境界:夢幻の中で
「起きろ少年」
「え?」
少年が気づいた時には、少年は自分の家にいた。ただし少年には家に帰った記憶はない。
「えーと、広場に人混みが出来てて、それで・・」
何かがあった、しかしそこから先を思い出すことができない。
「おいこっち見ろ少年」
男の声が聞こえる方に少年は顔を向ける、そこには一人の男性がいた。
男はマントを身に着け、窓からの月光に照らされた顔は見たことのない吸血鬼を連想させた。
「こんばんは、少年」
「・・・・」
「そう警戒するな、今日は贈り物を持ってきただけだ」
「贈り物?」
そう言いつつ少年は下がりながらズボンのポケットに手を入れお札を取り出す、妖怪撃退用のお札だ。
「そう、今お前の腰にぶら下がってる刀だ」
「?・・・あら?」
言われた少年が腰を見るとそこには少年は知らない刀があった、寝間着のジャージに帯と一緒に付いている。
「俺こんなの知らねえぞ」
「それは俺の『牙』だ。銘は『大蛇丸』」
「いや、聞いてねえよ」
「それには『力』が宿っている、理を壊す程度だがな」
「程度じゃねえよそれ」
少年はお札を強く握る。お札は輝き出し、光は男へと向かって飛んでいく。しかし光は男の目の前でピタリと止まり、そのまま霧散してしまう。
「いきなりすぎるぞおい」
「胡散臭いのはだいたい妖怪だって相場が決まってるんだよ」
「・・・の野郎」
男は少し悪態をつく、がすぐにニヤリと笑う。
「まあいい、じゃあな少年」
「帰るならさっさと帰れ」
「・・・言い忘れてたけど、その刀があれば『不死者でも殺せる』ぞ」
「っ!」
ズキッ、と少年の頭が痛む。頭には何語かもわからない単語が大量に流れては消えていく。
「じゃあそろそろおはようの時間だ」
「ま、て、待てよおい!」
ははは、と誰かが笑う声が聞こえた。
世界は黒色に染まり、少年もまた黒になった。