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abnormal dialy   作者: アルマジロ
spring
4/22

-junior high school- spring 2

「あー、やっと数学終わった」

「あの先生、いい加減にしてほしいよね。何分オーバーするつもりだよって感じ」

「評判悪いよね絶対」

「それに比べて楠木(くすのき)先生ってサービス精神旺盛だよねー。この前なんか5分前に終わったもん」

「はぁ? 楠木がサービス精神旺盛? いやいや、全っ然そんなことねぇし。あの人部活だと豹変すっから」

「えー、そうなの? 意外ー」

「大ちゃんは偉いね。あんまり先生の悪口とか言わないじゃん」

「言ったところでどうしようもないし…先生って、皆そんなもんだろ?」

「おー、今結構カッコいいこと言ったよ」

「あ、大胡。悪い、ノート貸してくんね?」

「おはよー修哉ー」

「何? また寝てたの?」

「寝てたっつーか、起きてなかった」

「寝てたんじゃん」

「そうとも言う」

「よくバレなかったな……」

「それはまぁ、プロですから?」

「プロも何もねぇだろ、ったく……じゃ、今日中に返せよ」

「サンキュ。恩にきる」

「あー、そうだ修哉ー。昨日メール無視ったっしょー」

「え? あぁ、悪い。ガラにもなく勉強してた」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!!??」

「な、おい、そんな驚くことか? 俺だって勉強くらいするよ」

「だってあんた、勉強って……学校始まって3日しかたってないのに…」

「ていうかお前勉強って熟語知ってたんだ」

「あれ、今幻聴か何か聞こえたような気がしたんだけど気のせいだな、空耳空耳……ってなるかボケ!! てめぇ荒瀬ぇぇぇ!! もう一度言ってみろこの野郎!!」

「ていうかお前幻聴って漢字で書けんの?」

「ぁあ!! え、何? 幻聴幻聴……えーと、幻に…耳かいて……えーと……知るかー!!」

「知っとけよ!」

「あ、おい、俺のノートで人を叩くな!」

 以上、3年1組の休み時間教室にてお送りしました。


 しかし、中学3年生といっても、年齢にすればたったの15歳。いや、まだ新学期始まって間もないから、大半の人が14歳か。

 春の陽気が関係してるのかもしれないけど、やっぱ新学期ってのほほんとした空気がどこかしらに存在している。僕たちは受験もないし(それに代替する進級テストはあるが)将来の心配も今のところしなくてもいい。人生の中で受験を経験できないのはなんだか勿体無い気はするけれど。

 規則が厳しいのが玉に(きず)か。大学部にあがるまで携帯電話の持ち込みは禁止(持ってきた場合強制的に永久没収)、その他不要物を持ってきた者は奉仕作業1週間。制服も学ランにセーラー服というレトロな仕様。髪形や服装についても生徒指導の先生が毎月集会を開いてチェックする。これがまた面倒くさくて、僕みたいに普通に生活している生徒にとっては退屈でしかない。注意されるやつなんて毎月大体決まっているのだから、規則を守っている僕たちがまるで無駄な努力をしているように思えてならない。

 なぜこんな古風な学校に入りたがる生徒が多いのかというと、やっぱり将来の問題だろう。前述したがこの学校は入りさえすれば成人を過ぎるまで安心した進路を進むことができる。ただ、学区が非常に狭いため、無条件でここに入学できる生徒なんてほんの一握りで、大抵は皆受験してこの松嶺(しょうれい)大付属中に入ってくる。偏差値は結構高いらしい。有名校というほどでもないが、郊外から電車通学している生徒も多数見受けられる。高田もその一人だ。つまりこいつは小学6年生の頃、受験を経験したということになるが、……別に、羨ましくなんかない。

 その高田は、現在読書をしている。珍しく静かだ。まぁ、騒ぎながら読書するやつなんてそうそういないだろうが、こいつが休み時間に本を読んでいること自体がまず珍しい。普段なら冒頭で実況した吉川や光村たちの会話に混ざってバカ騒ぎするのが日課なのに。

 気になった僕は、隣に座って気難しい顔で紙面をにらんでいる高田に話しかけてみた。

「なに読んでんの」

「あ、…(いずる)か。いつからいた?」

 僕は朝のホームルームから席を動いていない。

「さっきから、ずっと同じページ見てない?」

「あー、それが……ちょっと、読めない漢字があってさ」

「漢字? どれ」

 昨年度の2月に漢字検定準2級に(ギリで)合格した僕は、難読漢字を解読するのが趣味になり始めていた。確かに、本を読んでて、読めない漢字があったりすると、なんだか読む気が失せてしまう。

