そして次には……
帝さんは居なくなった。
でも、それは私が望んだ、誰もが臨んだ居なくなり方ではなくて。そう、皆が大嫌いなそんな居なくなり方。
「道瑠。どこへ行くの?」
兄に止められる。とくに行く場所なんて決めてないんだけど。
「ちょっと散歩に行ってくるだけ。三十分もしたら戻ってくると思うけど、少し遅くなるかもしれない」
兄は戸惑ったように「そうか」と言ってくれたけどなんで呼び止めたのかな? いつもなら何も言わずに行ってらっしゃいだけなんだけどな。
「そうか。だったら先に手紙渡しとく」
手紙? 誰からだろう。たまに本当に、たまにだけ届く手紙。それと同じように届く。うーん。分からないな。
「死者からの手紙……って言うのかなこういうの」
死者からって、もしかして帝さんから私宛の手紙?
「中身は読んでないから読んできたら」
なんだか、お兄ちゃんに気を使われているみたいだな。でも、そういうところが大好きだよ。
「お兄ちゃんも若くないんだから、早く結婚してよね!」
最近、彼女の影すら見えないけど、本当に結婚してくれるのかな。心配だな。
「人の心配してないで自分も彼氏見つけろよな」
うわぁ、言い返された。そうですよね、お兄ちゃん。私も早く開いて見つけます!
「行ってきます!」
お兄ちゃん、すぐ帰ってくるから。手紙を読んだら帰ってきますから!
外に出てお兄ちゃんに渡された手紙を出した。封筒にシールのようなものが貼られていたがそれは無視して上の方を裂いて中身を取り出す。
そこにはこう、書かれていた。
【二ノ宮帝ハ唯、死ンダ訳デハナイ。
殺サレタノダ。コノ手紙ハ死ニ関ワッタ
人物全員ニ送ラレテイル。】
怪文書とでも言うのだろうか。なんとも言えない。
更にもう一枚カードが入っている。そこには、雀と弓矢の絵が書いてある。そして、また文字。こちらには見覚が会った。私がまだ小学校の頃読んでいた洋書、そこの唄の一小節。マザーグースの歌。誰が駒鳥殺したの? の一番初めの歌詞が書かれていた。
【Who killed Cock Robin?
I, said the Sparrow,
with my bow and arrow,
I killed Cock Robin.】
この歌は嫌いだった。どうして、こんなものが届いたのだろうか。そして、この手紙が本当なら私が彼を殺した事になる。本当に嫌になる。私はあの時、待ち合わせの場所にいて、彼は子どもを助けるために事故にあったというのに。あぁ、なんでこんなことを思わなきゃならないのだろうか。
「あれ、どうしたの? そんな溜息なんてついて」
振り返ると奴が居た! ではなくて、たしか、有次さんでしたよね。帝さんの同僚の方が居ました。でも、私溜息なんてついていましたっけ?
「あぁ、その手紙君にも届いていたんだ」
有次が素早く話題を変える。手に持っている手紙に気付いたんだろう。
「え、えぇ。でも、これって」
「信じなくていいよ。その手紙は全て嘘だから」
なんだか、冷たい感じがするな。なんで何だろう。いや、それよりもさっき、君に持って言っていたよね。どういうことなんだろう?
「さっき、君もって言いましたけど、貴方にも?」
顔色を変えずに彼は笑った。
「そう。おれはツグミだった。
ほんと、先輩のために賛美歌謳うとか嫌だよね。それに、どうせなら俺、ミヤマガラスがよかったな」
この手紙の先頭の文はとくに気にしている様子はない。どうなんだろう、本当のところは。でも、この人おもしろいな。何て言うか、私に普通に話しかけるところとか。クスッと笑う。
「な、俺、なんか変なコト言った?」
スゴイ驚いている。なんか、こういうところとか可愛いな。いや、年上に可愛いとかおかしいのは分かっているよ。分かっているけどね。
「べ、別に言ってないんですけどね……なんていうか、手紙の内容のショックとか全て吹き飛んじゃって。こんな手紙もらっても、そんなにおどけていられるんだって」
私は二ノ宮帝を殺していない。そう、言いたいような彼の行動っていうか何て言うか、本当に人に気を使える人なんだなって、しかも空回りする方向で。
「あ、いや。だって、誰がみたって二ノ宮帝は事故だろ、だったら、さ……ほら、何て言うかやっぱりね」
何がやっぱりなのか分からなかいんだけどね。何が言いたいのかまとまってから……違うな。何か迷っているってかんじだな。考えこむような人には見えなかったんだけどな。
「そんなものに振り回されていたら、きりが無いからね」
「慣れていると?」
うーん。まずかったかな。言わないほうがよかったとも。
「慣れたくはないけど、こればかりは仕方ないから、さ」
彼は笑顔でとりあえず、気にするなって言ってどこかに言っちゃった。あの様子だと駅のほうかな。
散歩もたまにはいいな。今日はまだまだいろんな人と会いそうな気がするけどそれも気のせいだね。手紙はもうどうでもいいや。
帝さん、私も貴方のこときらいでしたよ?
これにて終了になります。
別に帝さんの復讐とかありません……ありませんよ、もしかしたらあるかもしれませんが……。
読んでいただいて本当にありがとうございました。
つまらないものだったと思いますが、これにてこのお話は終了とさせていただきます。




