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abnormal dialy   作者: アルマジロ
spring
11/22

-junior high school- spring 9

「……………………なるほどなるほど、そういう事情があって俺を呼んだわけね。ふむふむ………ん、納得」

 PSPをスリープモードにし、大原夏輝は僕に向かって笑いかけた。

「そういうことならお安い御用だ。着いていってやろうじゃねぇか。俺とみっくんの仲だもんな」

「思いっきりPSPやってただろ。聞いてたのか人の話」

「もっちろん」

 と言いつつも、大原はPSPのスリープモードを早くも解除してまたプレイし始める。

 いや、聞いてないだろ。

 こやつに同行を頼むのは間違いだったか……。

「にしても、みっくんとこの姉ちゃんって、なかなか味のあること言うんだな。俺ちょっと惚れちゃったかも」

「深みにはまらないうちに忠告しておく、姉さんだけはやめた方がいい」

「ひっでぇな……ひいき目に見るとか、そういう感性はないわけ?」

「姉さんを語るのにひいきなんて必要ないよ。あの人はあれがベストの状態だからね」

「そういうことにしとくか」

 会話をしながら、手元では別の動作をやってのける大原。

 よくよく考えてみると、それって実はけっこう難しかったりする。よく聞く“右手で三角、左手で四角を描く”という動作と同じくらい難しい。僕にはできなかった。他に、“右手でドアをノック、左手でドアをさする”というのがあったが、そちらは何とかできなくもなかった。長続きはしなかったけれど。

 さて、なぜ僕と大原が共に時間を過ごしているかという説明をしようとすると、どうしても少々時を(さかのぼ)らなければならない。

 それと同時に、無論あの会話も、それに含めなければならないだろう。思い返すとまだ身震いするが、まさかあんなタイミングで彼女が言及しなければ、僕は大原を連れてくることはなかっただろうから。


 時は少々遡って、4月15日、休日。

 昨日の朝に姉から言われたことを軸に、僕はある計画を立てた。それには、僕の他にあと2人、協力者が必要だった。1人は高田に任せるとして……もう1人は、どうしよう?

 なんてことを考えながら、軽く気分転換をするために梅崎図書館へやってきたのが今日の午前11時。

 なんたる偶然。

 意外な人物と鉢合わせした。

「…………おはよっす」

「こんにちは」

 投げかけられた挨拶に事務的に応え、自分の指定席へと戻ってしまった彼女は、名を茉莉沢由真(まりさわゆま)という。

 この人物の説明は……なんていうか、ひたすらに冷たい性格だ。冷酷とか薄情とか、そういう意味ではなく、もっと単純な意味で、彼女ほど冷たい生徒は松嶺大付属中には存在しない。他人とあまり関わることをしないために他人からもあまり関わりをもたれず、自分から積極的に動こうとしないために他人からも積極的に動かれない、と言えば、なんとなくの漠然としたイメージは浮かんでくると思う。言うまでもなく、僕も茉莉沢については未だにノーデータ。名前以外のパーソナルデータをほとんど把握していない。

 まぁ、他人と関わりたがらないとはいっても、うちのクラスには万物平等のフェミニストが少なくないため、それなりには人間関係を持っているようだ。うちのクラスでは……三須なんかとは、比較的喋っている姿を目撃する。

「思ってもみないサプライズだ、こりゃ……」

 今更ながら彼女がいた場所を見てみると、そこはホラー系統の本が並んでいた。

 山田悠介とか、読んでたりするのかな。僕らの年代だと、ホラーと言えば山田悠介なのだけれど、なんだか茉莉沢は他人とはいろいろと違いそうな気もする。

 ともあれ、予想外の茉莉沢との遭遇に、すっかり面食らってしまった。僕はクールダウンのために図書館へ来たはずなのに、逆にヒートアップしてどうする。図書館は興奮する場所ではない。静寂を保ってこその梅崎図書館でございます。気を取り直して、僕も自分の席を確保して本棚へ飛び込んだ。

