旧第四話 これはエロではない、エロく見える人は心がエロイのである 1
【連絡件注意点 本話は旧第四話であり、削除予定だったものであり、本編とは繋がっていません。また、投稿予定の第五話以後のネタバレが入っている可能性があります。そのため、本来は読む必要はありません。それでもよ読みたい方は、ネタバレや、本編とは若干雰囲気が違う点があることを了承の上お読みください】
【断章】旧第四話 これはエロではない、エロく見える人は心がエロイのである 1
side マイマイ
「朝風呂最高!!」
眠りから覚めたマイマイは、王宮の空中庭園にある浴場を訪れていた。
目的は、もちろんお風呂に入るためだったが、お風呂に入る理由は体を綺麗にするためだけではなかった。
体を綺麗にする以外の目的とは何か。
それは、頭を空っぽにするためだった。
「リアルな表現になったせいで、妙に体がべた付くのは辛いけど、お風呂もリアルになったのは最高だね」
ご機嫌な様子でお風呂に浸かるマイマイ。
しかし、その表情はどこか無理をしているようだった。
実はマイマイは、少しだけ無理をしていた。
昨日のうちに、マイマイは今後の方針について決めていた。
そのため、今は悩んでいる場合ではなく、動くべき時だとマイマイは理解していた。
ところが、人間そう簡単に割り切れないものである。
朝になって、これまでとは違う点を見つける度に、落ち着かなくなったり、不安になってしまったりしたのである。
例えば、朝起きるとベッドの脇にカグヤと、カグヤ率いるメイド達がいたのだが…
不思議なことに、メイドの一人、ステイシスが見当たらないのである。
カグヤにステイシスの行方を聞くと、自室で反省文を書いているのだと言う。
家臣達等NPCは、プレイヤーの指示が無い場合、勝手に行動するようになっている。
しかし、マイマイの知る限り、自室で反省文を書く等といった行動を聞いたことが無かった。
しかも、ステイシスだけでは無く、千人以上の家臣達が自室謹慎等の行動を取っているのだという。
明らかに異常な行動だった。
そして異常な行動といえば、マイマイ自身の行動も異常だった。
それは、マイマイが突然眠ってしまったことだ。
ここ数年の間、一度も魔力切れを起こしていなかったため、魔力切れになると眠ってしまうという仕様を、マイマイは完全に忘れていた。
だが、マイマイの記憶が正しければ、魔力切れになったとしても本当に寝るわけではなく、操作不能に陥るだけのはずだったのである。
世の中には不眠治療の一環として、VRを使って強制的に睡眠を取らせるという技術はある。
しかし、それが勝手にゲームに組み込まれているとしたら、それはそれで大変なことである。
つまり、何者かの意図がマイマイの体に作用し、マイマイを強制的に眠らせたのである。
不安になるなと言う方が無茶な話だった。
このような不気味な状況に、マイマイの不安は朝から募る一方だった。
その不安は強く(実はここはゲーム内ではなく、リアルなのでは?)と不安のあまり非常識な考えが一瞬頭に過るほど程だった。
結局、ステータスを開き、そこに見慣れたカンストした数字が並んでいることを確認したマイマイは(ステータスが現実にあるわけがない)と持ち直したが…
何もしないと、また不安な考えに頭が埋め尽くされそうな気がしたため、大好きなお風呂に入って頭を空っぽにしようとしたのだった。
その作戦は概ね上手く行っているらしく、多少空元気であるはあるが、マイマイは元気を取り戻しつつあった。
どうしても頭から離れないことが一つだけあった。
「これじゃ歩く児童ポルノだよ…」
それは自分の体の問題だった。
エバー物語に登場するキャラクーの体の造詣は、元々かなりリアルだったが、やばい所はモザイクが入ったりしていた。
ところが、今のマイマイの体にはモザイクが無くなっていたのである。
最初は赤面しながらも、その事に少し喜んでしまったマイマイだったが、驚くほどリアルな自分の体の造詣に、それどころではなくなってしまった。
つまり、嬉しさや、恥ずかしさを通り過ぎて、不安になってきてしまったのである。
「どうしてこんな所までリアルなんだよ、こんな体を誰かに見られたら、通報されたり、変態扱いされちゃうじゃないか。
う~…
駄目だ、不安で落ち着かなくなってきた。
よし、気分を変えるために露天風呂に移動しよう」
自分の体が他人に見られることによって起きる事態を想像したマイマイは、不安で落ち着かなくなってきた。
そのため、露天風呂に移動して気分転換をすることにした。
露天風呂は、空中庭園の端に作られていた。
そのため、マイマイが先程までいた内湯と違い、王宮の外の景色が見えるのが特徴である。
露天風呂から広がる景色は、以前だったら王都とその先に広がる衛星都市群だったが、現在ならば雄大な森が見えるはずである。
つまり、美しい風景を見るのが嫌いではないマイマイは、雄大な森を見て心を落ち着かせようとしたのだったのだが…
「ん?なんか焦げ臭いな。
ま、いいか。
さて、雄大な森を見て…あれ?
