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序章

「〜〜〜♪」

 陽気に鼻歌を歌いながらくわを振り下ろす少年がいた。

 黒色のジャージを着て頭の麦わら帽子からは白い髪が出ている。周りには人は誰もおらず畑と小屋があるだけだ。

「今日の作業は終わりっと」

「こんにちわ」

 少年以外誰もいないはずの畑に女性の声が響き渡る。

 その声が聞こえた瞬間何もない空間に一本の線が入る、その線が大きく開き中から紫のフリルのついたドレスの金髪の少女が現れる。

「紫さん、春になったから起きたんですね」

 突然現れたというのに少年には驚きはない、それに対して少女は少し物足りなさそうな顔をしている。しかしすぐに真面目な顔になる。

「今日は少し話があって来たのよ」

「世間話?」

「いーえ違うわ。・・・貴方、記憶を取り戻すつもりはない?」

「なんだそのことですか」

 少年は拍子抜けした顔をする。

「外の世界でどうしていたか、なんてもう気にしていませんよ」

「そんなもの?」

「そんなもんですよ、前より今が大切」

 少年は紫と言った少女から離れ小屋に鍬を立てかける。

「それでは里に行ってきます。野菜欲しかったら少しくらい持っていってもいいですよ」

 そう言って少年は歩き出す。紫は何も言わず、少年を静かに見送った。



 人間の里

 ここには幻想郷の人のほとんどが集まり、妖怪も普通に買い物をする、幻想郷で一番安全な所だと言えるだろう。

「・・・今日は随分珍しい方々が集まってるなおい・・」

 少年の視線の先、というより里にいる皆の視線は一つに集中していた。里の広場にメイド、剣士、九尾の妖怪、白黒の魔法使いが集まっているのだ。彼女たちは時々里に来ているがこの面子が集まるのは中々ないのだ。

「・・・藍さんまたか・・・」

 九尾の妖怪、八雲藍は大きな箱を抱えている、あの中身は藍の好物の油揚げが箱いっぱいに詰まっているのだ。

 ちなみに少年は他の人のことを『吸血鬼のメイド』、『冥界の庭師』、『道具屋の娘』ということしか知らない。

「・・・む?」

 と、そこで藍がこちらに気付き、こちらに会釈をしてきたので少年も会釈しながら彼女たちの横を通り過ぎる。

「変な格好だな、外来人か?」

「もうここに来てから一年経ってるわけだが」

「え?私今まで見たことないぜ?」

 通り過ぎる際にそんな会話が聞こえてくる。

(変って・・お前らがいうか)

 少し気になったが止まることなく少年は離れていく。



「ん?なんだ・・・?」

 少年が買い物を済まして家へと帰ろうとしようとしていると広場で人混みができていた。

「ごめんよごめんよー、っと」

 少年は人を掻き分けながら中心へと進む。

 そこには胸にぽっかり穴が空き、頭が潰れた死体があった。

「・・・は?」

 周りの人もかなり驚いているようだ。

 人間の里は、『妖怪は人間を襲い、人間は妖怪を退治する』というルールが適用されない例外的な場所であり、人間が襲われることはまずない。

 つまりこれは人間のしたことなのだが、人の身で人体に穴を空けるなんて出来るの人間なんて幻想郷には数えるほどしか・・・。

 と、少年がそこまで考えたところで隣から人混みを掻き分けながら進むうさ耳を着けた学生服の少女を発見する。

 少年はこの少女のことは『分かるわけない置き薬の説明を長々としているうさ耳少女』という認識しかない。

 少女は死体に近づき、潰れた頭や胸の穴を見たり触ったりしている。それを見ている人たちは気持ち悪そうにしている。

「なんだあのうさ耳」

「あれよ、置き薬の」

「あー、よく効く薬のか」

「でも少し気味が悪いのよね・・・」

 里の人たちがヒソヒソと話している、少女は一瞬手を止めたがすぐにまた動かす。

しばらくして少女は言う。

「すいません、運びたいので誰か手伝ってください!」

 その言葉を聞いた瞬間、ヒソヒソ話の声さえ消えた。

「あのー、誰か手伝ってくれませんか?」

 いないだろ、と少年は思う。あのうさ耳の少女は里では気味悪がられてるし、誰が死体を触りたがるだろうか。

「・・・・・」

 だが少年はずーと周りから視線を感じていた、里の人たちが無言でこちらを見ているのだ。視線は『行け』と言っている。

「・・・えと、俺手伝おうか?」

 少年は視線に耐えられず少女に近づく。

「えーと、じゃあ足の方持ってもらえますか?」

「ほいほい」

 少年と少女は一緒に死体を持ち上げ、そのまま里の外へ運び出す。



「まさか竹林まで運ぶとはな・・」

 迷いの竹林という広大な竹林には妖怪となった獣が多数棲息していて危険なため、少年は竹林に来たことはなかったのだ。

 男の死体はどこからともなく大量の兎が現れて運び出していった。時間はもう夜になり、満月が夜の幻想郷を照らしている。

「優曇華、ご苦労様」

「あ、師匠」

 と、竹林の奥から女性が出てきた。

 右が赤で左が青、スカートは上の服の左右逆の配色で、袖はフリルの付いた半袖で全体的には中華のような服装をしている。

 その女性が少年を見て一瞬驚いたような顔を見せる。

「優曇華、そこの人は?」

「ここまで持ってくるのを手伝ってくれた里の人です」

 幻想郷には綺麗な人しかいないなー、とか少年が思いつつふと空を見上げる。

    殺せ。

「・・っ!」

「あら、どうしたの?」

 少年が月を見た瞬間に、少年の頭に頭痛と共に声が響く。『殺せ』という言葉が頭痛と共に何度も少年の頭に響き渡り、少年はその場に倒れこんでしまう。

「ちょ、ちょっと大丈夫なの!?」

 少女は少年に近づこうとしたのを女性が肩を掴んで止める。

「・・が、ぐ」

「師匠、何で止めるんですか!?」

「・・・」

「師匠?」

 少年は地面に倒れながら女性を見ている、その眼は真っ赤に染まっていた。

「や、ごころ、××」

 少年は、自分でさえ何を言っているのかわからなかったが、女性と少女が反応したのには気付くことはできた

「ちょいと失礼」

男の声が聞こえたと同時に少年は落下感を感じ、そのまま意識を失った。

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