考案者ヤマサキ
山崎さんの第一印象は、落ち着いた人だった。
待ち合わせをしているというファミレスに到着して、その店員に先に来ているという山崎さんの席へ案内してもらった。窓際の席で珈琲を飲んでいた山崎さんは、深い紺色のスーツにストライプのシャツを着ていた。しゅっと締めたネクタイに、社会人という言葉がぴたりと合っている。
よぉ、と片手をあげるラフな格好の陽介さんとは真逆の印象だ。
山崎さんは立ち上がり、私を見て少し眼を見開いた。
「どうせ雨里を連れて来るんだろうと思ってたけど、……ちゃんとしたお客さんじゃないか」
「こらこら山崎、雨里がちゃんとしてないお客みたいに言わねぇの」
「だって彼はお客というよりアルバイトだろう?」
「いーや、月雨シリーズを愛好してる大事な常連客だ」
すかさず返した陽介さんに、山崎さんは「ハイハイお前の言う通りですよ」と首を振った。
ああ。本当に二人は『ダチ』なのだ。
目の前のやり取りを見ていて、私はそう思った。
「さて、と」
山崎さんは私に向き直ると、にこっと笑って席を勧めた。
どうもと礼を言いながら席に着くと、山崎さんが改めて自己紹介をする。
「初めまして、月雨シリーズ考案者の山崎です。本日は遠いところをご苦様でした。色々とお話を聞かせてもらおうと思いますので、」
メニューと名刺がずいっと差し出された。思わず受け取る。
「まぁまずは、何でも好きなもの、頼んで?」
「あ、ありがとうございます」
車の中で昼食は済ましていたため、お腹は減っていない。
私と陽介さんは、山崎さんと同じドリンクバーを選んだ。私はジンジャーエールを、陽介さんは珈琲を淹れて席に戻り、手帳を広げた山崎さんと早速意見の交わし合いを始める。
「えーと、名前はソウコさんだよね。漢字はどういう字?」
「『立つ』に『風』、一文字の方の『はやて』です。子は、子どもの子」
「格好いい字だね。高校生、一年生かな」
そんな感じで、まずは私について質問された。これは利用者像のパターンのひとつになるらしい。
教えられる限りでいいよと前置きをした上で、山崎さんは私に部活動や趣味のことを尋ねた。答えない理由も無いので、ありのまま真実を話す。
自分の答えから、面白みの無い人間性だなぁと自分の個性を疑っていると、次のページに手をかけていた山崎さんが思いついたように質問を付け加えた。
「ごめん、これが颯子さんについての最後3つの質問。まず、彼氏は居る?」
私は迷い無く「いいえ」と答える。
数日前の夕香との会話が思い返されたけど、頭の中から振り払う。……今のところ彼氏が欲しいとも思っていないし、そんな噂は迷惑だ。
「すごく親しい友達はどのくらい?」
「長年の付き合いがあるのは一人です。クラスメイトとかとも大体仲良いですけど」
「この『月雨シリーズ』をプレゼントするとしたら、誰にあげる?」
「その親しい友達の誕生月が出たら、その子に是非あげたいですね。広めたいです」
ありがとうと笑って手帳のページをめくり、山崎さんは一度手を止めた。
もう温くなっているだろうカップの珈琲を飲み干して、席を立った。
「ちょっと失礼。二杯目淹れてくるよ。颯子さんはまだいい?」
グラスには半分以上のジンジャーエールが残っている。私が頷くと、
「またいつでも中断していいからね」
と言って、山崎さんは珈琲のおかわりを注ぎに行った。
「大丈夫か、疲れてねぇ?」
私が質問を受けている間に読んでいた雑誌を閉じて、陽介さんが尋ねる。
少し考えて、私は首を振った。
時間にして十二、三分の質問攻め。だけど、疲れてはいない。
「大丈夫です。製作側を見るなんて貴重です。いい経験になりますよ」
「そりゃ良かった。……今更だけど、折角の休日にわざわざ連れ出して悪かったかもなって思ってたもんだから。俺も奢るし、山崎もそうだろうから、もう少し頼むな」
そう言って両手を合わせた陽介さんに、私は笑って頷いた。
山崎さんが戻ってきてからは、三人で販売中の月雨シリーズについての話をした。
今までの四月から七月の中でどれが好きかだとか、それぞれの印象だとか、どういう気分になるかだとか、どんな人に似合いそうかだとか。
私や陽介さんの言葉の節々を、山崎さんは手帳のページに連ねていった。