「これなんだけど」

 と、指差された文字は、僕にも見覚えのないものだった。

 “慇懃”。

 …………。

 自信喪失。

 準2程度で浮かれてはいけない。

「読み仮名振ってないの?」

「ご覧の通りだ」

「この、下に共通してついてる“心”って文字がミソなんじゃないか?」

「うーん……つーことは、これって形容動詞?」

「かもな」

「“慇懃(いんぎん)”だよ」

 僕と高田が考え込んでいると、横から声がかかった。

 丁度、二人の間に位置する場所。その目は紙面ではなく確実に僕を見据えていた。

「意外だなぁ。みっくんにも読めない漢字というのはあるわけだ。へぇー……じゃあ君は前言撤回をするべきだね。もう少し自分を客観視することを覚えた方がいいよ。僕が言えることじゃないけど、君は自分を過大評価し過ぎている節がある。そういうのは目に余るからやめてもらいたいね」

「前言撤回? 今は腹持ちが良くないからあまり笑わせるようなことを言わないでほしいな。それを言うならお前だって撤回すべきことは山ほどあるだろ」

「ないね。何一つないよ。僕が撤回する言葉は全くもって存在しない。君は図々しいね。今まで大分責任転嫁をすることで自分の非を他人に押しつけていただろう。それは良くないよ。君の腹持ち以上にそれはよろしくないことだ。押しつけられた側はたまったもんじゃない。さては君、他人の気持ちというのを考えたことがないね? 僕はそれほど人間として劣ってはいないから、ある程度の他人の痛みとか苦しみは理解しているつもりだよ」

「“慇懃”から登場しておいて勝手な言い草は控えてもらいたいんだがな。他人の気持ちを理解しているんなら、今の僕の気持ちも少なからず理解しているはずだと思うんだけど?」

「うん。もちろん大体分かってるよ。君と僕はつい先日喧嘩したばっかりだからね、お互いに会話をしたくないのはよく分かってる。昨日の敵は今日も敵だよ。明日も敵で明後日(あさって)も敵だ。敵は所詮敵でしかないものね。何のメタモルフォーゼで敵が友になるのか、そのメカニズムは複雑怪奇だよ」

「ならないんだろうな。敵と友が対義語じゃない限りそんなことは起こり得ない。つまりこれから先僕とお前は永遠に敵対関係をもつことになるから話しかけないでくれと僕は今しがた心の中で呟いていた」

「ぼやいていたの間違いじゃない? あるいは(うそぶ)いていた、とかね。正直に言えば? 君は僕を邪険に思っているよね。今すぐ消えてほしいと心の底から思っているよね。ショックだなー。敵とはいえここまで忌み嫌われると僕のガラスのハートは崩壊寸前だよ」

「防弾仕様のな」

「ご名答だよ」

 というわけで鏡崎亮介。

 僕が先日喧嘩をした相手だった。

 きっかけは些細な口喧嘩。こんな感じの会話が平行線上に続いていき、僕の線が若干内側に折れた形で口論になった。それほど仲が良いというわけでもないが、取り立てて悪くもない僕と鏡崎。簡潔に表してしまうと、中等部にあがってから今年を含めて3年間、ずっとクラスが同じだった数少ない人物だったりする。

 高田は、気楽になった僕と鏡崎はキャラが似るみたいなことを言っていたが、正直、心外だった。こいつだけには似たくない。まず、自分とこいつを何事においても比べられること自体が嫌だった。

「あのー……ちょっとお二方さんよ」

 無言のうちに火花を散らし合っていた僕と鏡崎に、控えめに高田が口を挟んだ。

「饒舌キャラ同士の言い争いは王道パターンだってのは分かるけどよ…その中に、俺みたいな右脳発達型キャラが混ざってると、俺がバカみたいに思われるからやめてくんねぇか?」

 とことんキャラを重要視する高田だった。

 そんなに大事か、キャラって。

「…………えっと……?」

「はぁ……やっぱり憶えられてないか……俺ってそんなに影薄いのかな……ちょっとショックだな……俺は一応憶えてたんだけど……ギブアンドテイクが成り立ってねぇよ……」

 ギブアンドテイクの意味を間違えているやつが約一名。

「みっくん。この、妙にキャラに執着する人物は誰だ?」

「高田寛人。サハラ砂漠のように心が広い」

「よく分からないんだけど……?」

「こう言えばよく分かるか? 『3年生になって初めてできた友達』」

「あぁ! じゃあ、君が高田寛人くんか!! うわぁぁー、はじめましてだね! 嬉しいなぁ、このクラスにはみっくんの他には同じクラスだった人はいないと思っていたから、少なからず寂しさを抱いていたところだったんだよ。そうだね、いないのならば作ればいいんだ。僕は鏡崎亮介だよ。これからよろしくね、高田寛人くん!」

 僕のシンプル&スタンダードな説明が功を奏したのか、鏡崎は手の平を返したようににこやかな笑みで握手を求めた。されるがままに手を差し出す高田。客観的に見れば、『おめでとうございます!! 宝くじの一等が当たりました!!』『は? え? あ……マジっスか』的な会話が成り立ちそうな場面だ。その場で当たる、ロト(シックス)

