憧れの先輩、嫌いなアイツ
うちの学校には、名物の部活動が二つある。
“執事部”と“メイド部”
一個上の先輩から始まったこの部活動は、より多くの学生の興味を集め、一時期は入部希望者が絶えなかったものの…二人の部長の厳しさに辞めていく人もまた絶えず。
まぁそんなもの、学校生活に刺激を求める暇人がやるものだと思っていたのだが。
「…大丈夫?」
一人のキラキラとした先輩によって、私の意見は180度変わった。
「ユイ先輩っ!おはようございます!」
「あ、おはよーココちゃん」
にっこりと極上の微笑みをくれたユイ先輩は、先日、廊下で派手に転んだ私をこれまた女神様のごとく手を差し伸べて助けてくれた素晴らしい先輩だ。
「今日も見学に行っていいですか?」
「もちろん。なんなら入部してくれても全然構わないのよ?」
「いやー、それは私の容姿が…」
何を隠そう、先輩はあのメイド部の部長さんである。
そしてすでに察せられると思うが、これまた素晴らしく可愛い先輩なのだ。
「見た目より、こういうのは心遣いが大事だと思うんだけどな」
ちょこんと小首を傾げる先輩に、うっと言葉に詰まる。
あーもう、本当に可愛い。
本当に天使かなんかじゃないんだろうか、この人は。
「あ、一時間目体育なんだった。ごめんねココちゃん、また放課後に」
「あ、はい!」
ニコニコと手を振ってくれる先輩に、だらしない笑顔で手を振り返す私。
自分が可愛くないのは百も承知。
そんな私が、先輩を筆頭に可愛い子達ばかりがいるメイド部に入れるわけがない。
私がメイド服なんて着た日には全員目をやられてしまうだろう。
なのに見に行ってしまうのは、少しでも先輩に癒されたいからだ。
「「「きゃーーーっ!!」」」
突然聞こえた黄色い声に、幸せだった気持ちは打ち砕かれた。
最初に述べたが、この学校の名物の部活動は二つある。
一つは可愛い子ばかりのメイド部。
そしてもう一つは…
「…わざわざお出迎えをありがとうございます、お嬢様方」
「きゃーっ!!素敵ー!」
「椎名せんぱーい!」
「太陽さーん!」
…イケメン揃いの執事部である。
中でも部長の椎名太陽は大人気で、黄色い声の発生源を辿れば、必ずといっても良いほどこの先輩がいる。
他にも騒がれる部員はいるが…思い浮かんだのがヤツの顔のため、割愛させて頂く……
「…おはよ、ココロ」
耳元で囁かれた言葉にぞわぞわと背筋に悪寒が走り、耳を押さえて飛び退いた。
「出たな、小牧!」
「きゃーっ小牧くーん!」
…小牧恭助は、同じクラスで隣の席、更に執事部である。
そこにいるだけで目を引く容姿に加えて、成績優秀、スポーツ万能というモテ要素をかなり持っている。
そしてムカつくのが…あの、ユイ先輩とは幼馴染みだということ!!
羨ましいにもほどがあるだろうコンチクショウ!
ちなみに、椎名先輩とも幼馴染みらしいがそれは別に構わない。
問題なのは…こいつの性格だ。
飄々としているのに全てに抜け目がなく、私がヤツより劣っている時に見せる…フッと人を小馬鹿にするような笑みが、私は大っっ嫌いなのだ。
それゆえ、張り合っては惨敗を繰り返す現状だが…今日は、違った。