人をやめた者たち
「あーうざい!!」
豪雨のように降り注ぐ真紅の槍を天界炎で受け止め、黒色の桜の波を黒剣で薙ぎ払う。
間髪入れずに大量の蝙蝠や蝶々が飛んで男を包み込む。
「吹き飛べ!」
男を中心に辺りを燃やすのではなく溶かす熱量を持つ炎を展開する。
吸血鬼の腕は焼けただれ、亡霊は炎の中に消えた。
だが吸血鬼の腕はすぐに綺麗な姿を取り戻し、亡霊は何事もなかったように攻撃を続ける。
「うっぜぇんだよ!!」
辺り一帯を消し去る勢いで炎を爆発させる。その程度では彼女達は止まらない。
男は本来、このような状況に立たされはしない。
餓鬼炎というものがある。精神を焼く炎は、精神その物である亡霊を焼き尽くすだろう。
人間炎の隠し技に『飛び火』というものがある。一度燃えてしまえば、その火は誰かを焼き殺すまで止まることはなく、吸血鬼は永久に苦しむことになるだろう。
だが、今の男はそれらを使うことが出来ない。
原因は、空に輝く、偽物の紅い月。
それ自体に仕掛けはない。ただ男に埋め込められた物が、月に反応して暴れ出そうとしてるのだ。
結果、男はこうして本来の力を出せずに苦戦を強いられている。だがそれも時間の問題だった。
吸血鬼が紅い槍を持って突撃し、亡霊がどこからか連れてきた幽霊と共に弾幕を放つ。
槍をギリギリの所で回避し、弾幕を人間炎の爆発で吹き飛ばす。
「終わりよ、貴方」
吸血鬼が何かを言った。その言葉が合図だったのか偶々かはわからないが、空に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
「まっず!」
慌てて魔法陣を破壊しに行こうとする。だがその隙だらけの男の腹に真紅の槍が突き刺さった。
ブチブチと肉を裂く音がすぐ近くからした。
「かっ、は!」
「さようなら。貴方の敗因は、咲夜に手を出したことよ」
吸血鬼がそんなことを言っていた。が、何を言っているのか男にはわからなかった。
魔法陣が一際大きく輝いた。
わかるわけがなかった。
魔法の光が、まっすぐ落ちてきた。
敗因? 勝因の間違いだろうに。
「魔界炎」
男は七つ目の炎を、全てを飲み込み、自身の糧とする炎の力を展開する。
その瞬間、時の流れが止まった。
男は笑いながら白炎を剣や槍の形にして、吸血鬼や亡霊、満月の周りに設置する。
「さあ、時よ動き出せ」
時の流れが正常に動き出し、時と共に動き出した白炎の武器に吸血鬼達は串刺しにされた。
吸血鬼は地に落ち、亡霊は炎に囲まれ身動きが取れず、紅い偽物の満月は狸と九尾に分かれた。
「ヒャーハハハハッ!!」
「な、にが、・・・」
地面に降り立ち、寝転がっている吸血鬼の頭を思いっきり踏んづける。何やら肉が潰れるような音がしたがどうでもいい。
「親切に教えてやるよ吸血鬼ちゃんよー。魔界炎はな、あらゆるものを吸収する炎なんだよ」
亡霊が炎から抜け出した所に魔界炎から魔法使いが使ったレーザーを取り出して放つ。亡霊がホームランの球のように吹っ飛んでいく。
「これは物質非物質は問わない。霊力だろうが光だろうが、それこそ時を止める力だろうが構わずぜーんぶ奪い取る」
狸と九尾が飛んできた。時を止めてそいつらの背後に回り込み、修羅炎を纏って音速を超えた蹴りをぶちかます。狸と九尾もとんでもない速度で吹き飛んだがまだ立ち上がれるのは流石と言ったところか。
「『貴方の敗因は、咲夜に手を出したことよ』だって? 馬鹿じゃねぇのかてめえは?」
「う、ぐ」
吸血鬼が呻いた。腹が立つので何度も何度も踏みつける。
「そもそも! てめえら妖怪が! 人の力に敵うわけがねぇだろうが!おらおらどうした! あの失敗作の尻拭いをするじゃねぇのかあぁ!?」
何度も地面やを踏みつけていると、いつの間にか地面にクレーターが出来ていた。吸血鬼を適当に蹴り飛ばして他の奴を殺しにいく。
「・・・あ、ら、いいのかし、ら? 私をほ、うってお、いて」
「あぁ?」
いつの間に立ち上がったのか、吸血鬼が男を睨みつけていた。ただし足腰に力がまるで入っていない。立つのがやっとと言うところだ。
「遊んであげるからかかってらっしゃい、坊や」
魔力が、爆発した。魔法を使ったわけではない。ただ魔力をぶつけただけ。
それなのにそれだけで吸血鬼は吹き飛んだ
「遊んでやるよ、後でな。ヒャハハ」
空へ飛び立ち、辺りを見渡す。
もはや元の形がわからないほど破壊された竹林。その中に狸と九尾がふらふらしながらこちらに飛んでくるのを見た。
男はまた時を止めて吹き飛ばそうと思い、魔界炎を使う。が、そこで二人の表情が変わった。
苦痛に歪んだ表情から、自分の仕事が終わって安堵した表情に。
「・・・あ?」
そこでふと思い出した。狸と九尾がやったことを。
男の邪魔をするだけなら、わざわざ紅くする必要はなかったはずだと。そして、紅い月には何がある?
疑問の答えはすぐに出た。
何故ならば、
高速で飛来した何かに男が吹き飛ばされたからだ。
「がっ・・・!?」
苦痛に顔を歪ませながら飛来してきたものを確認する。そして思わず笑ってしまった。
そこにいたのは、片方が悪魔の翼で、もう片方が枝に七色の宝石をぶら下げたような奇妙な翼を持つ、紅い眼をし、半霊を連れた朔だった。
「・・・能力は月人仕込みで、力の質は半人半霊で、量と身体は吸血鬼。お前もう人間の部分一つもないじゃねーか」
答えを期待したものではないのか、朔が何か言う前に男は黒い剣を構える。
朔は静かに半霊に手を伸ばし、掴み取る。半霊が急に黒くなったかと思うとあっという間に黒い刀へと姿を変えた。
腰に下げてあった刀も引き抜き、二本の刀を構えた朔は言う。
「あんまり言うな、悲しくなってくるから」
金属と金属がぶつかるような音が、幻想郷中に鳴り響く。
人ではない者たちの、幻想郷ではありふれた、それでいて今はなかった本気の殺し合いが、始まった。