「おい、僕の他にもう1人いるじゃないか。鶴嶋の存在を忘れるなよ」

 一方的に展開されている友好的ムードに水を差す一言を浴びせると、鏡崎は一変して露骨に嫌な顔をした。

「あぁ、彼のことか……僕は鶴嶋くんのことをよく知らないんでね。残念ながら、喋ったこともないような人物を友達とは呼べない」

「? 鶴嶋……? って、誰だ?」

 ニューワードが出てきて我に返った高田が僕に訊いた。

 こいつ、昨日僕に同じことを訊いたじゃないか。僕はちゃんと模範的回答をしたのに、すっかり忘れてやがる。

「今日の朝先生が話してただろ、聞いてろよ……鶴嶋は、1年の頃から数えるほどしか登校してこない、いわゆる不登校児だよ。これ、昨日も言ったんだけど」

「へぇー……今時、いるんだな」

「…今時っていうか、むしろ最近の方がわりと一般的に見られるもんだけどな。もっとも、引きこもりって訳じゃないらしい」

 鶴嶋京平。

 入学当初から滅多に学校へ来ない不登校児。

 しかし、創立記念日なんかで学校が休みだったりすると、たまに目撃情報が寄せられるので(この物言いは、人間に対してはいささかお粗末なものがあるが)、いわゆる“ヒッキー”の部類に入るわけではないと思われる。単に学校へ来るのが面倒なのか、何かよほどの理由があって学校そのものを嫌悪するようになったのか、その理由は教職員側も分かっていないそうだ。

 僕は彼と、2年生の時に同じクラスになった。当時、既に彼の不登校は恒常化しており、周りは彼がいなくても平然としていた。結局、2年生のうちに彼を校内で見る機会はたったの2度しかなかった。

 まぁ、つまり、そういう人物だ。

「逆に、校内の生徒で彼のことをよく知っている人物がいる方が驚きだよ。どうやって関わりをもったんだろうね」

「さぁな。多分いないんじゃないか? そんなやつ。ていうか鏡崎。僕は今、現在進行形でお前と喧嘩しているんだから、話しかけるなよ」

「は? ちょ……このタイミングでそれを言うか?」

「そうだよ。多分今、読者の皆さんは『この二人、いつの間にか仲直りしてんじゃね?』と思っていたところだろうのに」

「それは困るな。僕は金輪際(こんりんざい)、鏡崎と仲良くするつもりはない」

「……いいよ。分かったよ。このまま永久に決別してやろうじゃないか。言っとくけど、一度決めたら僕は信念を曲げないよ! ちょっとやそっと札束積んだくらいで心変わりなんてしないからね!」

「金で解決すんのかよ」

 文字通り現金なやつだな。

 とはいえ、鏡崎が思ったよりすんなりと引き下がったことを意外に思った。あれ、こいつ、こんなに淡白なキャラだったっけ。

 …と、僕までキャラにこだわってどうする。

「じゃあね。きっともう会うことはないだろう」

「理科の班一緒じゃなかったか?」

 午前中に再会できんじゃねぇか。

「あーあ……次は社会か……あれ、歴史だっけ地理だっけ……あぁ、違った、3年生は公民か……まぎらわしいなぁ……」

 ブツブツ言いながら、鏡崎は去っていった。

 そしてその直後。

 僕は、策士・鏡崎亮介の本性を垣間見ることになる。

<キーンコーン…カーンコーン…>

 僕は席を立っていた。

 というのは、先程まで会話をしていた鏡崎が立っていたので、フェミニストの僕としてはたとえ喧嘩中であろうと、同じ目線で会話をしようという厚意からの姿勢だった。

 それをあいつめ、仇で返しやがった…。

「ん? 出。お前今立ってたよな?」

「え? いや、これはちょっと、わけがありまして。どんなわけかと言いますと、突如空中に豚が浮遊しているのを」

「チェック1」

 迂闊だった……。

 僕のその場しのぎの言い訳は完膚なきまでにスルーされ、放課後3年教室前の廊下を1往復する羽目になったのだった(全長30m)。


 時は少々(さかのぼ)り――――。

 みっくんたちが鶴嶋についてのことを話していた時、密かに身を震わせた人物がいた。

 休み時間の間中、学ランのそでに付いているボタンをいじっていた手が、鏡崎の何気ないつぶやきによって止まった。

「逆に、校内の生徒で彼のことをよく知っている人物がいる方が驚きだよ」

 ビクリと、一瞬眼が見開く。

「どうやって関わりをもったんだろうね」

 鏡崎が放つ一言一言が、彼の胸に深く突き刺さる。

 聞くに堪えなくなり、彼は真新しい(あめ)色の机に突っ伏した。

“慇懃”って、読めます? 中学3年生入学直後の時点で。

なかなか難しいと思うんですよね……私も、最近本を読んで知ったばかりなんですけど。

亮介のキャラあれで決まっちゃったのかな……たしかに、彼が楽観的じゃなかったら、寛人じゃないけど、みっくんとキャラかぶっちゃうよ……どうしよ……。

途中で性格変わる可能性あるかも。

今のうちに予告。

いや、ないにこしたことはないですけどね。

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