焼け野原ーーーーーーーーーーー!?」
「マイマイ姫様!?どうなされました!?
賊ですか?覗きですか?ステイシスですか?」
露天風呂から広がる光景は、あたり一面の焼け野原に変貌していた。
驚きのあまり、悲鳴のような声をあげたマイマイの周りに、カグヤを始めとしたメイド達が武装した状態で現れる。
どうやら露天風呂に置かれた石や柵等の影に潜んでいたらしい。
(どうしてそんな所に?)と、カグヤ達に色々と言いたいマイマイだったが、カグヤ達の覗きより、目の前に広がる光景の方が一大事だった。
「カグヤ、なんか森が焼け野原になっているんだけど、何があったの!?」
「はい、マイマイ姫様がお休みの間に、ご指示の通り木と森の処理を行っておきました。
『真面目に作業をした家臣達』の総力を挙げた仕事です、いかがでしょうか」
何故か、少し遠くを見るような表情でマイマイに説明するカグヤ。
それを聞いてマイマイは、眠る前のカグヤとの会話を思い出す。
「えーと、確かに木と森を処理しろと命令したが、それは正門から見える範囲を指しているわけで~
あ、しまった!!
見える範囲って、そういうことかよ!!」
そしてマイマイは、自分の指示の不味さに気がついた。
マイマイは正門から見える範囲の木と森を処理しろと指示を出した。
そして正門からは、王都跡の周囲に生い茂っていた森も見えていたのである。
人間がマイマイの指示を聞いたら、マイマイの指示は王宮の木や森を処理しろと言っていると判断するはずである。
しかし、いくらリアルに動くようになったとしても、カグヤ達家臣は、所詮はAIなのである。
今回のような、微妙なニュアンスの解釈を間違えることは十分に考えられた。
実際、エバー物語では今回のような曖昧な指示によるトラブルが頻発しており、マイマイも常に気をつけていたことだったのである。
ところが、当時強い眠気に襲われていたことと、あまりにも家臣達の行動がリアルになっていたことが重なり、うっかり人間に対する指示と同じように、曖昧な指示を出してしまったのだった。
「うーーーーーーーーーーまたやっちゃった…」
間抜けな失敗に、頭を抱えてしゃがみ込むマイマイ。
実はマイマイにとって、こういった失敗は、今回が初めてではなかった。
それは、マイマイが破壊神と呼ばれるようになって日が浅い時の事だった。
ある日マイマイは、料理大会の審査員兼優勝商品提供者としてアジオウシティという街を訪れていた。
審査員の依頼は、GMを通して行われた正式なもので、マイマイも「料理大会の審査員だなんて、美味しい料理食べ放題だな♪」と楽しみにしていた。
ところが、料理大会というのは嘘で、マイマイを誘き出すための手の込んだ罠だったのである。
罠を張った者達の目的は、マイマイの所持するアイテム等だった。
エバー物語内のアイテム等に関しては、リアルの金銭を使った取引が行われていた。
そして、マイマイ等高位プレイヤーが所持していることが多いレアアイテムに対しては、莫大な金銭が動いていたのである。
つまり、料理大会を主催した者達はマイマイを倒してアイテムを奪い取り、それを売り払って金に換えようとしていたのだった。
因みに、GMを通すという準公式大会の体裁を取りながら、その内容は罠という『虚偽の準公式大会』というのは、完全なルール違反であり、法的にもかなりまずい行動である。
といっても、彼らはルール違反としてエバー物語内で罰せられたものの、法的に訴えられるところまでは行かなかった。
何故なら、彼らの罠は失敗したからである。
高位プレイヤーはありとあらゆる方法で身を守っている。
そしてそれは、マイマイも同じだった。
危険を察知する幾つものアイテムに、防御系のスキル。
防御魔法を付与した装備品に、常時展開されている防御魔法。
とにかく、数十の防御手段を所持していた。
そのため彼等は、高位プレイヤーの防御をすり抜ける秘策を用意していた。
彼らが用意した秘策は『不味い料理』だった。
「こちらが、作品番号010番『感涙のサシミ』です」
「(『ステータス変動効果なし』か、問題なさそうだな)美味しそう!いただきまーす!」
