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BLACK D●T  作者: 笹舟
六月十日 くもり 時々 ●。
6/87

向かう先は

「あ」

 短く声を上げ、すぐ前を行く中谷会長が足を止めた。

 

 思わず私も足を止めてしまう。

 振り返った中谷会長は私の顔を見て、何か言いたげな顔をしながら考え込み始めた。

 ちょっとだけ無視していこうかとも思った。でも、中谷会長が私から眼を離さないのでそれも実行しづらい雰囲気だ。

 ようやく何かを決めたらしい中谷会長が、口を開いた。


「……えーと、朝の人、さん」

 名前が分からないなら正直に訊け。


「笠見颯子です」

「あ、ごめん。笠見さん」


 軽く頬を掻き、その返しに自分も名乗ろうとした彼に、中谷生徒会長ですよねと先を越してやった。私が名前を知っていたことに、中谷会長はちょっと嬉しそうな顔になって、そうそうと頷いた。

 自分から「変な名前だから覚えられる」って言ったでしょう、約二ヶ月前に。


「笠見さん、傘持ってきてる? 折りたたみでも」

「持ってきてないです」

「降るよ、これ」


 これ? どれ? いきなり何だ?


 主語無しで断言した中谷会長の表情は、


「雨……ですか?」

「うん。家は、もう近い?」

「あと十五分くらい歩きます」

「あー、じゃ困ったね。あと三分くらいで降ってくるよ、雨」

「……困りますね(あなたへの対応に)」


 それでも迷いの無いものだった。

 

「家までに十五分かかるなら、確実にその道中で降り出しちゃうね」

「じゃあ早く帰らないと」


 中谷会長の言葉を鵜呑みにした訳ではない。

 だけど本当に雨が降るというのなら、今のうちに帰りたい。こんなところで立ち止まっていないで、早く歩みを進めたい。

 だからそこを退けてください、とそんな気持ちを込めて中谷会長を見据える。あなたが私の目の前に立ちはだかっているせいで、進もうにも進めないんです。

 でも、眼と眼で通じ合うー♪、なんて無理な話だった。


「よし。笠見さん、雨宿りして行こう」


 相手はフレンドリー過ぎる生徒会長。彼は想像以上の強者だった。

「あまやどり……」

「うん、すぐそこにぴったりなトコがある。丁度、今日寄る予定だったし」

 意味の分からない、いや、意味は分かるけどそれが今の流れで登場する理由の分からない単語を呆然と繰り返す。雨宿りに私を誘う理由が何処にあるというのだ。

 私は降らないうちに家に帰りたい。用事があるなら一人で行ってください。

 だけど対する中谷会長はとても上機嫌で、当然ながら私の、帰りたいという意思なんて届いていないに違いなかった。

 とはいえ、私にだって断る権利はあるはずだ。

「……すいません、私」


「あっれ、三分保たなかったねぇ」

 

 ぽつっ、ぽつぽつ。ざーーーーっ。

 

 中谷会長が空を見上げた瞬間に、一体どんな仕組みなのか、と疑いたくなるようなタイミングで強い雨が降り始めた。思わず呆気にとられる私をよそに、中谷会長はごく自然に私の手を引いて商店街の歩道を小走りで進む。


「あ、大丈夫だよ。生徒会長の名にかけて、不純異性交遊なんてしないから」


 ため息が出た。


 あなたのその生徒会長という肩書きに、どのくらいの重みがあるというの。



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