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BLACK D●T  作者: 笹舟
六月十日 くもり 時々 ●。
11/87

アイテム:傘、購入

「この雨、しばらくは強くならないみたいだねぇ」


 入り口まで近づいて空を見上げていた中谷会長が振り返る。湯のみを片付けていた古場さんが、帰るのか、と顔を上げた。

「止むかどうかまでは微妙だしね。んー、笠見さん、いい?」

 中谷会長の確認に、私は頷く。このくらいの雨なら、雨嫌いな私でもまだ許せる範囲だ。


「あ、傘貸して。合羽は置いてくから」

「売り物からは取るなよ」

「取りませーん。俺と笠見さんの分、二本ね」

 階段を上がっていこうとした中谷会長に、私は慌てて言う。


「いいです、私の分は。これ、買いますから」


 商品を見ている間に考えていたことだ。

 朝バスに乗ろうと決めた時に思い浮かべた通り、私の傘は壊れたばかりで、今月は特に欲しいものは無い。そのおかげで、財布に余裕はある。

 それに丁度気に入ったものを見つけた。紺色で、円状に並んだ六つの雫が花を描いている傘だ。ふちに白い線も入っていて、私好みの、可愛すぎないおしゃれなものだ。


 私がラックから取った傘を見て、古場さんがカウンターから出てきた。

「気に入って、買ってくれようとしてる?」

 苦笑交じりの言葉が、買うのが礼儀だと思ってないか、と聞こえた。

 私は少しだけむっとして、そうですよと答えた。形式の礼儀のためだけに、この私がお金を支払うものか。そんなことするぐらいなら本を買うために取っておく。

 古場さんはやはり人の気持ちを察するのが上手くて、

「そうか。ならいいんだ」

 私の心の中を理解したように何度か頷いてから、苦笑してごめんごめんと頭を下げた。


「あ、じゃあさー」


 何かを思いついたらしい中谷会長が、ニッと笑って手を伸ばし、私から傘を取った。

「これ、俺に売ってよ、圭太さん。で、笠見さんが俺に代金払って?」


 ――中谷会長を経由する意味が分からない。

 

 私は眉を寄せたけど、古場さんは合点が言ったらしい。

「あぁ、……成程な、いい手だ」

「でっしょ?」

 笑いあう二人に入り込めず、私はただ首を傾げる。……だけど、


「じゃあ、店員割引で三割引いて――」


 その古場さんの言葉で私も納得した。

 確かにお得な、いい手である。


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