気怠い朝のこと
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昨日の夕方から夜にかけての雨は凄かった。雷も鳴っていた。
その雨が降り出した頃には私は既に帰宅済みだったからマシだったけど、もしも下校途中にあの雨が降っていたのなら、私の苛立ちは凄まじいものだっただろう。お得な『雨宿りサービス』も、それを癒すことは出来なかったに違いない。早く帰ってて良かった。
昨日のうちに降りつくしたのだろう、今日は朝からいい天気だった。
本格的な夏っぽさはまだ感じられないけれど、今日の太陽は今までよりもぎらぎらして見える。
だから、だけど、その分だけ、
「暑い……」
私はため息を吐きながら、次のページを捲った。
晴れの日は徒歩で登校することにしている私は、今日も北大路を歩いてこの教室までやってきた。そのせいで身体が温まったこともあるだろう、自分の席について教科書を引き出しに移し、鞄から読みかけの本を取り出した頃には、首筋にじんわりと汗をかいていた。
今日からいきなりこんなに気温が上がるとは思っていなかったから、スカートは夏用の薄いものに変えてきてはいない。
冬はありがたい厚手のスカートの重みが恨めしい。教室のあちこちでも、
「いつスカート変える?」「私、明日」「どうしよっかな」
と、クラスメートの女子達が輪を作って相談している。
手元のページに視線を落として、私はその内容に集中することにした。
本の中は秋。
主人公はイチョウにはしゃぐ保育園児たちを時折眺めながら、公園のベンチでゆったりと本を読んでいる。まだ肌寒くも無い気温は、心を落ち着けて読書をするのにぴったりだと胸中で思っている。
――あぁ、まったく羨ましい。
「颯子、聞いて聞いて昨日の話っ」
そんな気持ちをぶつ切りにした声の持ち主、つまり私の友人は、朝の一言目が「おはよう」だとは思い至らなかったようだ。
私は結局五分も集中することの出来なかった本を閉じ、
「おはよう。暑いね、今日」
その友人――松坂夕香へ、言葉を返した。