「こんな不味いもん食えるかーーーーーーーゲホッ…
ウゲエええええ…」
エバー物語の料理は、嗜好品としての役割の他に、各種ステータスの変動等といった効果を付与することが出来た。
つまり、毒殺するための料理をつくることもできるため、マイマイは毒殺を恐れて、料理の効果を確認できる魔法を使ってから料理を楽しんでいた。
ところが、味はステータスと関係がないため、魔法によるチェックをすり抜けてしまったのである。
五感が表現されるVRならではのトラップに七転八倒するマイマイ。
そんなマイマイを料理大会主催者や参加者が取り囲む。
彼等は口々に「マイマイ審査員大丈夫ですか?」とマイマイを気遣うような言葉を発しているが、よく見ると全員が武器を取り出していた。
まさに『マイマイ絶体絶命の危機!』とタイトルが入りそうな状況だったが、結果としてはギリギリのところで切り抜けることができた。
マイマイは、七転八倒しながら手当たり次第に召喚を行い「全部倒せ!!」と指示を出したからである。
具体的な攻撃対象を指示されなかった家臣達は、手当たり次第に攻撃を行うことになる。
家臣達は、敵だろうが町だろうが何だろうが全てを攻撃し始めた。
マイマイの完全な指示ミスだったが、それが逆に良かった。
滅茶苦茶に暴れる家臣達に会場は混乱し、マイマイが逃げ延びる時間が生まれたからである。
高位プレイヤーの防御策を突破するため、不味い料理を用意するという彼らの着眼点は良かった。
しかし、マイマイの最大の防御策である『召喚』を封印しないという、決定的なミスを犯してしまい、彼らの罠は失敗してしまったのだった。
ところが、マイマイはこの罠によってかなりのダメージを受けることになった。
そのダメージはステータスやアイテム的なものではなく、精神的なものだった。
マイマイの行動はGMによって正当防衛と判断され、街を破壊したこと等について、何ら罪に問われることは無かった。
そして、マイマイの攻撃に巻き込まれただけのプレイヤーに対しても、GM側から被害に対するリカバリーが行われ、事なきを得た。
しかし、ネット上でマイマイの悪評が広がってしまったのである。
『あの破壊神が、今度は街を破壊したらしい』
『全てを破壊しろと家臣に命じて、街を焼け野原にしたらしいな』
『それはちょっと違うぞ。
俺が見たときだと、ブチギレした状態で「素晴らしい。ホラ、見て御覧よナナシ、こんがり焼けてるよ」とペットに笑いかけながら、街に隕石系魔法を連発していたぞ。
流石破壊神だと思ったね』
『余計に酷い』
『おいおい、いくら破壊神マイマイと言えども酷すぎだろ』
『お前ら待て、GMによると破壊神は被害者らしく、正当防衛だそうだぞ』
『いや、破壊神のことだから、うまくGMを丸め込んだに違いない』
『噂だけど、GMを札束で引っ叩いて説得したとか、取締役を通してGMの管理能力不足を訴えたとか…』
『破壊神こえええええ!!』
確かに敵の輪から脱出した後に、応援に駆けつけた何人かの百使徒達と一緒に、街に隕石系魔法を連発したのは事実であり、その光景にテンションが上がってどこぞの悪役のような台詞を言っていたのも事実である。
そして、中堅どころの株主であり、取締役と友人関係でもある人物が、百使徒内にいるのもまた事実である。
しかし、破壊神というネームバリューと、それを体現したようなマイマイの指示ミスにより、必要以上に酷い方向に悪評が広がってしまったのだった。
そのため、家臣のコントロールミスというのは、マイマイにとって、とても嫌な思い出として残ってしまっていたのだった。
(もう最悪だよー)
ずーん、と重くなるマイマイ。
(でもちょっと待てよ)
だが、これは逆にチャンスかもしれないとマイマイは思った。
これだけの大惨事を起こせば、このエバー物語を運営している何者かが介入してくるかもしれないと考えたからである。
「ねえカグヤ、森が燃えちゃった件で、私達に何か言ってきた人いた?」
「何か言ってきたわけではありませんが、家臣以外の者との接触について、スケサンから報告が上がってきています」
「本当!!
