家族の食卓
*
――あの日から。
「翔、これ、このあいだ言ってたところのパンフレットよ」
「ありがとう、母さん」
母さんと翔、そして私と父さんがそれぞれの意見を出し合った後、何度も話し合いをした。
時には激しい言い合いになりかけたし、翔や、そればかりか母さんが泣き出してしまうこともあった。
だけどそんな風に何度も机を四人で囲んで話し合った結果、今、ひとつの案が出ている。
「翔が行きたがってる高校より、少し設備は落ちるかもしれないけど」
「ううん、此処も調べてみる」
寮があり、翔の望むサッカーが出来る高校を探す。
翔と母さんが歩み寄りをみせた結果、今、一つの選択肢として上がったものだ。
もちろんそれは『選択肢』なのであって、この後、どうなるかは分からない。何らかの理由によってやっぱり無理だということがあるかもしれない。そうしてまた、同じことで悩むようになるかもしれない。
それでも、話し合いを持たなければ、この案は浮かびもしなかっただろうもので。
翔が自分自身で選ぶことの出来る道が増えたという事実に変わりはなくて。
「俺もあの高校だけにこだわり過ぎてたと思うし。もうちょっと色々探してみるよ」
経験も浅くて所詮は第三者である私だけど、手にしたパンフレットを眺めて笑む弟の姿に、姉としてそれを嬉しく思う。
「そう。……また、教えてちょうだい」
母さんはそう言って翔に笑いかけた。
続いた少し笑い混じりの言葉を、
「こどもの話を無視する悪者には、母さん、なりたくないわ」
炊飯器を開けながら私は聞いた。
恥ずかしいような、嬉しいような、そんな気分になりながら茶碗にご飯をよそう。
隣で炒め物を皿に移していた父さんが、ちらりとこちらを見て言った。
「颯子も、少しずつ進路のことも考えていかないとな」
「うん。今はまだ、全然思いつかないけど」
「まぁなぁ。正直、父さんもその頃はあんまり考えてなかったよ」
父さんがぽんぽんと私の頭を軽く撫でる。
「時間は無期限じゃないけど、焦るのも良くない。ゆっくり急げ。ちゃんと聞くから」
「……分かった」
色々やってみよう、と思った。
色々するうちに思いつくかもしれない。
同じことを誰かが言っていた気がしたけど、それを思い出す前に「颯子、食べよう」と食卓に呼ばれた。ご飯をよそった茶碗を持って、席につく。
手を合わせて、なんとなく目が合った母さんと笑いあって。
「いただきます」
箸の先のご飯から白い湯気がふわりと上がった。
これにて本章は終わり、次が最終章です。
よろしければもうしばしお付き合いお願いします。




