田舎デート 二
牧草地まで連れてこられて本当に牧場の中に入ってしまいました。なんていうのかな、ここってどっちの牛なんだろう?
「おじさん。お久しぶり!」
帝が声を張り上げて奥にいる男性へと話しかける。
「帝ちゃん!? なに? 遊びに……もしかして、彼女か!」
どうやら私に話しかけてきたようだな。なんて言うかな。でも、正直に話して問題無いと思うんだよね。
「はい。帝さんと真剣にお付き合いさせていただいてます。道瑠ともうします」
「なかなかの別嬪さんだー。こりゃぁめでたいべ」
なんか変に語尾が伸びるっているか訛っているっていうか。これも無アクセント地帯の特徴なのかそれともこの地方特有のものななか。さてどれが正しいんだか。
「そんなことより、おじさん、馬貸してくれない?」
馬、貸してってそんなに簡単にできることなんですか? はぁ、でも馬を借りて何をするんですか。
「貸すのはいいけど何するんだ?」
「彼女をのせて歩くんだ」
彼女を乗せて? 歩くんだ? 何かこの人、不吉なこと言っていませんか……。
「二人乗りがいいぺっか?」
「それもいいけど、オレが乗るの馬が嫌がるだろ」
「ちげぇねーな、うちの馬は助平だからな」
二人してガハハと笑う。こっちは笑い事じゃないんだけれど……。乗馬とかしたこと無いしすることもないと思うんだけど。
「まぁ、歩きにくい土地だし昨日あたりは飴が降ったからのせてあるいたほうがいいかもしれねぇ」
うーん。なんていうか訛っているな。まぁおじいちゃんよりは訛っていないんだけどね。いちよう関東圏だけはあるな。東北の北の方は本当にわからないからな。
「てっ、ことで道瑠ちゃんは安心してね」
「安心できますか! 馬になんて乗りませんからね!」
なんで馬に乗らなきゃならないの。移動なら自分の足で歩くし、ぬかるみとかそういう場所には近寄りたくないです。
だいたい、私はコンクリートを歩くための衣装を着てきたのに。こんな知らない土地に連れて来られて乗馬することになるなんてふざけるんじゃない。
「ワガママ言わないでよ」
「ワガママなんですか? だったらもっと言わせてもらいます。なんで事前に汚れてもいい服とかそういうこと一切言わないんですか! 彼女をもっと信頼してくださいよ!」
なんでこんなこと言わなきゃならないんだよ……。別に信頼して欲しいわけでもないのに。分からない。なんでそんなこと言うの。この人に対して恋愛はしてはいけないのに。
こんな奴に恋したら一生後悔するってわかっているじゃない。お兄ちゃんがアイツに何度彼女を奪われたのか。知らないわけじゃない。でもこいつが本気で恋をする相手って誰なんだろうと気になったりするんだよな。ここ最近。
「だいじだよ、馬はやさしいからなぁ、おみゃーは別嬪さんだから馬も振り落としたりしねぇさ」
「そういう問題じゃありません!」
もう、これは二人の問題なんだから放っておいてくださいよ。
「おじさんごめんね。彼女、なんかピリピリしている感じなんだよね」
なんか勝手すぎませんか。私が本当にワガママでしかなくなっているのですがそれはどういうことですか。
「まぁ、馬は勝手に使っていいよ。帝ちゃんが世話していた馬もまだ健在だからな」
そう言っておじさんは手をふって見送ってくれた。
馬小屋の方に来て私は口を開くこともなく腕を組んでむっとしていた。別に本当にむっとしている訳ではない。なんか釈然としない気持ちとお兄ちゃんがそばにいないことに少し不安を感じているだけだ。多分、大丈夫だとは思うんだけど家のことはほとんどやってきたしお昼は作ってきたし、夕飯の下ごしらえもしておいた。
「道瑠ちゃん、他の人にあたっちゃダメだよ」
「あたっていません」
彼氏様は困ったようにため息を付いた。それとともに近づいてきた。え、何する気? 何する気なの?
「道瑠さ、少しはオレの言うこと聞いてくれない?」
両手を右手で掴まれた。何これ、ギャップ萌え? 壁ドンっていうのか! まさか、ね。そんなことありえるわけ無いじゃないか。
「聞きたいけど教えてくれないんじゃない! 私だって帝のために尽くしたいのに」
「嘘だね」
真剣に言われるときついな。私、彼氏が居てもこんなこと真剣に言ってくる奴なんて居なかったのにな。
「嘘じゃないよ。だって本当に、帝は言ってくれないじゃない。今回だって何も言わないし、本当に分かんない」
分かんないよ。もう何も。
こんな場所でロマンチックな雰囲気作っても何も変わらないし。
「本当はしたくなかったんだけど」
その瞬間、顔と顔が重なりあう。え、これって。あぁ。やっぱりそうなんだよね。それでしか無いんだよね。唇が重なるだけ。それなのになんでだよ。なんで、彼の顔は照れているんだ。わからないな。
ま、私か彼氏彼女の関係を申し込んだんだから彼にはそれなりのメリットが有ると思ってオッケーサインを出してくれたんだよね。
「それより、帝。これから呼び捨てで名前を呼び合おう。道瑠ちゃんって呼ばないで」
「うん」
なんでこっちを見ようとしないんだろう。はじめからそれだけの関係だったんじゃないのかな。アナタの中では。分かっていたけど。それだけじゃ無いってことなのかな。彼にとっては。
「それじゃ、行こうか」
帝さん、大丈夫ですか? どこに行くか知りませんけど、馬に蹴られそうですよ……。
次で田舎デートはラストです。