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BLACK D●T  作者: 笹舟
●降って、地、固まる?
19/87

『葵』

 *


「陽介さんって、葵さんのことは真島って呼んでますね、そういえば」 

 私の言葉に、古場さんは、だろ、と言いながら階段の方をちらりと見やった。

 陽介さんが降りてくる気配はまだ無い。


「……真島と俺たちは年次混合のグループ授業で知り合ったんだけどな」


 古場さんは自分の分の珈琲を淹れながら話し始める。

「その授業担当の教授は、なかなか名前が覚えられないからって、学生ひとり一人に名札を配ってたんだ。その名札のプレートに、学生の大体はフルネームを書いた。苗字だけ書いたやつも二、三人居た。けど、真島だけはそのプレートに名前だけを書いたんだ」

 マドラーでカップをかき混ぜながら、

「さて、何故でしょう」

 と古場さんが笑った。

 古場さんは話を聞かせる相手に問いかけることが多い。これも常連となって気付いた。


「えぇっと……」

 ――私がその状況だったら、多分、苗字だけを書く。

 だけど葵さんは名前だけを書いた。それは何故か。


「プレートの大きさは?」

「『真島葵』。三文字くらいは楽に入るサイズだ。よっぽどデカい字じゃないならな」


 「全部で七文字の名前をフルネームで書いたやつも居たぞ」と古場さんはにやにや笑う。――悔しい。しかもその七文字っていうのがどんな名前なのか気になる。

 名前で書いたってことは、名前で呼んで欲しかったってことでいいと思う。

 じゃあ、名前で呼んで欲しかった理由は? 


 ……思い浮かぶのはやっぱり――、


「名前がすごく気に入っている、とか」


 ミステリー好きの古場さんにそんな答えはアリだろうか、と思いながら言ってみる。

 すると意外にも、あぁ惜しい、と古場さんはにやにや笑いを引っ込めていた。


「そっちじゃなくて、真島、が、こだわってることの方を考えるんだ」


 古場さんの言い方はヒントだったらしい。おかげで閃いた。

 なるほど、名前じゃなくて。

 

 初対面で陽介さんが「名前で呼んで」と言ったのに対し、本や漫画の中のような現実味の無い言葉に、私は違和感を覚えた。だけどそれには理由があった。それが「中谷会長」が誰をさすのか混濁するのを避けるためというもの。

 そしてプレートに名前だけを書いた葵さんの、その理由は、


「苗字を読み間違えられるのが嫌だった?」

「はい、ご名答」


 珈琲を啜りつつ、古場さんはカップを持つ手とは反対の手で指を立てた。


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