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帝さんの同僚さん!!

 いつもの通り帝さんの職場にお弁当を届けに行きました。……居ませんでしたけど。そうですよね。職場に確認するわけにも、帝さん本人に連絡するのもなんだか気がひけるからな。お弁当どうしましょうか。

「あれ、先輩の彼女だ。お弁当届けに来たの?」

 この人はたしか同僚のお方の……名前なんでしたっけ……。ネームプレートに川田有次と書いてある。

「そうですけど、川田さんはなぜコチラに?」

「あ、有次でいいよ。皆からもそう呼ばれているし」

 何で名前で呼ばれているんでしょうか、何て聞けないしな。うーん。

「俺の苗字って孤児院の名前だから。だから、名前で呼ばれているんだ」

「な、何でわかったんですか!」

 何も話してないのに、この人、エスパーか! エスパーですか!

「え、あれ? 質問していなかったけ」

 そっちも何だか驚いているようですけど、そういうわけには行きませんよ! 私、気になりますもの! 教えてください、ってやっぱり言えないよ! いや、それより本題は帝さんについてでした。

「そうじゃなかったね。帝先輩、外回りで居ないんだよ」

「そうなんですか」

 話を逸らした! いや、そうですよね。そこで躓いていたら永遠にその話続けちゃいそうですものね。それより帝さんは居ないのか……どうしよう、お弁当。

「俺、これから昼休みなんだけどさ待つんならいい場所教えるけど」

 いい場所? どこだろう。って、私は安い女では、安い女でしたけど、今はそんなに安売りはしていないのですよ! いや、違います。この人に限ってそれはないと思うのですよね。帝さんの後輩さんは私が彼女だって知っているのですから。

「あぁ、大丈夫。変なことはしないから」

 平然と言ってしまうところが恐ろしい。もう、分かっているなら言わなくっていいのに。調子が狂うな……。

「それじゃ、案内していただけます?」

 笑顔を作って首を少しかしげてみる。うーん。なんかアホっぽい女かこれじゃ?

「喜んで。少しお話でもして、先輩待ちましょ」

 向こうも笑顔を作って建物の中から外に出た。


 建物の外に出たって言っても会社の敷地内、日当たりの良いベンチに座っているだけなのですがね。とりあえず、有次さんって変わった方ですね。

「うーん。ここ、滅多に人いないし日向ぼっこの穴場なんだよね」

 これは、ちょくちょくこちらに来ているってことですね。職務とか放棄して。いや、そうとは限りませんけど多分そうですよね。

「あはは、お昼だけだよココに来るの」

「また! 有次さんって、本当はエスパーなんじゃないんですか」

 非現実的過ぎますね。なんだか、前回は現実主義だったのでスゴイギャップですよ、私。ちなみに私は普通です。どちらでもありません。超能力は使えたらいいな、何て思う程度ですよ。

「エスパーではないよ。不思議そうな表情をしていたから。何となく。

 それで、帝先輩をいつ殺すの?」

 はいぃ? どういうこと? 私が帝さんを殺す? いや、ありえるけど。ありえるけどさ、そんな直接聞いてくる?

「殺すってそんな大げさな」

「あぁ、でもそれに近いことをしようとはしていたんだ」

 何て言うか、しぶとい。と言うより私も完璧に否定していない。これは、彼女として失格ですね。

「していませんよ!」

「あれ、気のせいだったかな。

 それじゃ、俺からのアドバイス! イエェェイ!」

 一人で盛り上がった! 何、何のアドバイスなの?

「其壱! 帝先輩には首輪をつけておきましょう、それだけ!」

 首輪って、あの人は犬ですか!

「帝さんは犬ですか?」

「犬っていうか、うーん横暴な野良猫って感じかな。あれ、放っておいたら世の中不幸にしかならないから、彼女さんに飼ってもらおうかと」

 ヘラヘラしているな。まぁ、そうだよね。いや、違う。何で、私が帝さんを飼わなくちゃならないんですか! それに帝さんが世の中の全てを不幸にしているような言い方はやめていただきたいのです。それだけが、不幸にしているわけじゃないのですから。別に、帝さんを庇っているわけではないですよ。もし、それが本当だとしたら本当の私達兄妹の不幸もまた帝さんが原因になってしまいますから。

「大丈夫ですよ。帝さんはそこまで不幸を持っている人ではないので。どちらかと言うと不幸を集めやすい人なんですよ」

「はい?」

 素っ頓狂な声を上げて驚いている。たしかに、私も少し前まではそうだと思っていたけど、あのひと普通に天然入っていますものね。ただの、気まぐれなんでしょう。それに、心理学的にありましたよね、たしか障害のある恋のほうがもえると。不倫はたしかそうだったような。

「あの人に近づくから不幸になるんですよ。近づいてこられたらもう不幸しかありませんけどね」

 うーん。これじゃ、庇っているようだね。でも、私にとって彼も彼氏ではなくてお兄ちゃんだから。これも当たり前。本当のお兄ちゃんじゃないけどね。

「変わっているね。でも、気をつけて。俺、もとから不幸体質だったけど、帝先輩に会ってからそれが悪化したからさ」

 この人もそうなんだ。きっと、帝先輩のせいじゃないって分かっていてもそう言いたいんだよねきっと。だから、帝さんのもとには不幸体質の人が集まりやすい。

「大丈夫ですよ。私達も不幸体質ですもの。だから、帝さんのもとには不幸体質の人が集まりやすい」

 そうなんだ。この人と会って分かった。でも、帝さんはやっぱり彼氏じゃないということも分かった。だから、私はこの関係を断ち切らなきゃならない。

「あぁ、なるほど。ってことは、不幸が増えたんじゃなくて集まったんだ」

 うーん。そうだね。そうだよね。うん。それじゃ、帝さんにお弁当渡そう。

「帝さん!」

 彼の後ろに帝さんが居る。走ってきたようで肩が少し揺れている。

 私はお弁当を渡して去っていく。その後のことなんて、知らないもの。それじゃ、有次さんは頑張ってね。

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