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BLACK D●T  作者: 笹舟
●降って、地、固まる?
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今日の私にあったこと


「今朝、友人と喧嘩したんです」とだけ私は告白した。


「あらら、それはまた」というのが葵さんの感想で、

「女子の喧嘩って、何すんの?」というのが中谷会長の反応で、

「どういうコメントだ」と古場さんがツッコミを入れた。


 中谷会長は、「だってさぁ?」と自分のコメントに眉を寄せた古場さんに向き直る。


「男子なら夕暮れの河原で掴みあって殴りあえば、喧嘩も仲直りも一発でしょ。


 『お前のパンチなかなか効いたぜ』

 『ははっ、お互い様だろうが』

 『腹が減ったな。飯でも喰いに行かないか?』

 『ナイスアイディアだ、それなら穴場を教えてやるぜブラザー』


 で、さ。だけど女子って、まず喧嘩してるとこのイメージ湧かないから、どうなのかなー、と」


「お前はそんなドラマ仕立ての喧嘩をしてるのか?」

 

 それ、私も聞きたい。

 あと最後のハリウッド色は何なのかと。


 中谷会長は至極真面目に首を傾げ、指折りしつつ答える。

「いや? かれこれ七、八年くらいは喧嘩してないかな。っていうか俺、平和主義だって。言葉で解決出来ると思うよ、大概の問題はね。だから暴力反対、ダメ、ゼッタイ。殴り合いなんて言語道断」

「気付け、自分の言葉が生み出す矛盾に」

 古場さんは、呆れているのか笑っているのか微妙な表情をした。

 今の私も、同じ表情をしていると言い切れる自信がある。


「颯子ちゃん。差し支えなかったら、原因を教えてくれる?」


 葵さんのまともな質問に、私は簡単に経緯を説明した。


 ――目撃されたのが土曜日ということは言わずに。

 ――陽介さんの名前は伏せて『知り合いのお兄さん』という名称で。

 ――その『お兄さん』に友人が恋しているということも口にせずに。


「つまり颯子ちゃんのお友達が、先輩から送られてきたメールを見て、颯子ちゃんがお兄さんと付き合ってるって勘違いしたってことね?」

「……そうです」


 葵さんの確認に頷きながら、私は不思議に思った。


 人に言われると、自分が怒っている理由がどうでもいいようなことに思える。 

 勝手に写真を撮られたのはやっぱり腹が立つ。でもそれは夕香のせいじゃない。

 夕香への苛立ちの理由は、夕香が勘違いしたからで。

 

 それなら――、――どうしてだろう。


 ただの勘違いにどうしてそこまで苛立ったんだろう。

 勘違いをした夕香の気遣いが、どうしてあんなにムカついたんだろう。

 私の苦手な、恋愛関係の話だったから?

 

 葵さんは「うん、青春らしいねぇ」と何故か満足そうな笑みを浮かべた。


「確かに、いつの間にか写真を撮られてたり、自分の交友関係を勝手に推測して噂されたりするのは私も嫌。言葉にするのは難しいけど、知らないところで自分を他人に形成されたくないっていうのかな。だけど、正直に言えば、私にはどっちが悪いとも言えないな。勘違いっていうのは、まぁ比較的よくあることだし、それにいちいち苛立ってても仕方が無いと思うの」


 葵さんの言葉に、私は俯く。

 でもそれは気まずいからじゃない。


「まぁ、喧嘩なんて、どっちが悪いかを決めるようなものでもないと思うけどね」


 葵さんの言葉が示す『事実』に、今更ながら疑問が湧いてきているからだ。


(……どうして……?)


 私はどこかで、この喧嘩を夕香のせいにしようとしていた気がする。


 夕香が流されるから、

 夕香が勝手に勘違いするから、

 夕香が自分を抑えるから。


 葵さんが言ったように、どっちが悪いかを決めるようなものじゃないのに。

 そんなことで、解決はしないと分かりきったことなのに。

 

 そんなの、今更気付くようなことでもないはずなのに。


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