で、それはどういう話なの?」
「ここからは、拙者が報告するでござる」
露天風呂に手ぬぐいで大事なところを隠したスケサンが現れる。
「ちょっと待って。
あの、スケサン?
私の体見て、何か思わない?」
そんなスケサンの言葉を遮り、マイマイがスケサンに話しかける。
マイマイは、どことなく怒っているようだった。
「大平原のようなお体ですな」
「カグヤ、カクサン…着替えるまでの間、スケサンの目を潰しておいて」
「かしこまりました」
「キッシャー」
「姫!?拙者また何かしたでござるか!?」
(これだけAIが凄くなったのに、デリカシーの欠片も無いとは。
中身が男の私だから問題ないけど、こんな状態だといつか問題を起こしそうだな)
混浴とはいえ、裸のマイマイを真正面から見るスケサンのデリカシーの無さに、将来何か問題を起こすのではないかとマイマイは頭が痛くなった。
そして実は、マイマイの予感は既に当たっていたのだった。
----------
「これを、ごらん下され」
空中庭園に併設された休憩所内で、手にぶら下げた袋の中身をマイマイに見せるスケサン。
そこには、鈍い色を放つコインのような物と、ガラクタのようなものが入っていた。
「何これ、ゴミ?
どこかで拾ってきたの?」
それらは、マイマイが知るエバー物語内の貨幣やアイテムと比べると、玩具のように安っぽいコインに、壊れた玩具のようなガラクタだった。
そのため、スケサンがゴミを拾ってきたのかとマイマイは思う。
「話すと長くなるでござるが…」
ところが、スケサンの様子を見ると、それは違うようだった。
「拙者も森を処理するのを手伝っていたのでござるが、ふと思ったでござるよ。
そういえば、この先にワーウルフの村があったはずでござると。
そこで村に向かったのでござるが、既に村はもぬけの殻になっていたのででござる。
拙者は、村人達が避難したのだと思い、村人達を探し始めたのでござる。
闇雲に逃げても、炎に巻き込まれるだけでござるからな。
そして、色々あって何とか村人達を見つけた拙者は、彼らを保護して王宮まで連れて来たのでござる。
村は、既に燃えて無くなってしまっていたでござるからな」
「村が燃えてなくなった!?
いや、それはとにかく、よくやったスケサン」
村が燃えて無くなったというスケサンの言葉に、マイマイは一瞬顔を青くしたが、村人を保護したとスケサンが言ったことを思い出し、気を持ち直した。
しかし、スケサンの行動とスケサンの手にある袋にどういった繋がりがあるか、マイマイには分からなかった。
「で、それとこれはどういう繋がりが?」
「保護した村人達は、とりあえず正門近くにある、拙者の家に入ってもらったでござる。
そしたら、村人達これを差し上げるので、どうか命だけは助けてくれと…」
「スケサン。
因みに聞くけど、どうやって村人達を連れてきたのかな?」
笑顔で聞くマイマイ。
だが、マイマイの目はまったく笑っていなかった。
「困ったもので、拙者が保護しようとしているのに、逃げてしまうのでござる。
なので、部下のリッチ達に命じて生命体拘束魔法で拘束したのでござる」
「なるほど。
そしてその後、スケサン達の家に村人達を入れたと。
どうしてスケサンの家にしたのかな?」
「家臣総出で姫の勅命を実行していたでござるから、できる限り他の家臣達に迷惑をかけない場所となると拙者の家しか…
それに、拙者が言うのもなんですが、拙者の家は豪邸なので客人を置いておくには十分かと…」
「うん、分かった。
で、スケサンの家って、確か名前が『嘆きの牢獄』というところで、元々牢獄だったところをリフォームした家だったよね?」
スケサンの住居、嘆きの牢獄は、その名の通り牢獄を改造したものだった。
そのため、スケサンにとっては居心地の良い家だったが、普通の人にはどう見てもただの牢獄だったのである。
「そうでござる。
姫に造ってもらった当時は、スケルトン界ではちょっとした話題になったほどの豪邸でござるよ」
(なるほどー。
つまりスケサンは、逃げる村人達を魔法で拘束して、どう見ても牢獄に見える家に入れ、『命だけはお助けを!』という感じでコインとかを渡されたということか…
どう考えても、誤解されて変なイベントが発生しているよね!)
