お隣さんは、お向かいさんでもありました。
*
あの日、中谷会長は「見てたから」の後にこう続けたのだ。
「おっかしな子だなぁー、ってさ」
今思い出しても、中谷会長だけには言われたくなかった言葉だ。
「笠見さんって休憩中もよく席で本読んでるでしょ。休みの時間、俺は友達と廊下で喋ってるから、よく見えるんだよね」
その反対側の私は、全く気付いていなかった。
中谷会長のクラス(二年四組)と私のクラス(一年四組)は、東棟の三階と、西棟の三階の一番右端であり、中庭を挟んで丁度向かいの場所にあたる。
中谷会長が教室から出て廊下に立てば、私の教室は丸見えだ。そして私は窓際の席である。クラスメイト同士が名前を覚えるまでは席替えをしない、という、生徒にとってはあまり嬉しくない担任の取り計らいにより、二ヶ月前からずっと。
「で、いつだったかな。ある日に暇だから観察してたらさ、笠見さん、それまではほとんど動きもせずにじぃっと本を読んでたのに、雨が降り出した途端、くわっ! て、もの凄い怒った顔で空を睨んだんだよ。初めて見たときは、びっくりものだったね」
中谷会長はその日からよく気にかけるようになったんだけど、と面白そうに笑った。
笑えない。その行動に覚えがあり過ぎる私には笑えない。
「雨が降るたび、毎回やってたよね」
――……日常と化してますから。
私はそこまで人の眼を気にして生きてはいないと思う。
それが人の迷惑にならない限りは自分のやりたいようにする、というのが私だ。それでも気付かないうちに見られていたと知ると、怒りのような恥ずかしさのような、居た堪れない気持ちになった。
……しかもどうしてそう微妙な場面を……。
中谷会長は閉口した私を覗き込んで、ニッと笑った。
「今日の朝、それに帰り際に会ったのは偶然。だけど俺はずっと、いつか機会があったら親の仇のように雨を睨んでる向こう側の校舎のおかしな子を、『BLACK D●T』に連れて行ってみたいって思ってたよ」
「……念願が叶って良かったですね」
半眼でそう言った私に、中谷会長は「うん、良かった」と満足げだった。