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なんとかギリギリに先生は原稿を書き上げ、俺はそれを受け取って帰った。
会社から家に向かう帰り道、俺は誰かが俺のマンションの部屋の前に立ってることに気づいた。
近づいて、げっ。なんでいんの。
「何してんの」
「真也」
俺の数倍顔を腫らしたあいつが立ってた。
「帰れよ」
「話しがしたくて」
「無理。俺にはないし」
「俺にはお前が必要なんだよ」
「なんなの。帰って」
なにこいつドエムなの。また俺に殴られたいわけ? そんな性癖があるなんて知らなかった。
ともかく帰って欲しい。
「真也」
「触んな、離せよ」
「お前がいないと俺困るんだよ」
「俺はお前いなくても困んねぇよ。離せ」
「真也」
「しつこい!」
グッと腕を捕まれ、ふりほどこうとするが離れない。
大体あれだろ。困るっていうのは、俺の奢りでもう飯が食えないことだろ、ちくしょう。
「もうお前とは終わりなの。わかる? ほら離せ」
「そんなの嫌だ」
「知るか。……もういい、俺今日は他泊まるから、バイバイさよならー」
「もう他の男ができたのか」
「昨日の今日でできるわけねぇだろカス」
このまま話しててもらちが明かない。俺はあいつの足を思い切り踏んで、捕まれている腕の拘束がゆるんだ瞬間そのまま振りほどいて駅に向かって走り出した。
あいつも慌て追いかけてこようとしたけど、俺元陸上部。捕まるわけないよね。
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今日は駅前のカプセルホテルに泊まることにした。ちくしょう、あいつのせいで無駄な出費だ。
しかも明日もあいつは家にいそうな雰囲気だし、もしかしたら引っ越しを考えたほうがいいかもしれない。いや、とりあえずまた明日考えよう。今日はもう寝よう俺は疲れてる。
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「おはようございます」
「おー、おはよう。お、棚森なんだお前、昨日はお楽しみかー?」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて先輩は俺を見る。
いや、本当、これ普通の時だったらなんとも思わないんだけど、今滅茶苦茶に疲れてるせいかすっごくムカついた。
大体出版社なんて徹夜よくあるだろうが。昨日と同じ服着てるからってゲスな妄想しやがって……
「違います」
「お、おぅ。なんだよ、そんな怖い顔すんなよ。あ、そうだまた清水先生から連絡あったぞ。来て欲しいって」
だからあの馬鹿作家! 直接俺に連絡しろと何回言ったことか。本当馬鹿。
「…じゃあ今からいってきます」
「おー、いってらっしゃい」
ちくしょう、手間取らせやがって。
みんな嫌なやつばっか。
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ピンポンピンポンピンポンピンポン。ムカつくから嫌がらせのようにインターホン連打。
「だ、誰!?」
「先生、棚森です」
「あっまぁくんかぁ! 今開けますね!」
ピンポン連打したにも関わらず先生は笑顔で俺を出迎えてくれた。
あぁ癒され………ない。
「なんかご用があるって聞いたんですけど」
「あ、うん。まぁ入って入って!」
早く帰りたいのに先生は用件を言わずに俺をリビングへと引っ張る。
お、八つ橋があるじゃねえか。気が利くな! ま、これ俺が先生に買ったんだけど。