「ああ、もう、仕方ないなスケサンは!」
「拙者、またまた何かやってしまったでござるか!?
申し訳ありませぬ姫!!」
「いいよ、少し怒ったけど、もう怒ってないから。
とにかくご苦労だった」
スケサンの困った行動にまた頭が痛くなるマイマイだったが、AIであるスケサンに怒っても仕方がないと矛を収めた。
「スケサン、持ってきてもらって悪いけど、その貢物はメイドに返させるよ」
「拙者が責任を持って返すでござる」
「デリカシーの無いスケサンだとまた誤解されるから駄目」
そしてマイマイは、目に付いた褐色の肌と乳白色の髪が特徴のダークエルフのメイドを呼び寄せ、貢物を返すように命令を出す。
「『こんなものは必要ない』と伝えて、こいつを返してきてくれ。
悪いけどスケサンに頼むと誤解されそうだからね、頼むよ」
(貢物なんか受け取ってしまったら、それが目的で捕まえましたと言っているようなものだからな
貢物を返したら、少なくともそういった悪い目的で捕まえた訳ではないことは、分かるはずだからな。
それにしても、貢物を渡されるとは…
悪人プレイなら稀に発生するミニイベントだと聞いていたが、見るのは初めてだな)
貢物を返す目的は、貢物を受け取ってしまうことにより、貢物目的で捕まえたと誤解されてしまうことを防ぐためだった。
といっても、それは村人達に対して誤解を解く目的ではなかった。
(村人達に誤解されたといっても、所詮はAIだからな。
問題は、他のプレイヤーと接触した時に、村人達をちゃんと扱っていないと、私の印象が悪くなってしまう点だ)
マイマイが気にしていたのは、これから接触するかもしれないプレイヤーからの印象だった。
例えばマイマイが、相手がNPCだからと言って、正当な理由も無く目を背けるようなことを平気でするプレイヤーだった場合、他のプレイヤーから見たマイマイの印象はどうなるか?ということだった。
つまり、他のプレイヤーから印象が悪くなるような行動ばかりをしていた場合、他のプレイヤーと無事接触したとしても、一方的に嫌悪されて協力を拒否されたり、最悪の場合攻撃される可能性を危惧していたのだった。
そのように考えると現在のマイマイは、NPCの村を勝手に燃やし、村人達を拉致して、貢物を出させた山賊のようなプレイヤー、と誤解されかねない状況だったのである。
(もしかしたら『関係性カテゴリー』が『敵対』になっているかもしれない。
村人達の生活を取り戻してあげて関係性カテゴリーを敵対から別に変更しないと、他のプレイヤーに閲覧されたら悪人扱いされちゃう)
そして、そのような誤解をされないために、まずマイマイが手をつけようとしたのは『関係性カテゴリー』という項目だった。
これは、プレイヤーとNPCの関連性を示すもので『知人』『友人』『親子』『恋人』『敵対』等など、多様な種類が用意されていた。
そして、どの関係性カテゴリーが設定されるかは、NPCに設定されている『友好値』『機嫌値』『愛情値』等といった隠しパラメーターに依存していた。
例を挙げると、友好値が悪化した場合、関係性カテゴリーが敵対に変化し、イベントが発生しなくなったり、NPCから攻撃されたりしまうような仕組みになっていたのである。
つまり、現状は村人達のマイマイに対する友好値が大幅に下がり、関係性カテゴリーは敵対になっている可能性があったのだった。
(頑張って友好値を上げるか。
お金を渡すか、アイテムを渡すか、代用品を渡すか、頭を下げるか…どうすべきか…
自分のミスだけど、AIに謝るっていうのは、どうも馴染めないんだよな。
本来ならば、村人達を作成したエバー物語の製作者に謝るべきだよな。
だから、AIに謝るっていうのは、何と言うか違和感があるというか、違う気がするというか…
まあ、人間に対して謝るのじゃなくて、AIが判断するんだから、違和感を感じたまま謝っても問題ないんだけど)
関係性カテゴリーを敵対から変更させるため、まずは友好値から回復させることをマイマイは検討し始めた。