 お目当ての本はモダンな現代小説。何気ない日常の1コマを文字にしてまとめました、みたいな、そういう平和なストーリー。中高生というのは現代小説にも多く扱われる年代層であり、未成年だけどもう子供じゃない、そんな概念を持たせてくれる。僕は主人公と自分を重ね合わせ、本の中で展開されていく物語に入り込むのが好きだった。昔ほど本を読んではいないけれど、やっぱり読書は僕にとって欠かすことの出来ないものらしい。本の虫、とはよく言うけれど、小学生時代の僕は、まさにそれだった。本と言う本を見境なく読み漁り、視力低下を危惧した時もあったっけな……。あの頃は、自分のやりたいことをやりたいがままにやることが出来た。今はそういうわけにはいかない。社会という名の檻の中に住まわされた僕たち。小さい頃は鉄格子の隙間から出入りができていたのに、成長してからは出られなくなってしまった、巨大な檻。成長。成長か……。そう考えると、成長っていうのもあんまりいい点ばかりってわけでもないな。

 好き放題できるのは今のうち。大人になったら、自分の希望なんて二の次になってしまうんだろう。悲しい世の中だ。そしてその悲しい世の中によって今が構成されているのも事実なのだ。僕の近所に住む朽輔さんは、そう言って苦笑いしていた。あの人はまだ高校2年生なのに、姉に負けないくらい深イイことをたまに呟く。僕の周りは詩人が多いんだな。いや、どちらかというと思想家に近い、のか?

「ぃよっす、みっくん」

 僕が本棚を前に背表紙を睨みつけていると、場にそぐわない楽天的な声が横から聞こえた。

「…………」

「元気してるみたいだな。図書館で会うなんて、何、俺たち、運命の赤い糸で結ばれてたりしちゃったりする系?」

「…………」

「おいおいおいおい、シカトはなくない? あ、あれですか、図書館ではお静かにってやつですか。残念、俺は図書館で静かに本を読むような神経は持ち合わせていないんだな」

「…………」

「――――なぁ。俺そろそろ限界。みっくんは声を聞けば誰だか分かるって、高田ってのが言ってたんだけどな。ガセ? 俺まさかのガセ吹き込まれちゃった感じ?」

「分かってるよ、うるさいな。君の名前は大原夏輝、3年1組11番。これで文句ないか?」

「なっ……。…うあ……ショックだ……なんだそのやっつけ感……俺、出オチ設定だったのか……はぁ……落ち込みMAX……」

 そんなわけで、本日2人目のクラスメイト、大原夏輝の登場である。

 ていうか待て。図書館で静かに本を読むような神経は持ち合わせていないって、お前、それ、図書館における当然のマナーじゃないか。神経からタブー喰らうなんて、もはやご愁傷様としかかける言葉が見つからない。実は今この瞬間も、大原にとっては苦痛なのかもしれない。いや、僕が気に病むことでもないか、あっちが勝手にやって来て勝手に話しかけただけのことだ。そこに僕の意思はない。

 おぉ、使えるな、このフレーズ。

 つくづく姉には下げた頭が上がらない。

 と、向こうのテーブルでガタンと大きな物音がした。

 小さな子供が椅子でも倒したのだろうかと覗いてみると、先ほど遭遇した茉莉沢が立ち上がっていて、その反動で彼女が座っていた椅子が後ろに倒れたらしい。こちらに向けたその顔は、氷のように冷たく、また、怒りで燃えているようにも見えた。

 嫌な予感。

 すごく嫌な予感。

「ちょ、お、大原」

「あーあ……どうせ俺は出オチですよ……セカンドシーズンには登場人物から名前消えてるよ……いいさ……俺の目的は別にあるし……この町にいるって聞いたのに、悠木瞳……あいつ騙しやがったな……」

 まだブツブツ言ってんのかよ。

 いい加減立ち直ることを知れ。

「ねぇ」

 突然声をかけられて振り向くと、そこには茉莉沢が立っていた。

 ん?

