知識と日陰の少女
「そんなこんなで紅魔館ですが」
「どうした?」
「門番を無視するのはいいのか?」
朔と魔理沙は紅魔館の中にいる。門には奇妙な格好をしたままピクリとも動かない淡い緑の服を着た少女がいるのだが二人はその上を飛んで無視したのだ。
「大丈夫だろ、あいつだって本当は気づいてるだろうし」
気づいてるのになぜ止めない、と朔は思うがすぐに自由に出入りするほど親しいのかもしれない、と思い直す。
魔理沙は迷いなく動くので朔も魔理沙について行く。
廊下を歩き階段を降りて扉の前に立つ。朔が一応ノックしようとする間もなく魔理沙が扉を開けて入っていくので慌てて続く。
「・・・わぁ」
朔が入って一番に目に入ったのは本がぎっしり詰まった本棚、しか もそれが大量にあるのだ。床には落ちてしまったのか本が幾つも放置されている。
「おーいパチュリー、どこだー?」
朔は何気なしに落ちている本を手にとってみる。そこには明らかに日本語ではない文字が書かれている。
「××××、・・・今俺なんて言ったんだ?」
朔は何かを呟き自分の言葉に疑問を感じる。
「『太陰の統治者』」
(・・・なくなった記憶と何か関係があるんかね?)
朔は気になって少し読んでみるものの、どうも歴史書のようで記憶に関係あるとは思えなかった。
「月夜見、ジョウガ、八意エイリン、・・・無理矢理発音しても誰だかわかんねー」
「・・その本が読めるの?」
朔が声に反応して振り返ると少女が後ろから必死に背伸びして本を見ようとしていた。
見た目は長い紫髪の先をリボンでまとめ、紫と薄紫の縦じまが入った、ゆったりとした服を着ている。その上から薄紫の服を着、ドアキャップに似た帽子を被っている。また服の各所に青と赤のリボンがあり、帽子には三日月の飾りが付いている。
右手には辞書のように分厚い本を持って左手で朔の肩に手を置いて必死に見ようとしている。
「・・・えーと」
「何て書いてあるの?」
と言いながら少女はぴょんぴょん跳ねている。
「何処かの歴史書、いや歴史書というより偉人書? ・・・てか何で息切れしてんだよ」
少女はなぜか息切れを起こして苦しそうにしながら朔に寄りかかっている。
「う、うるさいわね、体力ないのよ」
「・・・いや体力云々じゃねーだろ」
朔は本を本棚を入れる、そして屈んで、
「よいしょっと」
少女を抱きかかえた(お姫様だっこ☆)
「むきゅ!」
「むきゅ? どっか椅子とかないのかね」
朔は少女を抱えたまま図書館を動き回る、ちなみに少女の顔が真っ赤なのだが朔は薄暗いせいか気づいていない。
朔はしばらくしてようやく机と椅子を見つけそこに少女を座らせる。
机には大量に本が積まれていてその一つ一つがとてつもなく分厚い。
「顔すげー赤いけど風邪か?」
「あんたのせいよあんたの!」
少女はそんな分厚い本を朔に投げつける、が至近距離にも関わらず本は朔に届かず床に落ちる。
「はぁ・・はぁ・・」
「おいおい大丈夫か?」
「お、パチュリーここにいたのか」
と、魔理沙が朔たちの方へと歩いてきた。それを見たパチュリーは露骨に嫌そうな顔をする。
「これを連れてきたのは魔理沙だったのね」
「そうだ、パチュリーに見てもらいたい物があるんだ」
「貴方が盗っていった本を返すなら考えてもいいわよ」
「盗んでないぜ、借りてるだけ借りてるだけ」
「・・・盗む?」
朔が『盗っていった』という言葉に反応し、数時間前のことを思い出す。
「おい魔理沙、お前ここでも盗みを働いてんのか?」
「盗んでないぜ、私は借りてるだけだ」
「「無断で借りるのは盗んでるのと一緒だろう(でしょう)が!」」
「な、何言ってるんだ、盗んだ物は返さないだろ、私はキチンと返すぜ」
「作物はどう返すつもりだ?」
「・・・・」
「「・・・」」
「パチュリー、そいつは任せたからな! じゃあな!」
「逃がすか!」
朔はまた刀を投げ飛ばすが魔理沙は綺麗に避け箒に跨って扉を壊す勢いで出て行く。
「くっそ、今度は避けやがった」
朔は刀を拾い上げようとすると刀が勝手に浮き、少女へと飛んでいく。
「・・・これがここに来た理由?」
「ああそうだ、何か分かる」
「なにも、何もないわ」
「はええよ」
「これ、本当に存在してるの? 中身どころか外まで何もないし・・・」
ぶつぶつ何かを呟きながら刀を見ている、と思えばいきなり顔を上げて朔に話しかける。
「これの調査、引き受ける代わりに頼み事いいかしら」
「・・・何だ」
少女が少し手を動かすと三つの本が飛んでくる、それらの本は全て辞書のように分厚い。
「貴方がさっき読んだのと同じ文字が使われてるのよ、全部解読してちょうだい」
「・・・全部?」
「全部。そこの椅子とペンと白紙の本を使っていいから」
「・・・まじか」
「あ、私の名前はパチュリー・ノーレッジよ、よろしくね」
「津後森朔だ! やってやるこんちくしょう!」
「図書館では静かに」