これは、エバー物語ではNPCに対して謝罪を行うことにより、友好値を回復させることができるからである。
だが、マイマイは明らかに乗り気ではなかった。
プレイヤーの行動が謝罪にあたるのかどうかはAIが判定しているため、生身の人間と比べたら非常に大雑把な判定が行われている。
そのため、金銭を渡す、アイテムを渡す、代用品を用意する、謝る(頭を下げる)等といった項目さえ押さえておけば、例えニヤニヤした顔で頭を下げても友好値が上昇する仕組みになっていた。
しかし、人間ではないAIに対して謝るというのは、実質的には謝るという名称の単なる作業であり、マイマイはどうにも違和感を感じてしまうのだった。
「といっても、他にいい方法が思いつかないから仕方ないか。
よし、行くか」
「あの!姫!!」
休憩所から出て行こうとするマイマイを、スケサンが呼び止める。
どうやら、まだ伝えることがあるようだった。
「まだ何かあるのスケサン?」
「実は、他にも二人の女の子が貢物として送られて来ているのでござるが…」
「なんだって!?」
----------
「ライです…」
「シイですにゃ…」
「「不束者ですが、よろしくお願いします」」
(なにこれ…)
いかにも頑張って着飾っています。
という感じの少女が二人、応接室で三つ指をついて頭を下げる。
(助けたあの二人か。
悪人プレイをしていると、貢物としてNPCが送られてくるランダムイベントがあるらしいが、それが発生していると考えるべきだよな。
これは不味いな。
とにかく、直ぐに返すべきだな)
ライとシイを見たマイマイは、二人を直ぐに両親の元に返すことを決めた。
それは、このままではプレイヤーからマイマイを見た場合、非常に不味いことになるからだった。
貢物として提供されたNPCは関係性カテゴリーに奴隷として設定されるからである。
そのため、このままでは他プレイヤーから見た場合、ライとシイはマイマイの奴隷になってしまうのである。
つまり、他のプレイヤーから見たマイマイは、NPCの村を勝手に燃やし、村人達を拉致し、貢物を出させ、可愛いイヌミミ&ネコミミ少女のNPCを奴隷として囲った、HENTAIプレイヤーになってしまうのである。
先程までの山賊のようなプレイヤーより、明らかに状況が悪化していた。
「二人とも両親の元に帰るように」
「それは困ります!ここに置いてください」
「帰っちゃ駄目なんです!」
「もう一度言うよ。
帰っていいよ」
「帰りません。
何でもしますから置いてください」
「私もします」
「本気?」
「本気です」
「はい」
帰っていいと言うマイマイに、帰る気が無いと言う二人。
頑固な態度にマイマイは困るが、いいアイデアが閃いた。
「分かった、じゃあ二人とも私の部屋で遊ぼうか?」
「え、遊ぶ?」
「そうそう…
こーーーんなに大きいフカフカのベッドがあるんだよ!
ベッドの上で遊ぶんだ、楽しいよ!」
マイマイが閃いたのは、村人達と同じく、奴隷から別のカテゴリーに変更すればいいというものだった。
例えば、関係性カテゴリーが『知人』であったとしても、一緒に旅をしたり、遊んだりすることによって友好値や機嫌値が上昇し関係性カテゴリーが『友人』に変化したりするようになっている。
つまりマイマイは、ライとシイと遊ぶことにより友好値を上昇させ、関係性カテゴリーを奴隷から友人に変更させようと思いついたのだった。
(私も見た目少女だし。
少女が三人揃ってベッドの上で玩具を…えっと確か、ぬいぐるみはあったよな。
とにかく、少女達がベッドの上でぬいぐるみで遊んで親睦を深める。
うん、パジャマパーティみたい。
こういうシチュエーション的な面でのプラス補正は無いと思うけど、何となく上手く行きそうだ)
いかにも、少女達が親睦を深めそうなシチュエーションに、上手く行きそうだとほくそ笑むマイマイ。
「こーーーーんなに大きいベッド!!凄い!!」
そして実際に、大きいベッドという言葉にシイが興味を示した。
(よし、食いついた!)