 あれ、何でそんなご立腹なんでしょうか。顔が怒ってるんですけど。怒りオーラが半端ないんですけど。

「あなた……大原、だっけ?」

 用があるのは大原らしい。

 僕はそそくさと舞台裏へ逃げる。出来るだけ茉莉沢の正面にはいたくない。

「あなた一体何者? 私あの日からずっと思ってたんだけど、あなた一体何者なの? 怪しい。すごく怪しい。このタイミングで転校とかすっごく怪しい。何かあったとしか思えない。むしろ何かあったと周囲に言いふらしているようにしか思えない。怪しい。私にとってあなたはすごく怪しい。そろそろ正体を明かしてくれない? 正直言うと、私はあなたを怪しんでる。操先生の失踪と絶対に何か浅からぬ縁があると確信してる。あなたは怪しすぎる。今のうちに化けの皮を剥いでもらわないと後になって困る」

 ……凍りついた。

 緊急事態発生。

 大原夏輝が凍りつきました。

 誰か解氷剤持って来い!!

 って、雪だるま状態にはなってないのか……。

「…………えっと、……怪しいものではありません、っていう言い訳は通じる?」

「ナッシング。それはイコール、私は怪しいですと自白したようなもの」

「俺は怪しくないって。普通も普通、普通すぎて参っちゃうほどに平々凡々通常通りなんだけど」

「そんなはずはない」

 面食らう大原に、相変わらず冷たい表情で、抑揚なく淡々と言葉を羅列させる茉莉沢。

「私が疑った人間が平々凡々なはずはない」

「…………」

 根拠なくねぇか?

「……ヘルプミー、みっくん」

「アイムソーリー、バットアイキャント」

「……ファック」

 酷い一言を言われた。

 落ち込みMAX。

「あなたをマークさせてもらう。操先生がいない間、私はとても不満がたまってる」

「へ? …そうなんすか」

「あの非常勤講師は見るたびに虫唾が走る。死んでしまえば世のため人のため私のため」

 残忍すぎる。

 御影さんに心から合掌。

 そんなに悪い人じゃないのに……。

「さようなら」

 言うだけ言うと茉莉沢は立ち去っていく。

 意味が分からない。

 こんなキャラだったのか、茉莉沢って……。

 三須のようなフェミニストに、私はなりたい。

「……」

「あ、そうだ大原」

 彼女が言った言葉で思い出した。僕の目的のひとつに、スカウトというのがあったじゃないか。

 大原なんてどうだろう。こやつなら高田とも難なくやっていけそうだし、これを機にクラスに馴染めたらいいなとか思っちゃったりして、うわ、僕ってなんていいやつなんだろ。マジ最高。


 そういうわけで現在に至る。

「で、みっくんは何をしたいわけ? それだけはまだ具体的に聞いてなかったよな」

「あぁ、それはね」

 もったいぶったつもりはなかったけれど、若干間を空けて、僕は宣言した。

「今から大原に、国家権力を動かしてほしいんだ」

 今回、空白・改行を除くと、ピッタリ4200文字だったりします。短いです。いつもは5000~6000文字くらいなんですけど。

 やっと由真を登場させられた……由真の登場シーンは絶対図書館しかないと思っていたので、達成感に満ち溢れてます。実は隠れお気に入りキャラ。あの性格も、きっと由真の“顔”の1つなんだろうな。

 本当はもっと長くなる予定だったんですけど……これ以上長くなると止まらなくなっちゃうかもしれないと思い至り、早々と区切りました。これから夏輝がどんな方法で国家権力を動かしていくのか、私もとても楽しみです(←考えてねぇのかよ)(はい。すみません)。

 最後に。次の更新は、多分土日くらいかも。まぁ、この物語、見てくれてる人なんてきっと全然いないと思いますんで、こっちも自由に更新させてもらうんですけど。仕事じゃないんで。趣味なんで。

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