だあぁっ!」
「ふんっ!」
黒と黒がぶつかり、力比べに持ち込まれる。
「せいっ!」
力比べで勝てるつもりなどない。もう一刀で男の腹を突く。
「地獄炎」
男の身体を橙色の炎が包み込む。刀は男の身体を貫いたが、貫いたのと同時に腹部を貫かれたような痛みが生じた。
「人間炎」
男と朔の間で爆炎が生じ、その場から離れさせられる。
朔を追いかけるように振り下ろされた巨大な剣を二本の刀で受け止めようとするが、空中では支えきれずに地面へ叩き落とされる。
「おらおらどうした! そんな薄っぺらい『心』で俺に勝てるとでも思ってんのかあぁ!? 俺達の目的の邪魔は誰にもさせん。妖怪であろうとたとえ神だろうとな!」
「くそったれ!」
受け止めた状態から加速する。倍率は千。
剣から抜け出し、高速で男の後ろに回り込み斬りかかる。
ふわり、とまるで空気を斬ったような感覚がした。
「っな!?」
呆気に取られた朔をその後ろから突然現れた男が蹴り飛ばす。
あっさりと再度地面に叩きつけられた朔は動かない。
「あ?死んだ? ねぇ死んだ? んな簡単に死ぬような身体じゃねーよな、あ?」
もちろん死んだわけではない。が動けないのは事実だった。
(くそ、やっぱり実力に差がありすぎるぞ)
「おーい、おら起きろよ!」
男が何か言っているが聞く暇などない。
(今俺の手札は何がある? 集めろ、考えろ。まともにやりあっても勝てる確立はない)
ザーッと頭の中の情報が整理されていく。誰が何を言ったか、誰が何を持っているか、教えられた情報を全て一言一句違えることなく整理する。
(まず俺の武器は加速と減速、二本の刀。減速はさっきから試してるけどまるで効かないから捨てる。加速は吸血鬼になったことで疲れて動けなくなることはまずないから良い。最大倍率は約二万倍、動くだけで相手を切り裂くことができるがあいつに効くか?効くわけねえな。そもそもさっき腹を突いたらこっちがダメージを受けた。下手な攻撃は全部返される可能性が高い)
八雲紫の式に鍛えられた思考力を余すことなく発揮していく
(武器は・・・そうだ、確かこの黒いのは最初肉体を殺して魂を取り出すとか物騒な説明があったはずだ。でも何回か既に斬ったよな?あの説明が嘘だったのかそれとも条件があるのかわからないがこれは当てにしない方が良いか。後は蛇王大蛇丸だっけか、これは何かあるのか? ・・・待て、なんだ? 何か引っかかったぞ。何にだ?)
ドゴン!と隣に何かが着弾したような音がした。それに意識を向けることなくひたすら考える
(さっきあいつは黒い刀を見てなんと言った? こころ、心? 薄っぺらい心ってどういうことだ?まて、そうだ、あの男が剣を出す時何て言っていた? 『シンイグゲン』、神威?それとも、心意か?前者なら神の力を振るう、後者なら・・・心の意思。グゲンは具現、『心意具現』か。心がなんだってんだ?心が武器になって現れたとでも? ありえるのか?そんなの聞いたことない。・・・いや、先入観を捨てろ。今ある情報を正確に把握しろ)
「おーい、起きてくださーい、死んでますか〜?」
(そうだ、この刀は半霊が変わった物だ。半霊を魂や心と言うのなら、心が武器になるということで良い。・・・もし、あの説明が本当で、斬った奴を殺す力があるなら、それは俺の意思か?だがどういう原理だ?何故今はその力がない?・・・あ)
「そっか、そういうことか・・・」
「ありゃりゃー? やっぱり生きてます? 生きてるよなそりゃそうだそうじゃねぇと張り合いがねえぜ!」
思わず漏れた呟きを、男は聞き逃さなかったようだ。ゆっくりと地上に降りてくる男に向かって朔は聞く。
「なあ、この心の武器は使用者の想いによって性能が変わる、という認識でいいよな?」
「あぁ?何を今更んなこと言ってんだ」
「・・・そうか」
二本の刀を杖代わりにして立ち上がる。身体は転がっている間にすっかり回復していた。
「・・・なるほどな、今の俺に、殺意があるわけねえよな」
朔は答えに辿り着いた。目の前の敵を殺すための手札を手に入れた。
(もし、『殺意』を刃にして、それで斬られた奴がその殺意を感じ取れたら? あまりにも強い殺意を感じて、自分から死んだ方がマシだと頭が判断したら、人は勝手に死んでしまうんじゃないか?)
それがありえるならば、軽く斬っただけでも殺意を感じ取ってしまい、相手は自分から死ぬだろう。説明通り、肉体が死に、魂が出てくる。
(そりゃあ死なないよな。今の俺は月の影響を受けてなくてそんな殺意だけで人を殺すなんて出来るわけがない。・・・だが、感情を相手に見せられるなら、植え付けられるなら・・・)
ニヤリと笑いながら朔は告げる
「仕組みはわかった。さあここから勝利をもぎ取ろうか」