シイの発言に、成功を確信するマイマイ。
数ある遊びの中で、マイマイがベッドの上で遊ぶという方法を選んだのには理由があった。
マイマイのベッドには機嫌値という機嫌を司る値を上昇させる効果が備わっていたのである。
そして、機嫌値が上昇している際には、友好値も上昇しやすい特性があるのをマイマイは知っていたのである。
もちろん、機嫌値を上昇させる機能は、人間であるプレイヤーにはまったく効果が無い機能であり、あくまで雰囲気を出すためにつけられた機能だったが、NPCに対しての効果は折り紙つきだったのである。
「よし、じゃあ早速行こうか」
「ベッド…遊び…ベッドの上で遊ぶ……まさか…」
「どうしたのライちゃん?」
「えっいや、何でもないです」
(何だ?妙に暗そうな顔をしているな?
…何か意味があるのかなこれは…
まいったな。
こういった『女の子』との付き合いって、ほとんど経験が無いから何が不味いのか分からないよ。
エバー物語内で女の子知り合いはいるにはいるけど、みんな見た目が『女の子』だけど、中身が違うようなのばっかりだし。
って相手はAIじゃ無いか)
「ど、どうされたんですか?
私を気にしないで、部屋に向かってください」
(…そんなにどんどん暗くなっていく顔で、気にしないでとか言わないでよ。
相手がAIだって分かっているのに、なんだか本当に女の子を相手にしている気分になってきたぞ。
やばい、ちょっと落ち着かなくなって来たかも)
ライの、生の女の子のような表情の変化に、本物の女の子との付き合いがほとんど無かったマイマイは動揺する。
「お姉ちゃんも、マイマイ姫…様もどうしたのー?」
「あ、ごめんねシイちゃん」
そのため、シイを理由にして、マイマイは逃げるように二人を自分の部屋へと連れて行ったのだった。
----------
「フカフカだーモフモフだー!!」
ぬいぐるみを抱えながら、シイはトランポリンのようにベッドの上で飛び跳ねて遊んでいた。
(喜んでる喜んでる、シイはこれでうまくいったな)
見るからに遊んでいますという様子のシイに、マイマイはホッと胸を撫で下ろした。
(でも問題はライか)
しかし、姉のライの方については上手く行っていなかった。
ライは、シイのように飛び跳ねず、ベッドの脇に立ったままであり、ベッドの上に転がっているぬいぐるみにも興味を示さなかったのである。
(いったい何が駄目なんだ…
遊び始めないし、顔も暗いままだし…
くそっ、遊び始めてくれたら、機嫌値も良くなるから暗い顔も無くなって、一気に全部解決するのに…
何が悪いんだ…
そうだ!精神年齢に合う遊びが用意されてないからかもしれない)
シイの様子を見てマイマイは、精神年齢に合う遊び道具が無いから、遊び始めないのではと推測する。
エバー物語のNPCには精神年齢が設定されており、精神年齢に合致しない遊びには基本的に興味を示さないのである。
(といってもなあ、ぬいぐるみ意外の遊び道具となると…
マージャンに花札かぁ……
これは確か『自衛軍中佐』が忘れていったものだよな。
こんな爺さん婆さんが楽しむ大人の遊び、ライは興味を示すのか?)
しかし、マイマイの部屋にはぬいぐるみ以外ではこれといった玩具がなく、あるとすれば百使徒の一人である自衛軍中佐が忘れていった大人向けの遊び道具しか無かった。
「ラ、ライちゃん、大人の遊びには興味ある?」
自衛軍中佐が残していったものは、どう考えてもライには早すぎる遊びだった。
だが、ライの暗い顔を見ているだけで、本物の女の子を暗い顔にさせているような気持ちになってしまい、いろいろとキツイ状態になっていたマイマイは藁を掴む思いで提案する。
因みに、ライの暗い顔で動揺したせいか、言葉がおかしくなっているような気がするが、色々といっぱいいっぱいになっているマイマイに、気にしてる余裕が無かった。
「えっあっ…あの」
しかし、ライはしどろもどろになり、まともに返事をすることができない。
(興味が無いというより、どう答えればいいか分からないって感じだな。
もしかして、精神年齢的にはOKだけど、この辺りの遊びに対するプログラムがセットされていないのかな?
