約束
はっきり言ってもう限界だった。もう何もしないと決意するほど。
「・・・・・・・・・・・・」
朔が畳の上で転がって寝ているのを、何故か妖夢がじーと見ていた。寝づらい。
何かあるのかと思って妖夢を見ても目を逸らすだけ。
でも無視して寝ようとするとじーとこちらを見てくる。
(なんかあるならはっきり言えばいいのになー)
心の中でぼやく。そんなことをしても何も変わらない。
決心して起き上がり、妖夢の方を見る。
妖夢は気まずそうに目を逸らすだけで何も言わない。
「なぁ、妖夢」
「・・・・なんですか?」
話しかけると何かに耐えてるかのような顔になる。
そこでふと思い出す。確か悩み事があったんじゃないか、と。
実際は適当に言っていただけなのだが、そこらへんの記憶がぼやけている朔は知ることはない。
ここで普通に「なんか悩み事あるのか?」と聞いても答えてくれないくらいは朔でも分かった。
だから別の方向でいく。
「散歩行かない?」
「散歩、とか言っておいて飛んでますね・・・」
「いいだろ別に。お前らからすれば当たり前かもしれんが俺は今日初めて飛んだんだから」
家からかなり離れた所を、朔と妖夢は飛んでいた。
朔は最初はジタバタしながら飛んでいたのだが、慣れてきたのか普通に空を飛んでいた。
「朔さん」
「ん?」
妖夢が真面目な顔で朔に問いかけてくる。
「貴方は、人間、ですか?」
絞り出すような声で、妖夢は問いかけてきた。
朔は何でもないかのように言う。
「どうだろうな? 人間だったらいいなーとは思うけど。改造された人間って人の部類に入るのかな?」
「・・・かい、ぞう」
「あぁ、昔どっかから拉致られて薬漬けにされて、地上に落とされたっぽい。情報しかないから確信は出来ないけど」
くるくると回転しながら朔は続ける。
「ただ一年ほど前に落とされて、そこで紫さんに拾われたんだとは思う」
「飛べるのも、霊力があるのも、それですか?」
「多分。そこらは良くわからないからはっきり言えないけど、何かされて霊力と能力を植え付けられたんだと」
「・・・・・・・・」
何かを堪えている。ふざけていいなら朔もボケるのだが、そういう雰囲気でもなかった。
「それよりこっちも質問していいか?」
「え?はいどうぞ」
「紫さんに何を言われた?」
長引くと後々面倒だと思い、ここで聞いておく。
妖夢はなんで分かったのかと言いたげだが、正直誰でもわかるだろうと朔は思う。
「あの後、紫さんに何を言われた? 俺を殺せとでも言われたか?」
「ち、違います! 私は殺したくありません!」
「・・・適当言ったら合ってるし妖夢も少しは隠せよ」
「あっ・・・」
「そっかー。殺されるのかー」
ふーと溜息を吐き、朔は言う。
「ま、しょうがないんじゃね?」
「っ!」
「紫さんが言うなら、多分死ななきゃいけないんだろうよ。あの人頭良いからきっとそれが最善なんだろう」
何でもないかのように、朔は死ぬことをしょうがないと言った。
「それで、良いんですか? 死ぬのが仕方のないと? 生きてやりたいことだってあるでしょう?」
「ないな。どうせもう平穏な日常には戻れない気がするし、それならもう望みはない」
「だ、誰かとこ、恋仲になるとか!」
「何故力強く言った? そしてそんな奇特な奴を今から探せと?」
「き、奇特・・」
「お前は何がしたいんださっきから? 何を言わせたいんだよ」
「そ、それはですね・・・」
朔は近づき、目を逸らす妖夢の顔を掴んで無理やり視線を合わせる。
「言わないならもう一つ質問。俺を殺す基準はなんだ? 霊力がある量を越えたらか? それとも時間か?」
沈黙。その間朔は妖夢の眼を見続けていた。一瞬も逸らすことなく。
ゆっくりと、妖夢は重たい口を動かした。
「日の出、です。日の出までに、目的が達せられなかったら、殺せと、言われました」
「日の出・・・てことは今日異変が起きるのか」
掴んでいた手を放す。
「目的はどうせ聞いてないだろうし、だとすれば異変が起きれば分かるのか」
ブツブツと独り言を呟く朔に、妖夢は力強く言う。
「大丈夫です!目的を達成できれば朔さんは死なずに済むのですから!」
「いや、俺は結構死ぬのに躊躇いはなくなったんだが・・・」
「死なせません! 絶対に朔さんを死なせません! これは誰に言われた物でもなく、私が決めたことです」
グッと妖夢は朔の手を力強く握る。何やら骨が悲鳴を上げているが堪える。
「頑張りましょう! いえ、頑張ります! ですから朔さんもちゃんと生きてください!」
「お、おうぅ」
メキメキと明らかにやばい音がしている。更に妖夢はブンブンと腕を振り回してくる。
当然掴まれた手と一緒に腕が普通じゃない速さで動く。
「おう、じゃなくて約束してください! 生に執着すると! 簡単に死を受け入れないと!」
「わかったわかった! 約束する! 約束します!」
そこでようやく妖夢は手を放してくれる。なんだか手が少し小さくなった気がするが、きっと気のせいだ。
ふーと溜息を吐くと、がっしりと腕を掴まれた。
「それでは帰りましょう! 今日何が起きてもちゃんと動けるように!」
「うでぇぇぇがぁぁぁ‼︎⁉︎⁉︎」
飛行初心者が、飛ぶのが当たり前の人に引っ張られた酷いことになった。肩が猛烈に痛んで悲鳴を上げたが、妖夢は気づくことなく全力の飛行を続けた。
ゴキンッ‼︎と何かが外れた。