そうであってくれ!)
「分からないなら、手取り足取り教えてあげるけど!」
ライの行動を、プログラムが無いからだと考えたマイマイは、ライに対してマージャン以下の『大人の遊び』を教えることを必死に提案する。
その様子は、物凄く強引に見えるものだったが、ライの暗い雰囲気をどうにかしようと必死になっているマイマイが気がつくことはなかった。
そんなマイマイの必死の問いの返事は、沈黙だった。
何故か黙り込んでしまうライ。
そしてそれは、約二十秒も続いた。
「どうしたの?」
あまりにも続く沈黙に、業を煮やしたマイマイがライに答えを催促する。
「やっぱり…
いやだあああああ~」
「お姉ちゃん、どうしたの!?」
突然、わんわんと泣き出すライ。
それを見たマイマイはアタフタと慌てだした。
「ごめんね、ライちゃんの年では早すぎたよね。
嫌なら嫌って言っていんだよ?
あくまで、ライちゃんの気持ちを知るために、聞いただけだからね?
強要する気は無いんだよ?
本当にごめんね、こんなに怖がらせちゃって」
ライを抱きしめながら必死に謝るマイマイ。
もはや、マイマイはパニック寸前である。
(どどど、どうしよう。
まさかマージャンとかが泣くほど嫌とは。
それともあれか?
女の子とのコミュニケーションで色々と失敗したことあるけど、今回も何かやってしまったのか!?
とにかく、このままじゃどうにもならない、困ったぞ!!)
予想だにしないライの行動に慌てたマイマイは、他のアプローチを考える。
(そうだ、このベッドには機嫌値を上げる効果があったんだった。
よし、ちょっと罪悪感が沸くが、二人とも寝かしてしまおう。
そうすれば、機嫌値が寝ている間に上昇するから、仕切り直しができるぞ。
というか、仕切り直ししないと、私の精神が持たない!!)
そして思いついたのは、機嫌値を上昇させた上での仕切り直しだった。
つまり、リセットである。
----------
「落ち着いてきた?」
「は、はい…」
「そう、それじゃ、泣き疲れたでしょ。
お休み」
「えっ?」
『強制睡眠 通常型 LV4』
パタン…
二人を魔法で強制的に眠らせるマイマイ。
「はぁ…何とかなった…
本当に疲れたよ」
別に敵と戦ったわけではなかったが、どっと疲れたマイマイ。
「お疲れ様でした」
そんなマイマイを気遣ったカグヤが、スッと紅茶を差し出す。
「ありがとう、気が利くね」
「いえ、これぐらい当たり前です」
(当たり前ね…
その当たり前が難しいんだよな。
友好値上げなんて、違和感を感じるし、退屈で面倒くさい作業だけど、作業自体は簡単で上手く行くのが当たり前だと思ったんだけど。
全然上手く行かなかったな。
AIがリアルすぎて、こっちは心臓がバクバクとなっちゃうし…
なんというか、自分で言うのも何だか、酷かった。
とにかく、村人達とライとシイの扱いは、色々と全力を尽くして行動しないと不味そうだな。
相手がAIだからと思うのではなく、人に対するそれと同じだと考えて行動しないと。
そうしないと、上手くいかなさそうだし、自分の心も罪悪感で潰れてしまいそうだし…。
さて、ライとシイは当分起きないだろうから、先に村人達だな。
どういう風に謝ろうか…
住処をどうにかしてあげるのは、最低条件だよな。
村を完全に復元してあげるべきか、それとも新居を用意してあげるべきか…
うーん…悩むな。
あと他にも、何かしてあげるべきだろうな…)
なかなか上手く行かない状況にマイマイは苦しむ。
しかし、この時のマイマイは知る由も無かったが、この日の試行錯誤が『破壊神国』復活の基礎を作り上げたのだった。